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3:初ログイン

明日からゴールデンウィーク、高校の創立記念も合わさり今年は10連休という超大型連休になる前日の今日の午後3時、CUの正式版のサービスが開始された。

平日の昼間であることから、さすがに開始と同時のログインとはいかず、ログインする準備ができたのは5時になったときだった。

一緒にプレイする約束の友人たちだが、私だけ初めてなのもあって最初くらいは一人でやらせてほしいと言うと、みんなもベータの時にお世話になった人たちと約束があるため、一緒にプレイするのは明日からとなったから今日はログインするタイミングに注意しなくても問題ない。

明日以降の予定にしても、両親は旅行に出かけているし、友人たちとは一緒にゲームで遊ぶ以外の予定は入っていない。極力ゲームに集中するためにも宿題や準備を終わらせているので、連休中はほぼずっとゲームをしていられる。

…さすがに体に悪いだろうし、日課にしている運動は忘れずにやるようにしよう。起床や睡眠、食事などの時間もある程度決めてアラームをセットしておけば、連休中とはいえある程度規則正しく生活できるだろう。余り生活スタイルを崩しすぎると連休明けがきついし。

ディープリンカーと連動させているアラームのセットも終わったので、これで心置きなくゲームを楽しめる。ディープリンカーをセットし、ベッドに体を横たえてログインする。


「ダイブスタート。」




 ~ ~ ~ ~ ~




目を開けると、そこに広がっていたのは異世界情緒あふれる街並みだった。

石畳でできた道、中央にある球形のオブジェの周りは広場となっており、その周囲にはレンガ造りの家屋が立ち並んでいる。向こうにある建物は商店だろう、「ケビンの雑貨屋」と書いた看板がある。その隣は八百屋のようで、「リーベル野菜店」と書かれた看板の下ではエルフの従業員と鬼族の奥さんが値引き交渉をしているようでにこやかに笑いながら火花を散らしている。子供が走っているかと思えばその小柄な背丈に見合わぬ大きな剣を背負っていることから小人族の冒険者のようで、そのそばを通って行ったがっしりとした体格の小柄の男性はどうやらドワーフらしく豊かな髭を蓄えている。私が来ているのと同じ初期装備の『初心者の服』を着ている猫の獣人とリザードマンの二人組はプレイヤー、この世界では異邦人と呼ぶのだったっけ、が駆け寄ってきた人間の、こちらも同じ初心者の服を着ている異邦人と話しながらどこかへ向かっていった。

目に映るすべてが鮮明で美しく、そよぐ風は土のにおいや花の香り、屋台で売っているおいしそうな食べ物のにおいなどを運んでくる。

…肉の串焼きみたいだ、看板には1本10Gと書いてある。焼けるにおいでおなかが減ってきそうだ。その隣で売っているのは果実水で、オレンジとリンゴが入った木箱の前にある立て札にはどちらも一杯10G、コップ返却で5G返金と書いてある。

にぎやかな喧騒に沸く街並みを眺めていく。柔らかく降り注ぐ日光がじりじりと肌を焼く。…あれ、本当に焼けてる?


「…あっつ!」


焼かれるような痛みを感じてとっさにすぐそばの建物に飛び込む。建物の陰に入ると途端に痛みは収まった。

なんだったんだろうと思い、痛みがあった場所を見てみる。現在の服装は、初期装備である半袖シャツにズボンの『初心者の服』。痛みがあったのは直接日が当たった腕と顔、さすがに鏡はないので腕を見てみるが、特に異常は見受けられなかった。

なんだろうと考えていると、視界の隅で点滅するアイコンに気付いた。そのアイコンに意識を向けると、ウインドウがポップアップしてステータスウインドウに関するチュートリアルが始まる。ステータスウインドウを開こうと思えば開くことができるが、音声入力でもできるらしい。ステータスウインドウでは自分のステータスの確認・管理のほかに、所持金やアイテムインベントリの管理や装備の着脱、フレンドへのコールやメッセージの送受信などのゲーム内でのことからゲーム内専用掲示板や公式ホームページへのアクセス、さらにはあらかじめ設定した携帯端末での連絡やスケジュール確認といったことからログアウト機能の使用まで、大体の機能が集約されている。また基本的にステータスウインドウはプレイヤー、NPC問わず他人からは見えないが、許可をすることで一時的見せることは可能らしい。

チュートリアルを終えると、ウインドウの端にあるヘルプ欄でアイコンが点滅していた。開いてみると、ノスフェラトゥの種族特性についてで、確認していくと先ほどの痛みについての情報があった。


「陽光属性脆弱、かぁ…。」


種族特性の一つである陽光属性脆弱は、陽光属性の被ダメが倍になるうえ、日中に陽光下、つまり日向にいるとダメージとステータスダウンが起こるというものだ。

このゲームでは日の出が午前6時の日没が午後6時と、日が出ている時間が1日の半分となる。また現実との時間の流れも異なっていて、ゲーム内ではサービス開始時の3時の時点でゲーム内では朝9時、また現実での1時間がゲーム内では3時間と、現実の3倍の速さで時間が流れるようになっている。つまり1日ゲームの中にいれば、ゲームの中では3日過ぎているということだ。これで短時間しかログインできなくても、ゲームの中では長時間遊んでいられるというわけだ。

と、話がずれてしまったが、それでもゲーム内で半日の間外に出るだけでダメージを受けステータスが下がるというのは、いくら高いステータスと引き換えとはいえさすがにデメリットが大きい。これを含む属性脆弱系の特性については、『陽光属性適正』などのスキルによって軽減あるいは無効化できる。陽光属性は火と光の複合属性で、キャラクリエイト時に陽光脆弱のことは書かれていたため火と光は習得してあるが、複合属性を手に入れるにはある程度スキルが育つ必要がある。それまでの間ずっとデメリットを受け続けるのは、いくらステータスが高くてもなかなかきついだろう。


「ノスフェラトゥとってる人がいなかった理由はこれかぁ。てか、もしかして光属性も?」


ノスフェラトゥが持っている属性脆弱系の特性は陽光だけじゃなく光と聖もある。こっちも確認してみると、聖属性は神聖な場所や聖別された物品などによりダメージ、光属性ではなんと一定以上の光量がある場所でダメージとステータスダウンとなっていた。光属性適正を持っていたから日陰に入ったことでダメージを受けなくなったが、無ければ日中なら街中にいても、いや下手すると夜でさえ明るければ死んでいたかもしれない。そりゃとる人がいないわけだ。

現在ゲーム内時刻は午後3時。日没まではまだ3時間もある。それまでここで時間をつぶすしかないのだが…


「もしかしてここって…教会?」


神聖な場所代表と言っていい教会だった。ただ、この教会では特にダメージを受けているようには感じられない。中に入って見てもそれは変わらず、夜になるまでこの中で過ごすことはできそうだった。

教会の中を見てみると、入ってすぐは礼拝堂のようで、奥には9個の女性の石像があり、その手前には人間の神父さんがいたため、話を聞いてみることにした。


「こんにちは。当教会へようこそ。何かご用ですか?」


「こ、こんにちは。あの、私、ハルっていいます。よろしくお願いします。すみません、ちょっとお伺いしたいことがありまして。私異邦人のノスフェラトゥなんですが、この教会ではダメージを受けないようなんですが、何かあるんでしょうか?」


「おや、ノスフェラトゥとは珍しい。ああ、すみませんね。私はこの教会で神父を務めています、ゼルと申します。よろしくお願いしますね、ハルさん。ああ、そうそう。ダメージを受けない理由についてでしたね。それは、この教会が女神様方のお力による結界により守られているからでしょう。」


詳しく聞いてみると、この教会は世界を創造した9柱の女神が最初にこの世界に降り立った場所であることから全ての女神を祀っており、女神の力による結界が敷かれているとのこと。その中にはノスフェラトゥを生み出した冥府を司る女神ノクティウス様もいて、そのためノスフェラトゥが居ても問題ないどころか、光や陽光によるダメージを受けないとのことだった。まだレベルの低い光属性適正なのに教会に入った途端ダメージを受けなくなったのはこのおかげのようだ。


「ただ、他所の教会には穢れを祓うために聖属性の結界を敷いているところもあります。この街にはありませんが、他の町に行かれる際には気をつけた方がよろしいでしょう。」


「わかりました、ありがとうございました。」


そういってその場所を後にしようとしたが、まだ日が出ているため外に出れないことを思い出した。教会なら教典なり何か本が置いてあるかもしれないと思って、ゼル神父に聞いてみると、


「ふむ、貴方ならば問題ないでしょう。ついてきてください。」


そういって教会の奥へと案内してくれた。

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