1:プロローグ
初執筆、初投稿となります。よろしくお願いします。
「悠ちゃん、CrossingUniverseやろうよっ!」
私、柴藤悠が友人の佐々木叶恵にそう誘われたのは、新学期が始まってそう経たない、4月のある日のことだった。
CrossingUniverse、通称CUは、昨今話題のフルダイブ型VRシステムを利用した、世界初のFDVRMMORPGだ。
フルダイブ型VRシステムは以前から医療用として研究され、最近では設置してある病院も増えてきているものの、設備の大きさやコスト面もあって、中々一般には普及していない代物だった。
しかし、つい半年前、とあるゲーム会社が小型化、低コスト化に成功し、FDVRシステムを利用したゲームの発売を発表したのだ。
CUの売りは、何よりも現実と全く変わらないくらい鮮明で美しい世界と、普通の人と全く見わけがつかないAIで行動するNPCだ。特にNPCについては、先にプレイしていたベータテスターたちから、NPCと分かっていても人と同じように接してしまうとまで言われたくらい評判で、これらによりまさに異世界に行って冒険しているかのような気分が味わえるのだとか。
数か月前に行われたベータテストの抽選には、友人たちと一緒に私も応募したものの私だけが外れ、つい最近行われた正式版第1陣の抽選も・・・
「私もやりたいところなんだけどねぇ。あそこで外れてさえいなければっ!」
そう、見事に外れてしまったわけである。
まあ、それについては本当に、本っ当に残念ではあるが、仕方のないことなのだ。本当に残念だが。
だから次の第2陣の抽選を待つしかないと思っていたのだが。
「それについては大丈夫だよ。」
そう声をかけてきたのは、同じくクラスメートで友人の近藤颯希だった。
「大丈夫って、どういうことよ。」
「この前行われたベータのイベントの景品でね。私ら3人分の景品と引き換えに運営にお願いしてもらったんだ」
そうこともなげに言ってくる。
「いや、あれたしか十万くらいするじゃない。何やったのよ?」
「PVPのトーナメントだったんだけど、麗華が大暴れしてね。」
「すごかったんだよ―麗華ちゃん。予選のバトルロイヤルなんて無双ゲーみたいだったもん。」
「そこまでか。」
「そこまでだよ。いやほんと鬼気迫るって感じで。」
「悠ちゃんのためですからね、ちょっと張り切って頑張りました。」
そう言って入ってきたのは幼馴染の一条玲奈。私を含めたこの4人がいつも一緒のメンバーだ。それなのに私だけCUができないのは置いて行かれるみたいでいやだった。玲奈にはそんな感じの愚痴をぽろっとこぼしたこともあったが、まさかそこまでやるとは思わなかった。
「もらえるならうれしいけど、いいの?私で。」
「もちろん!絶対に悠を誘って一緒にやるんだって、ずっと3人で話してたんだから!」
「悠ちゃん、一人だけできなくてしょんぼりしてたもんねぇ。」
「なっ、ちょ、してないわよしょんぼりなんてっ!」
叶恵がそういってからかって来るので突っ込むも、颯希まで一緒になってにやにやとしている。
「私たちが悠ちゃんと遊びたかったから選んだので、ぜひ受け取ってください。ああ、でもお礼をしたいというならぜひ今晩体で痛い痛い痛いちょっまっ!」
「だったら最初からやるんじゃないわよ。」
後ろから胸に伸びてきた玲奈の手を取って軽くつねってやる。
全く、美人で文武両道(一部教科除く)でいいとこのお嬢様と、これでもかってくらいハイスペックなのにこれはどうにかならないのだろうか。」
「悠ちゃんに美人と言ってもらえるのはうれしいですが、せめて手を放していただけませんか痛い痛い痛いですっ!」
「先に出てきた手にお仕置きしてるだけよ。ていうか今心読まなかった?」
「悠ちゃん、口に出してたよ。」
「まじか。」
「マジマジ。それで日課は終わった?」
「日課じゃないわよ。」
「ええ、悠ちゃんとのふれあいは望むところですが、さすがに痛いのはちょっと。ああ、でも悠ちゃんが望むのなら…」
「そんな趣味無いから。わかってて言ってるでしょ?」
ええもちろん、と返ってくる声にため息をつく。まったく、驚きが全部吹き飛んでどこか行ってしまった。
とはいえ、ずっとつるんできた友人たちだ。ゲームの時だけとはいえ、一人仲間外れになってしまい寂しくもあった。
だから、嬉しさと感謝がこみあげてあふれて。
「ありがとう。楽しみにさせてもらうわ。」
3人が返してくれた笑顔が涙でにじんだのは、空がまぶしすぎたからだと思うことにした。