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16:骸の聖女イリス①

重苦しい音をたてながら少しずつ扉が開いていく。

明かりはついていないのか、部屋の中は真っ暗でよく見えない。だが確かにそこに何かがいる気配を感じる。

ごくりと生唾を飲み込む。雰囲気にのまれて緊張する心を抑え、部屋の中へ足を踏み入れる。


バタンッ!


部屋の中ほどにまで入ると、誰も触れていないのにひとりでに扉が閉まった。咄嗟に振り向いたが間に合うはずも無く、部屋の中は暗闇に包まれた。

周囲を警戒していると、突如炎のような明かりが周囲の壁に灯っていく。部屋の入口から奥の方へ順々に灯っていく明かりは部屋の中を少しづつ照らしていく。

最後の明かりがついたとき、部屋の奥にそれが居るのに気が付いた。




女性のミイラだった。

元は美しかったであろうその容姿はすでに見る影も無く、やさしい笑顔をしていた筈の表情は狂気と嘆きに歪められて見る影もない。長い金の神はその色艶を失い振り乱されている。

死者の眠りを守るはずの白いドレスは、しかし邪悪な魔力に侵され黒く染まっており、身に着けている装飾品は強い力を放っているものの、その性質は祝福ではなく呪詛だ。

その身にまとう魔力は強大で悪しき気配を発し周囲を闇に飲み込むが、それでもなお高潔な魂が宿っていた名残か弱々しくとも美しい光を放っている。

それはかつて、虹を描いて人々を守り、導き、救い続けた聖女のなれの果て。今はすでに失われ、邪悪の徒となった亡骸。


【骸の聖女 イリス】


それがここ、ファーリシア教会旧地下墓地第1階層のボスの名前だった。


イリスが立ち上がり、こちらへと歩いてくる。その歩みは緩やかながら、今まで見てきたゾンビやミイラとは比べ物にならないくらいスムーズだ。

そうして目の前に来たイリスは叫び声を上げながらその腕を振り上げて―――




振り降ろされる直前、ギリっギリで何とか避けた。

あっぶなー!?さっきまでムービーシーンで全然動けなかったから躱せないかと思った。

全力で横に跳んだせいで崩れた体勢を直しながら元居た場所を見てみると、クレーターができていた。

攻撃力高すぎない?あのクレーター直径が私の身長くらいはありそうなんだけど。

防御力が無いので元々攻撃は全部躱すつもりでいたが、あんなものを見せられては1発も受けるわけにはいかないだろう。食らったら一撃でアウトだ。

バックステップで距離を取りながら魔術を構築、即時発動する。


「ライトバレット!」


選択したのは速射性の高いバレットにアンデッドの弱点となる光属性。

様子見ということもあって選んだ魔術だけど、レッサーゾンビ程度なら掠っただけで致命傷レベルのダメージだったんだ。ボス相手でも効果を期待できるはず―――


「うそでしょっ!?かき消されたっ!?」


だったんだけど、まさかのノーダメージ。

直撃したわけではなく、その前にはじかれた感じだった。手足が動いていた様子はなかったから、おそらくは装備の効果か何らかの特殊能力で無効化したのだろう。

問題はどこまで無効化されるのかだ。魔術が全て効かないのか、それとも特定の属性だけなのか。それとも威力が足らなかっただけなのか?そのあたりを調べないと対処のしようがない。

距離を保ちつつ再度バレット系で構築、今度は属性を変えつつ連射する。


「ファイアバレット!ウォーターバレット!ウインドバレット!ストーンバレット!ダークバレット!ソーラーバレット!」


光を除く基本属性5つと発展属性である陽光属性のバレット6発が次々と直撃していく。

陽光は完全に無効化され、闇も全然効果がないようだが、残りの属性はダメージこそ少なそうだが無効化はされていない。4属性についても、火は何かに遮られているのか本来の威力を発揮できておらず、風も速い弾速はこいつ相手ではいまいち効果を発揮しない。水と土は質量があるので消されにくいのか、そこそこ効いたようだ。それでも比較すると水の方が傷が浅い、か?逆に土は質量によるノックバック効果があるので距離を取るのによさそうだ。とはいえこのままでは決定打にはちょっと弱いか?

一先ずメイン属性を土と決めて術式を構築する。今回は先ほどの結果を踏まえ、守りを突破できるよう貫通性の高い術式を選択。


「ストーンジャベリン!」


現れたのは石でできた槍、それがバレットを上回るスピードで飛んでいく。

直撃、吹き飛んでいくボスを観察する。これならダメージはよさそうだ。

叫び声を上げるイリスを見ながら再度同じ魔術を構築、起動する。石のやりは先ほどと同じように飛んでいき―――


「………えっ?」


すり抜けた。防がれたのでも無効化されたのでも躱されたのでもなく、当たったのに攻撃だけそのまますり抜けたのだ。

あまりのことに唖然としている間に接近されてしまい、こちらを捕らえようと手を伸ばしてくる。それを躱して逆に投げようと腕を―――


「…はっ?……っが!?」


取ろうとした手がすり抜け、驚いた隙に首をつかまれた。


「ぐっ……!このっ…はぁっ!」


万力のような力で首を絞められる。その手に触れられた途端、呪い状態になった時と同じ体が重くなったような感覚が全身を襲う。とっさに首を絞めてくる両腕を掴みアーツ:アイアンクローを使って握りしめる。わずかに首を絞める力が弱まったところで脇腹を蹴り、隙間ができたところで体を捩り何とか脱出する。

手を振りほどいたところで体を襲う異常は消えたが、首を絞められていたためふらつく体で何とか移動しようとも、スピードはほぼ同じ。すぐに追いつかれて先ほどの焼き増しのように腕を伸ばされ―――


ザリッ


「――っくあぁっ!」


とっさに横に向かって身を投げ出す。崩れた体勢のまま元いた場所を見ると、先ほどまで見ていた場所とは異なる方向から突き出された腕だけがあった。

もしかしたら、と思い当たることがあったため立ち上がりながら魔力視を発動する。

するとそこには先ほどまで見えていた場所とは異なる場所にいたイリスの姿があった。


「やっぱり。これじゃないと見えないってことか。」


自分の姿を異なる場所に投影する能力、だろうか。音までは誤魔化せないみたいだが、動きが緩やかなため足音などはほとんどしないし、ドレスの衣擦れの音程度では注意していないと聞き取れない。

魔力視を使っていれば見えるんだけど、問題は魔力視の発動にMPを消費すること。魔力制御により効率化できているため、かなり消耗は抑えられているが、それでも少しずつ減っていっている。

まだMPに余裕はあるけど、このまま魔力視を発動しながら魔術で攻撃するとなるとちょっと足りないかもしれない。

となると―――攻略方法はこれでいけるかな?

相手との距離を調節して魔術を構築。起動し放たれる直前の状態で待機させながら伸ばされる腕を魔力視で見定める。

腕を取り、合気で転がしてうつぶせに地面に叩き付ける。そのまま頭部へ手を伸ばしアーツ:アイアンクローを使用する。ドレインタッチの併用により回復しながら、掴んだ手を起点に待機させていた魔術を放つ!


「ライトブラスト!」


零距離から放たれた光の砲撃は、今度こそ無効化されることなく直撃し、その衝撃でついアイアンクローを緩めてしまい吹き飛ばされる。

悲痛な叫びを上げながらのたうち回るイリスを見て、再度術式を構築・改変しながら追撃するため駆け寄るのだった。

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