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2:キャラメイク

所有スキル名を変更しました。

【掴み】→【握力強化】

「これがディープリンカーか。」


ゴールデンウィーク、そしてCUの正式版リリースを目前に控えた平日、学校から帰ってきた私は自室でヘルメット型の機械に見入っていた。

フルダイブ型VRシステム用インターフェース、ディープリンカー。友人たちからのプレゼントがついに届いたのだ。

正式版の抽選に当たった人は1週間前には届いていたとのことだけど、私は友人たちからのプレゼントによる招待だから、多少発送日がずれることはニューエイジエンジンから連絡が来ていた。

とはいえ、ここまでぎりぎりになると、リリース日に間に合わないんじゃないかとひやひやしたけど。

はやる気持ちを抑えながらも制服から着替えると、さっそく宅配で届けられた荷物にかぶりつく―――前にみんなにメッセージを送る。ついに届いたことを伝えると、すぐにメッセージが返ってきた。三者三様ながらも、内容と気持ちは同じだ。一緒にゲームできるのが楽しみ―――そんな思いに返信しつつも、封を開け、セッティングを行っていく。

幸いにもハード側の設定はすぐに終えることができた。我が家のネット回線は父のおかげで高速大容量のもので、プレイするには十分な環境が整っている。

お礼に今年の父の日のプレゼントは豪華にするべきかと考えながら、携帯端末との連動設定を行っていく。フルダイブ型である以上、ゲームをしていると何か緊急の連絡があったとしても気づくことができない。そこで、携帯端末と連動させることで、ゲーム内に居ながらにしてメッセージを読んだり返信したりすることができるわけだ。

外部で行える設定を終え、今度はソフト側の設定だ。ディープリンカーをかぶり、電源を入れ、身体データのスキャンやゲームのインストールを行う。

インストール待ちのもどかしい時間が終わり、ようやくプレイできる状況になった。とはいえ、まだ正式サービス前だから、できるのはキャラクタークリエイトまでだ。それでも初めてのフルダイブにワクワクする心を何とか落ち着けながら、フルダイブをするための身支度を整えていく。

最後にディープリンカーをかぶりベッドに横になれば、あとはダイブするためのログインワードを音声入力するだけ。

私は一つ深呼吸をして気持ちを整えると、ヴァーチャルの世界に潜るための呪文を唱えた。


「ダイブスタート。」




 ~ ~ ~ ~ ~




そこはまるで宇宙のようだった。

遠くで星のような小さな光点がきらめいているだけで、周囲には明かりはない。だけど視界はくっきりとしていて、自分の体はもちろん、遠くまではっきりと見渡せた。

ダイブした直後にいたのは、文字通り何もない空間だった。そこでCUのプレイを選択し、キャラクタークリエイトまでできることを確認して選択したところ、次の瞬間にはこの場所にいたのだ。


「初めまして、異界の魂よ。」


突如後ろから声をかけられ、振り返るとそこにいたのは美しい金髪の女性だった。白いマーメイドドレスに複雑な装飾の金の長杖を持ったその姿は、まるで女神のようだった。


「私はフェルシアンナ。あなたをこの世界にお呼びした、時空をつかさどる女神です。あなたのお名前は?」


本当に女神だった。

同時に、私の目の前に半透明のスクリーンがポップアップする。そこには【キャラクタークリエイトを開始します。プレイヤーネームを入力してください。】と書かれていた。案内に従って当初考えていた【ハル】という名前を入力する。


【重複がないか確認しています…………完了しました。重複はありません。使用可能です。決定しますか?】


よかった、無事に使えたようだ。YESを押して先に進める。


「ハルさん、ですね。よろしくお願いします。」


「は、はい。よろしくお願いします、フェルシアンナ様。」


「あら、ふふっ。ハルさんは丁寧な方なんですね。」


「あ、ありがとうございます。ハルでいいですよ。」


「ありがとうございます。では、ハル、と呼ばせていただきますね。」


やばい、受け答えがすごくスムーズで自然だ。全然NPCと思えない。それとも本当に中の人が居るのだろうか。全然判別がつかない。どちらにせよ、このまま人を相手にするのと同じように対応したほうが、こちらとしてもやりやすいし、いいだろう。


「この度ハルをお呼びしたのは、この世界オムスフィアを救っていただきたいからなのです。」


「この世界を救う、ですか。いったいどうしてですか?」


「はい、それは……」


話をまとめるとこうだ。

まず、このオムスフィアはフェルシアンナ様をはじめとする九柱の女神様によって創られたとのこと。

多種多様な種族が時に争い、時に助け合いながらも暮らしていたが、ある時、突如瘴気と呼ばれるものが発生したのだそうだ。

最初は世界の片隅の、何もない場所に発生したそれは、気が付けば世界のあちこちを覆うまでになっていたのだそうだ。

厄介なのはこの瘴気の性質。生物を蝕み、変質させてしまうのだが、この変質した生物――魔物――は、変質していない普通の生物を問答無用で襲うのだそうだ。人間など多少は耐性を持つ種族もいるが、それでもずっと瘴気に接し続けていると、瘴気にのまれてしまうとのこと。

そのためなかなか研究することもできず、取り除く方法も治療する方法も不明。

そうこうしているうちにあらゆる生物の生存圏は大きく縮小させられ、国交の断絶どころか、隣の町に行くことも困難になる有様。無事なのは女神様の力によって瘴気の浸食を防ぐことのできる、協会のある町や村くらいで、滅びてしまった国や種族もあるそうだ。

そんな中、瘴気は魂を侵食していることが判明したため、フェルシアンナ様たち女神の力により、異世界より瘴気に耐性のある魂を呼び、解決を依頼することになったのだそうだ。

うん、公式ホームページに書いてあるストーリーそのままだね。まさしく今ここがチュートリアルで導入部ということなんだろう。


「では、これからハルがオムスフィアで活動するための肉体を構築します。まず最初に、種族から選んでいきましょうか。」


すると、目の前に再度スクリーンが出てくる。そこには人間やエルフ、ドワーフといったメジャーなものから、鬼人や樹人、妖精といったプレイヤーとして使うにはマイナーなものまで、様々な種族が記されていた。

よし、ようやくキャラクタークリエイトだ。友人たちからは事前情報は聞いていない。聞いてしまっては面白くないからだ。とはいえ、種族とプレイスタイルくらいは聞いているので、かぶらないようにすれば問題ないだろう。


「各種族にはそれぞれ長所・短所があります。能力的な得手、不得手はもちろん、種族によって覚えられるスキル、覚えられないスキルがありますし、中には特定の種族専用のスキルもあります。詳細は種族名をタップすると見れますよ。」


そういわれてタップしてみると、簡単な説明と補正の入る能力、種族の特徴が表示される。そうやって説明を見ていくと、スクロールの最後に気になる種族を見つけた。



【ノスフェラトゥ】不死者であり、高い知性と魔力を持つ。

         int、min+補正、agi、dex-補正

         薬品無効、身体系状態異常無効、光・聖・陽光属性耐性脆弱



「すみません、聞きたいことがあるんですけど。」


「はい、何でしょうか?」


「このノスフェラトゥについてなんですが、薬品無効っていうのはどういうことなんですか?」


「ええ、この世界では、体力を回復するためのポーションをはじめ、一般的な薬品は生者のために調整されており、どの種族でも使えるようになっています。しかし、ノスフェラトゥはその種族的特徴から薬効が作用しないため、専用のポーションでないと効果がなく、また彼らは基本的に冥府にいて出てこないことから、専用ポーションの流通はなく、作成方法を知るものもほとんどいないのです。」


ふむ、なるほど。冥府に専用ポーション。新しい単語が出てきたけど、ここで何でもかんでも聞いちゃうのは面白くないよね。と、そういえば。


「そもそもノスフェラトゥ、不死者ってゾンビだとかスケルトンだとかのアンデッドとは違うんですか?」


「そうですね、ノスフェラトゥの中にもゾンビやスケルトンなどと同じ姿をした者もいます。ノスフェラトゥとアンデッドをまとめて不死者と呼びますが、両者の最大の違いは意思の有無です。ノスフェラトゥは街中でも普通に生活できますので安心して選んでいただいて大丈夫ですよ。」


「はい、ありがとうございます。」


こちらの懸念事項はお見通し、か。いや、これは前にも似たような質問をした人がいたのかもしれないな。まあ、これでノスフェラトゥを選んでも街中での活動に制限がつかないってわかったし、これに決めよう。


【種族をノスフェラトゥに決定しますか?決定した場合変更できません。】


YESを押して先へ。次はキャラの容姿のようだ。


「次は姿を決めます。あまり元の姿と大きく変えると、うまく動かせない場合があるので注意してください。」


現れたのは私の3Dグラフィックだ。違いは、ゲームということでデフォルメしてあるのか随分と美人になっているところと、種族としての特徴か、肌が青白くなっているくらいだろう。体のほうは特にいじる必要もないのでそのままにして、瞳の色を赤に、髪を白くして少し伸ばし、ポニーテールにくくらせる。うん、これでいいだろう。

次へ進むと、今度はスキルの選択だ。先ほどの種族の時も結構な量の選択肢があったが、今度はその倍どころか、10倍以上は軽くありそうだ。


「次はスキルの選択になります。初期スキルとして10個選択してください。」


この中から10個か。さすがにこれを全部見るのは、いくら時間があるからといっても手間がかかる。選ぶのにはさらに時間がかかることだろう。いや、待てよ。


「フェルシアンナ様のおすすめスキルとかってありますか?」


「すみません、それは教えてはいけないことになっているんです。代わりと言っては何ですが、他の方たちがよく選ばれているスキルなら教えることはできますが。」


むう、残念。女神様のおすすめスキルなら何か特殊なフラグかもしれないと期待してたんだけど。仕方がない、諦めて全部見ていくか、と思ったところで不意に気になったことを聞いてみた。


「じゃあ、誰も選んでいないスキルって教えてもらえますか?」


「!ええ、そちらでしたら問題ありませんよ。」


「なら、お願いします!」


よし!これで他の人に先んじることができるかもしれない。

他の人がとっていないスキルなら、何かのフラグになってても、私だけが先に進める。多少、どころかかなり博打になるけど、このゲームはプレイヤースキルがある程度あれば詰むことはないって話だし、10個も選べるんだから何も全部を全部そういったスキルを選ばなくたっていい。かける価値は十分にある。

ゲームが届くのが遅くなって、ベータテスターも新規組もキャラクリを終えたであろう今になったのは、マイナスばかりじゃないはずだ。

そう思って見始めたわけだけど、さすがに他の誰も選ばなかっただけあって、中々よさそうなスキルは見つからない。これはもう諦めたほうがいいかもしれないと思いながら見ていくと、一つ気になるスキルがあった。


「あれ、すみませんフェルシアンナ様。ちょっといいですか?」


「はい、なんでしょうか?」


「この【言語】っていうスキルなんですけど、このスキルがあるってことは、逆にこのスキルがないと会話したり文字の読み書きができないってことじゃないですか?」


「いえ、大丈夫ですよ。会話は一般的に使われている言語に翻訳されるよう加護を与えるので問題なく行えますし、読み書きができなくても、必要な情報はウィンドウに表示されるようになっていますから。」


ほうほう、それはつまり。


「ウィンドウに表示されない情報は読まないと手に入らないし、一般的でない言語で会話している種族もいるってことですよね。」


「ふふっ、それは秘密ですわ。」


秘密って、もう言っちゃってるようなもんじゃん。まあ、フェルシアンナ様も分かってるんだろうけど。だって思いっきり顔笑ってるし。


そんなこんなで一つ決まり、さらにもう一つ面白そうなスキルを見つけ、種族専用スキルでも一つ取った。

と言うか、ノスフェラトゥの種族専用スキル、かなり強力だったんだけど、どうして誰も取らなかったんだろう。強力な分制約もあったけれど、誰も取っていないのはおかしくないか。もしかして、ノスフェラトゥを選んでいる人かなり少ない、というよりほとんどいないんじゃないだろうか。まあ、確かに回復手段が限られるであろう序盤で、回復薬不可とかかなりきついから、人気がなくても仕方ないか。

ちなみに聞いてみたらノスフェラトゥは私一人とのこと。他にもデメリットが大きいからか、誰も選んでいない種族がいくつかあるそうだ。


閑話休題。残りはフェルシアンナ様と話しながら、必要そうなスキルを取っていく。

最後に決めるのは職業だ。フェルシアンナ様によるとステータス等に補正が入るが、選択肢は種族やスキル構成によって制限されるらしく、種族の時と比べても大分少ない。その中でも気になったものを選び、決定を行う。

そうして出来上がったキャラの確認画面が表示される。




名前:ハル

種族:ノスフェラトゥlv1

職業:研究者lv1

ステータス:

HP:25/25

MP:150/150

str:10

vit:5

agi:5

dex:10

int:46

min:30

スキル:

【言語】lv1:読み書きを行う。

【ドレインタッチ】lv1:手で触れているもののエネルギーを吸収する。

【握力強化】lv1:握力限定のstr強化。

【鑑定】lv1:物品等の鑑定を行う。

【魔力操作】lv1:魔力を操作する。

【魔力感知】lv1:魔力を感知する。

【火属性適正】lv1:火属性の魔力についての適正。

【光属性適正】lv1:光属性の魔力についての適正。

【int強化】lv1:intに+補正。

【錬金】lv1:錬金を行う。




このゲームにおけるステータスは、基本となる人間で以下のようになる。


種族:人間

ステータス:人間

HP:50/50

MP:50/50

str:10

vit:10

agi:10

dex:10

int:10

min:10


これに種族や職業、スキルによる補正が加わり、最終的なステータスが決まる。

とはいえ、本当ならここまで偏ったステータスには早々ならない。これは全ての補正でintが上昇する事によるシナジー効果もあるが、何よりもノスフェラトゥの種族補正が大きい。なにせそれだけで+25もあるのだ。

まあその分マイナス補正がかなり大きいと考えられるので、どれだけデメリットがきついのか少し不安なのだが。

ちなみに職業補正はdex+5、int+10、vit-5となっており、こちらも取得条件や-補正もあって結構大きい補正となっている。逆に誰でも取得できるスキルint強化の補正値は1。初期レベルなのもあるが、スキルではなかなか上げづらいということなのだろう。

ついでに言うとこのゲームではステータスはレベルアップでは上がらない。ではどうやって上げるのかと言うと、一つは強化スキルの取得。もう一つはレベルアップ時にもらえるSPを消費しての強化だ。SPは種族レベルと職業レベルのアップ毎に3、スキルのレベル5アップ毎に1取得出来る。

ただしこの方法は、種族によって上がりやすいものと上がりにくいものがあり、場合によっては1上げるのにSPを5や10も消費しなくてはいけない種族もあるとのこと。おまけにSPはスキルの取得にも必要で、上位スキルになるほど必要なSPも多くなるため、無闇矢鱈にステータスを伸ばすのには使えないのだ。

閑話休題、ステータスを確認していると、フェルシアンナ様に声をかけられる。


「できましたか?ハル」


「あ、はい。フェルシアンナ様。ありがとうございました。」


「いえ、かまいませんよ。けれど、その気持ちは受け取らせて頂きますね。」


「次にお会いできるのは、オムスフィアの中、ですかね?」


「ええ、そうですね。私が居るのは、始まりの街から少しばかり離れた場所になりますので、しばらく先になると思いますが。」


「じゃあ、頑張って会いに行きますね。」


「ふふっ、では私も、あなたが来るのを楽しみにしていますね。」


そして私は初めてのダイブからログアウトした。


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