5:解読
耳元でアラームの音がして、読書に集中していた意識が戻ってくる。
インフォメーションウインドウを開き時間を確認すると、ゲーム内時間で午後9時、現実では夕飯の時間として設定していた7時になっていた。
5時頃にログインしてからほとんどすぐにこの場所に来たことを考えると、約6時間ずっとここで読書をしていたということか。
読んでいた本を置いて体を伸ばす。VRなので気のせいだとはわかっているけれど、長時間同じ姿勢で本を読んでいたせいか目の疲れや首のコリを感じた気がした。
ステータスウインドウを開いて確認してみると、この部屋は簡易ホームに設定されているようでログアウト可能となっていた。
このゲームでは、基本的に宿屋のようなホームとして設定された場所でしかログアウトできないようになっている。
しかしこのゲームをプレイするためのディープリンカーには連続ログイン時間の制限が設定されている。連続ログイン時間が6時間を超えると警告が表示され、7時間を超えると強制的にログアウトさせられるのだ。
これは長時間のログインで体を動かさない時間が続かないようにするためで、健康と安全のためにも設定を解除することができないよう製造段階で機器に組み込まれているシステムとのこと。
強制ログアウトさせられると1時間ログインできないようになっている。なお連続ログイン時間は3時間以内なら15分、それ以上の場合は30分以上ログアウトして休憩すればリセットされる。
閑話休題、長時間ログインしていると強制ログアウトさせられる、しかし町の外やダンジョンの中などにはホームがないのでログアウトできない、そういった時にどうするのかというと、簡易ホームを使用するわけだ。
簡易ホームはテントなどの道具を設置して使用し、ホーム以外の場所でもログアウトできるようになるというものだ。ホームにあるログアウト時の回復速度上昇などの機能はないし、どこでも設置できるわけではないが、ログアウトしやすくなるためベータではダンジョンアタックや長時間の探索での必需品として挙げられていたアイテムだそうだ。
そしてこの簡易ホームは場所そのものに設定されている場合もあり、この書庫のような部屋だったり、納屋や東屋が設定されていたこともあったそうだ。
ログアウトはこの場所で問題なく行えるし、ずっと読書をしていただけだったからHPもMPも満タンなので回復速度上昇機能は必要なし。今の時間なら街中を歩いて宿屋を探すこともできるだろうが、時間がかかるし宿に泊まるにはお金もかかる。ここならログインしてすぐ本を読めるし、ゼル神父からも許可を得ているので、このままログアウトしてしまおう。
というわけで一度ログアウト。
~ ~ ~ ~ ~
ログアウトして体を伸ばす。
体は寝ていたけれど頭はしっかりと働いていたせいか、空腹感を感じながらお風呂と夕食の準備。今日は総菜やレトルトで済ますつもりでいたためすぐに用意でき、テレビを見ながら夕飯を食べる。
片づけをパパっと終わらせてお風呂に入り、湯船につかりながら先ほどゲーム内で得た情報を整理する。
最初に手に取った本は『そうせいのめがみさま』という絵本。さすがに最初は言語のレベルが低いせいか読むのに梃子摺ったが、30分もせずに問題なく読めるようになった。
内容はフェルシアンナ様やゼル神父からも聞いた通りの、九柱の女神様がこの世界を創生することだったのだが、どんな女神がいて何をしたのかが記されていて中々面白かった。
次に手に取った本は『始まりの街ファーリシア』。この街についての歴史などが記されている本だ。
この街の北側から西側にかけてノルファリス山脈と呼ばれる山々があり、その中で一番高い山が北西にあるノルファリス山だ。この山は世界一高いとされており、この山を通って女神様が世界へ降り立ったといわれている。そのためこの山の麓に神殿が建てられ、女神様にお参りする人が出てきたから神殿の前に教会を建て、その周囲に集まった人たち向けに店ができ、その周囲に家が建って街ができていったというわけだ。
そういった経緯でできた街であるため、国家には属さず中立で、教会が管理を行っている街とのこと。
南にある平原と西側の山を越えた先は海になっていて、平原の先に港町がある。
北側の山を越えると鉱山町があって、山脈にある鉱山からとれる鉱物資源を基にした鍛冶や細工などで栄えている。
東側には森があり、薬草や果実など豊富な森林資源があるが、奥のほうには昔から猛獣が住み着いており、瘴気が発生した今では凶暴な魔獣になっているとのこと。
森をさらに東に抜けた先には山脈から来た川が流れており、肥沃な穀倉地帯になっている。そこにあるのが豊穣をつかさどる女神ティルネスを祀る大神殿のある街ティルネシアということだ。
結構重要そうな情報もいくつかあり、後でみんなに話そうと考えながら読んでいると、言語スキルがレベル10に上がり、インフォメーションがポップした。
【スキル『言語』がレベル10になりました。レベル上限に達しました。】
【条件を満たしたため、スキル『言語学』がアンロックされました。】
消費SPは1。言語のレベルアップでSPは2になっていったため、迷うことなく取得する。そして再度ポップアップが。
【条件を満たしたため、スキル『解読』がアンロックされました。】
またか!と思ったが、スキルの内容からしてまだ読めない本を読むのに助けになるのは間違いない。こちらも消費SP1だったので即座に取得。すると今までつっかえながら読んでいたものがすらすらと読めるようになって、読破するまでの時間が大幅に短縮された。
3冊目は『植物学辞典入門編』。世界各地でよくみられる薬草や毒草、野菜などが挿絵付きで紹介されていた。極力わかりやすく書かれているようではあったが、それでもレベルが低いとはいえ解読なしでは読めなかったであろう難易度。
読んでいるうちに解読も言語学もレベル5を超え、さらには職業レベルまで上がった。職業レベルはその職業に見合った行動をとると上がるようになっていて、私の研究者の場合は読書も研究の一環として捉えられるようだ。
そうして読み終わるとさらにラッキーなことが。
【条件を満たしたため、スキル『植物知識』を習得しました。】
効果としては、鑑定時に植物系アイテムに限り詳細情報が得られるというものだけど、重要なのはそこじゃない。
それは読書によりSP消費なしでスキルを入手できる可能性があることだ。もちろん得られるスキルは限られているだろうけど、それでも十分、いやそれ以上だ。
読書意欲をさらにヒートアップさせながら次に読む本を探していると、1冊の本が目に入った。
背表紙にも表紙にもタイトルが書かれていないが、一目見ただけでもわかる独特な装丁と雰囲気、それでいながら偶然目に付くまで全然気にも留めていなかったという不可思議さ。
私は誘われるようにその本を開いた。記されているタイトルは『魔導の深淵の入口』。ページをめくるごとに本の中に引き込まれてゆき…。
半分を何とか超えたところでアラームが鳴ったのだった。正直後ろ髪がひかれる思いだったが、いきなり初日から自分で決めたルールを破るのも何だったのでとりあえず中断したのだった。
しかし、この本は読むのにかなり時間がかかっている。先に読んだ3冊と同じだけの時間をかけてまだ半分もいっていないのだから。
とはいえ言語学も解読もレベルが10を超えてからはかなりスムーズに読めるようになってきたし、おそらく残りは2時間もかからないだろう。
それに書いてある内容もかなり興味深い、いや重要そうなことだった。
思い返していたら無性に本の続きが気になってきたため、お風呂から上がって大急ぎで支度を済ませ、ゲームを終えたらすぐに寝れるようにしてからログインした。