第5話 大観光
次の日の朝の朝食で、我々は、貴族様とはこうでなくっちゃ、と思える体験を早速味わうことができた。
異世界で初めてまともに頂いた朝食は、実に素晴らしかった。一流ホテルに来ているようだ。家族全員がくつろぐことができた。
まず、主食はパンケーキ。
そして、ゆで卵にベーコン、新鮮なサラダ(どう見てもベビーリーフとレタス、トマト)、それに大きくて丸いブドウ。それぞれが、白くて底の深い皿に盛られて、食堂の中央に並べられていた。ゆで卵以外は、それぞれ木のスプーンが添えてあった。
飲み物は紅茶に、リンゴのサイダー、ジンジャーエール、ぶどうジュース。
双子のメイドの姉にあたるレイは、みんなの飲み物を注ぐのに専念していた。
「お父さん、このリンゴサイダー、めっちゃ美味しい!」と大樹。
「本当! 異世界…アースーンで炭酸ジュースが飲めるなんて思わなかった!」と桜。「レイさん、お代わりくださいな!」
レイは「はい、お嬢様」と微笑んで陶器の入れ物を持って、桜の木のカップに注いでくれた。
妹のチャイの方は、私のパンケーキのお代わりを、厨房から持ってきてくれたところだ。
チャイが「ハチミツになさいますか? ベリーのジャムにいたしますか?」と尋ねたので、私は(眼精疲労から開放されたとはいうものの習慣で)ベリーを所望した。ブルーベリーとベリーも私は好物なのだ。
ブルーベリーもそうだが、元の世界と似た食材があるのか、食事が終わったら聞いてみよう。
萌は、私以上にパンケーキにはまり、ハチミツをたっぷりつけて平らげていた。十枚を過ぎたあたりで、怖くなり、私は彼女の胃袋におさまった枚数を数えるのをやめた…。
チャイがパンケーキにジャムを塗っている間、私は紅茶が入ったカップを両手で持った。カップの暖かさが春の早朝のひんやりとした空気には心地よかった。
チャイがベリージャムをたっぷり塗ってくれたパンケーキを皿に受け取りながら、私は「ありがとう」と言った。チャイはうなずき、無言で顔を赤らめた。
…昨晩から思うのだが、ここの使用人は、「ありがとう」と言われることにあまり慣れていないようだ。
私が「みんな、このパンケーキ、本当においしいねえ」と言うと、大樹は「生きてて一番美味しい!」桜は「サムさん、ジャックさん、美味しいごはんありがとう!」
サムとジャックの嬉しそうな顔といったらなかった。二人とも、子供のように頬を緩めていた。
ちなみに、メイド長のアイルと、仕事は引退しているが小間使い程度はしているというマリーの二人は、皆より早起きし、この時間は朝市に出かけていて留守だった。
みんな、よく働いてくれるので、我々家族は感謝の言葉を素直に口にした。元々、我々三木家は、美味しいものがあると正直に口に出す傾向がある。
「ベーコンが美味しいわー」と萌の言葉で顔をあげると、彼女は遠慮なく、自分の皿に積み上げた肉の山をフォークで突き刺しては口に運び、血色の良い顔でほうばっていた。
あれだけパンケーキを食べて、肉を盛るか。
「サムさん、ベーコンのお代わりあるかしら?」
「もちろんですよ、奥様」
サムはテーブルからベーコンが入っていた皿を取り上げると、厨房へ通じる、アーチ型にくり抜かれた壁の奥へ姿を消した。くり抜かれたアーチは赤いレンガで囲まれ補強されている。その奥から、すぐに脂のはじける音と、甘い香りが漂ってきた。
桜が何かおかしなことを言ったのか、レイとチャイは片手で口元を同じようにおさえて笑っていた。
二人とも、アイルに比べるとずっと子供らしく、歳は十ハで、姉とは十も年が離れているという。
マリーの子たちは、みんな黒髪だ。母が黒髪なのだから、これは不思議ではない。が、アイルは光を受けると少し赤っぽく見え、双子たちは緑がかった黒に見えた。
ついでに言うと、サムとジャックは金髪だ。
「自分で食事を作らないでいいなんて、何年ぶりかしらー。レイさん、このお紅茶、とても気に入ったわ。なんていう名前のお茶なのー?」
「ダンジリンでございます、奥様」と、にこやかなレイ。
おや…。ここでも似た言葉が出てきたぞ。
ダージリン。ダンジリン。
スティーブ・ジョブズ。スティーヴン・ジョブズ。
私は萌と目を合わせ、小首をかしげた。案外、アースーンの世界と僕らの世界は、いとこのように近い関係なのかも知れない。
湯気の出ている皿を指を立てて下から支え、テーブルの元の場所へ置くと、サムは片手でアーチの下にもたれかかって言った。
「昨日から、別世界の人のお口にこちらの食事があうのか心配でしたが、もう安心しましたよ」
「私も安心したよ!」と桜。
「嬉しいねえ」とサム。
「桜ちゃんは、何が好きだい?」とジャック。
「桃でしょ、プリンでしょ、カレーも好き」
「プリンなら今日のおやつに出来るな…」ジャックは父親をみやり、彼がうなずいたのを見ると、桜に言った。「おやつはプリンでございますよ、お嬢様」
「バンザイ!」桜はフォームを持ったまま両手を上げたので、さすがに萌が注意した。
食事の後、アイルとマリーが戻ってきた。
二人は香辛料を買いに行っていたのだ。エミンという町まで朝市に行ったついで、と言っていたが、明らかに異世界人である我々に気を遣ってくれていて、町の歴史書、それに子供たちのために絵本と軽い読み物も買ってきてくれていた。
大魔法使いのジョブズが家族全員に読み書きの能力を身につけて、こちらに送り込んでくれたのは、実にありがたいことだ。特に子供たちには、何らかの勉強をさせてあげないと。この世界で生きていくなら、ここでの、それなりの教養が必要だろう。
「うちの家族はみんな本が好きだから、助かるよ」私は言った。
「図書館で一人十冊、みんなで四十冊借りたりねえ」萌も懐かしげに言った。「マリーさん、エミンっていう町には、図書館はあるのですか?」
「ええ、ございます。ただし、読み書きができることと、年間一人、十ドンを支払う必要がありますが」
「あ、お金がいるのか。単位はドンっていうんですね。言葉の響きに重みがあるな。一ドンでは何が買えるのかな」
「小ぶりのリンゴですとか、小魚一匹というところです」アイルが答えた。「ご主人様、あたし、朝市から帰る途中、良いことを思いついちゃったのです。皆さんで、『道』を作りませんか?」
「道?」家族全員が唱和した。
エミンまでの道に限らず、農奴の住む村までの道も含め、ここらの街道はひどく曲がりくねっているという。
というのも、大密林がこのあたりには広がっているからで、沼もあるし、大岩もある。それらを避けて道を作っているので、出かけるというのは、なかなか大変なことなのだ。ちょっと歩いてコンビニへ、というわけにはいかない。特に子供たちや、老人にはきつい。
食事が終わったあと、お茶が出され、アイルがテーブルの中央に地図を広げていた。
どこまで信頼性がおけるのか分からないが、エミンの町から北の方角にこのお屋敷があり、ここから南東の、エミンの町に近いところには、とても大きな教会がある。
エミンの町自体は、城壁に囲まれていて、門番には、よく見知った者か、名のある人の招待状を持つ者、町長に通過証を発行してもらった者、通過税を払える者、あるいは貴族であることを示す、緋色の靴を履いた者しか通れないことになっている。
「そこで、みなさんのお力で、エミンの町までの、直線で広い道を作るのはどうかと思ったんです。魔法を使えば一瞬で着きますが、昨今、魔法使いは疎んじられていますので。徒歩か馬車での移動が一番だと思うのです。直線で歩けるなら、今朝のように母さんが斜面をずり落ちそうになることも…」
マリーが氷のような視線を向けたので、アイルは慌てて言い変えた。「いえ、このお屋敷からなら、せいぜい歩いても十五分程度で着けることになります。そしてその広い街道ができたら、領地内の村や、別の街道へ通じる道を順次、作っていくと良いと思うのです」
私は即座に言った。
「いい考えだと思うよ。何にせよ、みんなの役に立てないと、貴族だなんて堂々と名乗れない。桜、アンパンマンの出番だよ」
「んー? 何するの?」桜はにんまりした。
「家族で連携プレーをする。昨日みたいにね…。そういえば、ダボンを治してやらないといけないな…」
「お言葉ですが、一週間くらい、放っておいても良いかと思います」とマリー。
「敗血症とか、破傷風になったらいくらなんでも可哀想だ」と私が言うと、家族以外はちょっと分からない顔をしたが、アイルが「イツキ様はお優しい…」と潤んだ眼で見つめてきたので、コホンと咳払いした。
ダボンは東の塔の二階の部屋に寝かされていたが、うめき声を上げて、真っ青な顔をしていた。
子どもたちには、部屋の外に待っていてもらうことにして、部屋に入ると自己紹介などすっ飛ばし、私はさっさと魔法を使った。
彼の切れた筋肉と血管をつないだ。割れた骨を合わせ、傷ついた皮膚を接着した。固まった血の塊を除いた。ほんの少し、自分のカロリーを分け与え、失った血液の生産が活発になるように…と集中した。
私の中のカロリーが減り、おなかがなった。ダボン以外が「えっ」と言った…。
「痛みが…痛みが消えた」ダボンは自分の手で血だらけの包帯をとって、指先を動かした。
「なんだ? 今のは魔法なのか? ほとんど力を感じなかったぞ」
マリーも後ろで不思議そうな声を出した。
「かなり入り組んだ魔法を使われましたね」
私は、ダボンの傷ついた腕に手をそえた。
「あまり、無理はしないでほしいな。僕はその腕を『修復』したんであって、『治癒』の魔法を使ったわけじゃない。でも、君とマリーの反応から、自分の考えていることがうまくいきそうなんで、ちょっと安心したよ」
何か言おうとするダボンだったが、我々は彼が回復したのを見届けると、そこにいるようにと言い添えて、部屋を出た。
マリーから『囲いの魔法』を聞いていたので、ダボンのいる部屋全体にそれをかけた。
囲いの魔法とは、簡単に言うと、何でもしまっておける箱みたいなものだ。
ざっと箇条書きで説明するとこんな感じだ。
・あらゆるものは魔法で格納することができる
・格納されている間、中のものはエネルギーを失ったり、腐ったり劣化することはない
・格納するにはそれをおさめる容器が必要であり、容器に入らないものを格納することはできない
・格納したものには名前をつけることができる
・格納され、名前をつけられたものは、一般には魔法書と呼ばれる
・魔法書の中に、さらに魔法書を格納することもできる
プログラマである私は、すぐに合点がいった。変数みたいな魔法があるんだな…と。
萌はドラゴンボールに出てくるホイポイカプセルみたいだといい、大樹はロールプレイングゲームに出てくるアイテムを複数しまっておける宝箱みたいだといい、萌はドラえもんの四次元ポケットみたい、と言った。
『囲いの魔法』は、格納する重量によって、消費する力が決まる。
部屋ごと魔法をかけたので、私はあれだけ食べたのに、急激にカロリーを消費し、軽く立ちくらみを起こした。
でも、これで当分、ダボンのことは気にせずに行動できる。彼は部屋の中で一時停止状態で、私が死なない限りは歳もとらないし、塔が崩れることがあっても部屋ごと無傷ですむ。
その日、お昼をすませたあと、我々は飲み物の入った小さな樽をそれぞれ肩から下げ、道を作りに出かけて行った。途中までは街道をてくてくと進んだが、アイルがここからです、と告げてからは、森の中へ分け入った。
アイルはまた半透明の羽根をはやすと、空へ飛び上がり、地上の我々に手を振って先導した。
例によって、萌の千里眼を使わせてもらった。私は彼女の肩に左手を置き、エミンの町までの障害物を見て取ると、森を進みながら、クリップボード代わりの板に画鋲で留めた紙に羽ペンで書いていった。
アイルからの報告も聞いて、分かったのは、幅十二メートル、高さ八メートルの大岩が、お屋敷とエミンを直線でつなぐところから、やや西寄りのところにあった。大密林だけあって、メタセコイアのような巨木も五本、そびえているし、大岩ほどではないにしろ、とにかく岩が多い。こんな土地では開拓も進まないだろう。
『道』を作る作戦はこうだった。
両手にスーパーパワーを持つ桜が、まずエミンとお屋敷をつなぐ直線コースに入るまで、岩を転がす。
直線コースに入っているかは、上空からアイルに誘導してもらう。
チャイとレイは、作業中、人や獣が近づいてこないか、これも空中から安全確認。
万が一、力を入れすぎて、大岩が坂のあるような所で転がり始めたら、右手で制止するため、常に大樹が前方を確認して進む。
途中、大岩を転がしても、倒せない木や、潰せない岩があれば私が処理する。手で引く抜くなり、焼き払うなりする。
町までは、直線距離にすれば一.五キロ程度。
現状では、お屋敷からは、左に迂回する街道があり、二、三分も歩けば、でこぼこの谷を降りていく険しい場所がある。その先は、浅瀬の川を石伝いに飛び歩く。そのあと、農奴たちの住む村を過ぎ、村を出ると今度は道が右に大きくカーブして、左手にエミンの町の城壁が見えてくる。その頃には、後ろを振り向くと、大密林のかなたに、お屋敷の屋根がちょっと見えているのがうかがえる。
道はやがて、牛二頭が十分に歩けるほど幅が広くなり、平らになり、左手は低い草しか生えない土地が続き、やがて道はさらに左に折れる。そこからはレンガで舗装された立派な道路になる。
この茶色の舗装された道路が、エミンの城門まで続いている。
時間にして、片道三十分以上。直線距離の二倍の道のりであり、前述の通り、安全な道とは言い難い箇所も多い。大雨の日が続くと、普段は穏やかな浅瀬の川が濁流となり、あふれることもあるという。
「勝手に道など作って、誰かに反感を買ったりしないかな」
私は家族以外の全員に聞いてみたが、密林を切り開こうとする者は誰もいないし、誰もが困っている。直線の道を作って、そこから農奴たちの住む村へ通じる道も作ってあげれば、さらに喜ばれるだろう、とのことだった。
では、やってみようか。
さて、我が家で一番のパワーを発揮する桜は、岩をラクラクと動かした。
彼女は右脚にも力を授かっているので、踏ん張りもきく。
「岩は転がすんじゃなく、できればそのまま押してみてくれー」と私は言った。萌と並んで、彼女の後ろに立っていた。
「ほーい」と桜が答えて、幅十二メートルの岩に両手をつき、「うんしょー」と押し始める。
途端に大岩はアクセルを踏み込んだ車のように突進し、ズゴゴゴという地響きが林の中に響いた。
岩が通ったあとは…簡単に言えば、地肌がひっぺがされたような有様だった。埋まっていた小さな岩は砕かれるか、辺りに粉々に散ってしまい、木は倒され、根本から引き倒され、引きずられて根っこごと出てくるか、ちぎれるかして、大岩の向こうで小山になった土砂の中に埋まっていた。
「もう少し…加減しろ」苦しい声が、大岩の向こうから聞こえてきた。大樹が岩の向こう、百メートル先で用心していたのだが、あっという間に積もった小山に埋まってしまった。
岩は右手で制していた。大樹は右手の力で土砂を一気にはねのけると、荒く息を吐いていた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」と桜が声をかけた。
私と萌はあらゆるものを透かして、大樹の受難が見えていたが、桜は岩が大きすぎて、向こう側が見えないのだ。
「大丈夫。しかしお前、この分じゃ、一時間もしないうちに道、作ってしまえそうだぞ」
「うん、頑張るー」
私は心配になったので、大樹のそばについてやることにした。いくらなんでも、桜は力が強すぎる。右手しか使えない大樹には荷が重い。
「わが娘、アラレちゃんになった…」と岩をこえてひとっ飛びし、息子のそばに降り立った私は言った。
「何それ?」と大樹。ジェネレーション・ギャップだな。
「ドラゴンボールの作者が、ドラゴンボールの前に連載していたマンガだ。女の子のロボットがアラレちゃんと言うんだが、めちゃんこ強いんだ」
「ふーん…」大樹はしばらく考えていたが、「お父さん、本を書いて売ったらどう? 地球で人気のあったお話を書いたらいいんじゃない?」
少し考えたが、私は「だめだ」と答えた。「この世界にたとえ著作権がなくっても、そういうズルはダメだ」
大樹はしばらく考えていたが、最後は黙って頷いた。
幸い、アイルが空で赤く点滅して、方向を示してくれたので、見当違いの方向へ進むということはなかった。
途中、鳥の巣が木の上にあることに萌が気づき、巣を別の木に移動したことを除けば、順調に開拓の道は切り開かれていった。
直線距離のコースに入った時、先にお屋敷か、それともエミンの方の街道へつなげたものかと迷ったが、桜が不意に言った。
「あたし、だいぶこの力に慣れたよ」
止める間もなく、桜は、お屋敷に向かって大岩を突き飛ばした。
そして右脚でジャンプ。また右脚でジャンプ。すごい速さで、あっという間にお屋敷の前にたどりつき、自分が突き飛ばした岩を受け止めた。
間髪をいれず、岩を抱えて持ち上げると、走って我々が呆然と立ち尽くしているところまで引き返してきた。
これ…無双すぎる。
「あとは、ちょっと下るだけだね!」
「桜はすごいな。…僕は何で右手だけ特別になったんだろう」大樹がちょっと落ち込んでいた。
桜は、「お兄ちゃん、お仕事、お仕事! 一気に終わらせるから、下の道で待ってて!」
私は大樹を抱えあげて、その場所まで、アイルがチカチカと点滅している場所まで抱えあげて、飛んでいった。
桜が押して進める大岩は、およそ十五分で村からカーブしてくる道に合流したが、大量の土砂と折れた樹木の混合物を前方に押上げていたので、私はその土砂をどうしたものかずいぶん迷った。
アイルたちが降りてきて、舗装された道の両脇にでも積み上げればいいと言った。
しかし…。
私はとりあえず、樹木と土砂を分別して、道の左手と右手とに分けた。ついでに、樹木の方は枝を切り払い、葉を取り除いた。これで、土砂だけの山、枝を切り払った丸太の山、枝の山、葉っぱの山ができた。
アイルは「すごいです! この枝の山、暖炉の焚付に使えます。持っていきますね」と魔法を使って、その山をさっさと宙に浮かべ、お屋敷にめがけて一緒に飛んでいってしまった。まったく有言実行の娘だ。
「この丸太…町の材木屋に売れますわ」とマリーが珍しく微笑んで言った。「このように分別されるとは。見事な魔法の使い方です」
「日本人のもったいない精神と、ゴミの分別出しが身についていたおかげねえー」萌が頷いた。
私は気になっていたことを聞いた。
「この丸太、本当に売れるのかな。少しはお屋敷の家計の足しになりますかね」
「もちろんです、町の材木屋は、家具職人、木靴職人、もちろん大工たちにも材料を卸しておりますから。わたくし、早速町へ行って、話をつけて参りましょう。レイ、チャイ、この木材を見張っていなさい。誰かに何か聞かれたら、トレント家の新しい領主が道を作って得たものだと言いなさい」
「はい! お母様!」双子たちは丸太の山の両脇に立った。
その後、私たち家族は、本格的に道の舗装にかかった。
といっても、深く根をはっていて、切り株状態になっている木や、岩を片付けるだけの作業だ。それと、単純に大岩にぶつかって横へふっ飛ばされた木もまだあったし、土砂だって似たようなものである。
私は道に残っている植物に火をつけて燃やし尽くし、灰になったあとには、仕分け済みの土砂を放り込んだ。
作業中、ふと思った。
大魔法使いのジョブズは、魔法が土木工事に使われていると知ったらどう思うのだろう、と。
大義も大事だけど、目の前に困っている人たちがいるのなら、具体的にそこから動くべきだと思うのだけれど…。
ひととおり終わって、子供たちが次はどうするのかと聞いてきたので、私は物思いから覚めた。
私は、魔法で桜の大岩を完全な球体に加工した。そして、表面を圧縮して元の十倍は固くし(その分、大きさは元の六割程度に縮んだ)、お屋敷からエミンの町まで、転がしてくれるように頼んだ。
「それなら、僕とやろう。桜はお屋敷から、岩を転がすんだ。僕はここにいて、受け止める。なるべく、まっすぐ転がすんだぞ」大樹は私に聞いた。「道を固めたいんでしょ?」
「そうだ。なるべく固く、平坦になるように頼むよ。転がす前に、穴になっているようなところは土砂を詰め込んで…と。それと、大樹がお屋敷から岩を転がして、桜が下から突き飛ばすほうがいい。妹の方が力が強いのに、引け目を感じることはないぞ」私は大樹の頭をポンポンとたたいた。
「それじゃ、桜。玉転がし、始めようか」
「オッケー!」
というわけで、兄妹で何トンあるか分からない巨岩をころがしまくったので、三十分もしないうちに、道はかたまり、四車線分はあろうかという広い道が出来た。密林が取り除かれたので、お屋敷もしっかり見える。
最後に、道がまっすぐ見えるように、魔法を使って、左右の草だの、張り出している枝などを真っ直ぐにカットした。
木の根っこごと撤去したとはいえ、いずれはまた草で覆い尽くされる、となると、やっぱりレンガで舗装したほうがいいな…。そんなふうに、私は心配していた。プログラマの仕事というのは、作ったあとの保守管理も考えておかなければならないものだ。
エミンまでは、なだらかな坂になっていた。これだけの面積を削って、樹木を取り除いてしまうと、台風でもきたら土石流までにはならずとも、地表がごっそり剥がれたりしないか、その辺りが心配だった。私は地質のことまでは分からない。マリーに、町に山師がいないか、聞いてみなくては、と思った。
「お父さん、これで完成だよね?」と桜がつぶやいた。
あ、いかん、いかん。
「そうだ、完成だ。二人ともご苦労だったな」
ねぎらうと、二人ともおなかが減ったと言って笑った。
長年ブラック企業で働いてきたせいで、心配性になっていた私だった。
これからは、考え方を変えないといけないな…。
作業が終わったので、カットして出来た土砂の山からまた分別作業を行い、資材の山を増やしていたところ、マリーが職人たちを連れて戻ってきた。
木材屋のコーナン・ドイル、鍛冶職人のヒルデ・ゲンガイ、家具職人のフレドリック・ブラウニーの三人は、いずれも頑固そうな目つきで、顎の角ばった男たちだった。あとで握手した時に分かったが、皆、指が太く、硬さも鋼のようだった。
印刷業者のグーテン・バルク。こちらは清潔そうな真っ白のシャツを着込み、何やら毛皮のコートを羽織っている。柄の部分が金の孔雀の形にあつらえたステッキも持ち、こじゃれた身なりをしていて、顔つきもやんわりとした雰囲気。堂々としていて計算高そうな目はしているが、威張ったところはなく、経営者として優秀そうな人物だった。
他に仕立て屋のダイアナ・ジョーンズ、という私と同い年くらいの女性がいた。白い羽をたてた、大きめの革の帽子をかぶり、紫色のワンピースの上に、絹のショールを巻いていて、足元は銀のハイヒールとしか思えないものを履いている。
マリーとダイアナ、グーテンは馭者付きの馬車でやってきて、その後から、職人たちがぞろぞろ歩いてきた。
エミンの城門はすぐそこに見えていた。せいぜい、資材を積み上げた私たちの今いる場所からは三百メートル。馬車でやってきたグーテンとダイアナは、少なくとも職人たちよりも稼いでいるのは間違いなさそうだ、と私は考えていた。
「ほう、大密林の巨木を十四本…。マリー女史の仰ったとおり、枝もきれいに刈られていて、申し分ないですな。これなら二十万ドンでお支払い致しますよ」
木材屋のコーナンは、マリーが私の方に頷いてみせたので、こちらに向かって握手を求めてきた。私が名乗り、手を握り返すと、ちょっと意外そうな顔をした。
「あなたがトレント家の新しい領主様、イツキ様ですな。このたびは…」
ふと彼が言葉を切って、私の後ろを呆然と眺めているので、皆、不思議そうにそちらを見た。
「この広い…道はなんだあ?」と素っ頓狂な声を出したのは、鍛冶職人のヒルデで、小柄だが頑丈そうな角ばった体つき、真四角の変わった黒いボタン付きの緑のつなぎを着ており、靴は先が丸まった木靴だった。背が低く、一番後ろから前から歩いてきたので気づかなかったと見える。
「ふむー。この木材は、目の前の道から…? 一体誰が」と丸ネガネをかけて、黒ひげを伸ばしているフレドリックは言いかけて、ハッと私の方を見た。
私はマリーを見た。マリーは静かにうなずき返すばかり。私は覚悟を決めて話しだした。
「この道は、私が作りました。正確には、私たち一家がですが。実は、私は魔法使いでして。ただ、これだけは言っておきますが、私はこの土地で家族と共に平和に暮らそうと思っています。そこで、まず皆さんのお役に立つことをしたい、とこう思った訳です。明日は、トレントの領地内にある畑のある村まで、道を作るつもりです。あと、教会へもね。その時はまた、木材が出ますので、査定をお願いできるでしょうか、コーナンさん」
ちょっと戸惑ったコーナンだった。
「ええ、密林の中の樹でしたら、質が良いので私の方は問題ありません。しかしなんですな。あなたは『良き魔法使い』を名乗られますかな?」
ジョブズの記憶を引っ張り出すと、良き魔法使いというのは、帝国に反乱しかねないというので皆殺しにされたとある。そして、トレント家の主が暗殺されて…エミンの町は、今は帝国領。それなら…
「私はただの魔法使いです。実は異世界からやって来ましてね」
「ほう、異世界人!」とグーテンがステッキを軽く宙に投げて、すぐ握り直した。「話に聞いたことがありますが、本物を見るのは初めてですな。どおりで、変わった衣服を来ておられる。ああ、それでマリー女史はダイアナ嬢をお連れになったのですな」
マリーは頷いた。「こちらの世界の衣服を、新しい当主様とその方々にあつらえてもらいたくてね」
なるほど。マリーが珍しく朗らかだったのは、木材から得られるお金で、衣服をはじめ、何かと物入りになるという問題が解決したからなのだろう。実際的な女性だから。
「他に異世界から来ている人はいるのでしょうか」私が言うと、グーテンは首を横に振った。
「はるか昔、魔法が強力だった時代には、異世界から優れた技術者を召喚し、アースーンはすべての世界の頂点に立った…そんな話が伝説として残っているだけですよ」
「聖典の中に出てくる逸話の一つじゃ」と、ゲンガイが言った。他になにか言いたそうだったが、彼はその場では何も言わなかった。
一同、そこでしばらく腰をおろし、今後のことを話し合った。マリーは気を利かせて、ワインとりんごジュースを馬車からおろして、木製の湯呑のようなものを配り、皆についで回った。
ダイアナは、午後から早速、お屋敷で皆の寸法をはかり、当主として間違いのない服飾をそろえて見せます、とはりきっていた。彼女の父母は教会に住んでいるので、道の開通は願ったり叶ったりだと嬉しげだった。
職人たちからは、この世界でどんな機械やサービス、売り物があるのか。また、取引のことや、世界情勢などを聞き出すことができた。
木材の一部を私自身が買い取り、萌が欲しがるタンスや衣装かけをフレドリックに発注し、ゲンガイには明日、相談したいことがあるので屋敷に来て欲しいと約束を取り付けた。
グーテンには、この世界のことを把握するために必要な書物のことを聞き、メモをとらせてもらった。
「しかしですな、イツキ殿。まずはしばらく、エミンもそうですが、この世界を観光なされてはいかがかな? 書物も大事ですが、実際に『ただの魔法使い』としてこの土地に貢献したいと言われるなら、それが一番ですぞ。それにまた、観光でお金を使っていただければ、皆、それだけでも嬉しいでしょうしな。羽振りの良いところをお見せなさい。清廉潔白な人物というのは、目には見えにくい。このように自ら働いて、何かを成し遂げる。あなたには実際的なことをしたい、もしくはしなければという職業意識みたいなものが、見て取れますな。まあ、私も、実際に良い取引をさせていただいたので、ご忠告申し上げるのですよ」
確かに…。
自分のすることで、実際に喜ぶ人たちの顔を見てみたい気がした。私は素直に礼を言った。
こうして、知り合えた全員に挨拶をし、仕事を発注することが出来た。実際、皆、仕事をもらえて上機嫌で引き上げていった。
私はマリーに聞いた。
「二十万ドンをもらえたけれど、いろいろ発注して、手元には十七万ドン残りました。これでお屋敷全員の食費などは何ヶ月くらいまかなえそうですか?」
マリーはにっこりした。そうやって機嫌よく笑ったところは、やっぱりアイルに似ている。ワインを飲んで少し顔を赤らめているマリーは、若い頃にはきっと髪の色以外は、アイルに似ていたのだろう。
「半年は楽に過ごせるでしょう…。明日の仕事で、二つの道を開通させれば、両方合わせて、今日と同じ金額、といったところでしょうね。イツキ様、グーテンは出版業を行っているので、世の中のことには精通しております…」
私は頷いて、手元のメモを見返した。
「ええ、あの人のご意見はもっともだと思います。マリーさん、明日の仕事が済んだら、三日は休みをとって、この世界の観光をさせてもらいますよ。買い物もしてみたい。楽しませてもらいます」
「ええ、そうなさって下さいまし。私たちの世界のことを見て回ってもらえれば…」
私は子供たちを引き寄せて言った。
「元々、家族旅行に出発して、こうなってしまったんだから、家族には楽しんでもらいたいんです。この先、何があるかわからないけれど…頑張って生きていくためにもね。いい思い出づくりっていうのは、そういうものですよね」
マリーは目を細めて、頷いた。
次の日、道の開通は、午前中で終わってしまったが、マリーと相談して、コーナンには家族旅行が終わる頃に、新しくできあがった木材のことを知らせることに決めた。
「あまり出来すぎる魔法使いですと、誰もが利用しようと尋ねてくるでしょう。それに…正直なところ、トレント様のように暗殺されるリスクがないとも限りません。最初のうちは、そこそこ出来る魔法使い、とふれこんでおきましょう」
「それと、広範囲に土地を削ってしまってから言うのも気が引けますが、山師がいたら相談したいのです。エミンにはいますか」
「分かりました。探しておきましょう」
そうして、旅行当日。
衣服はまだダイアナから届いているはずもなかったので、マリーとアイルに協力してもらって、魔法の力でよく見通そうとしないかぎり、誰の目から見ても貴族様御一行としか見えないようにする「幻惑の魔法」をかけてもらった。
私はずっと、ジャックとアイルのことが気になっていたが…二人の様子を見ていると、大丈夫ではないかと思えた。ジャックには、ショックだったろうが、ずっと好きあっていた男と女である。特に道を開通させてからは、アイルと笑い合うようになっていた。
そして馭者つきの馬車をお屋敷の玄関まで呼びつけ、よく晴れた日の九時頃に、我々は二度目の家族旅行へ出かけることになった。一度目は失敗したので、実質上、これが本当の、最初の家族旅行になるのかも知れない。
私たちが元いた世界では、植物の栄養素がどんどん低下していた。理由はいろいろあるが、アースーンではそのような悲劇的な時代ではないらしい。
同じリンゴでも、より甘く、魚や肉に至るまで、栄養価の高い土地ということは、毎日の食事から明らかだった。
サムとジャックの料理が美味しいのは、ここの植物がまだ劣化していないことのあらわれでもある。
さて、グーテンに紹介状を書いてもらっていたので、エミンの町へと我々は入っていった。
家族全員、城門を通った途端、まず遠くにそびえる塔に驚愕した。
朝日を受け、白く輝く尖塔…。先が細く尖っていて、下に行くにつれて横に広がっていて、山のように見える。ところどころ、縦に大きく裂けている部分があった。
「驚かれたでしょうなー」馭者のおじいさんが声をかけた。「ありゃー、大昔、地下に広がっていた大洞窟を地上に持ってきたもんですよ」
「魔法で?」
「魔法でさ」おじいさんは頷いた。「風景をも変えてしまう力…。今じゃ見慣れてはいますが、帝国に町を吸収されたり、『良き魔法使い』が囚われるようになってからは、こんなおいぼれでも、考えてしまいますじゃ。魔法はどこからきて、どうして去っていこうとしているのかなってねえ」
それから、水上マーケットを訪れた。
舟に積まれているのは、果物、干し魚、ルビーやサファイヤの宝飾品。マーケット全体が、建物の間の水路を通っていた。また、多少の雨が振っても大丈夫なように、また日よけのため、薄手の黄色い生地を建物の間に幾重にも張り渡していた。干しぶどうを買い、家族みんなでりんごジュースの入った竹の水筒を抱えた。
私たちは小さな小舟に乗り、珍しいもの、初めて出会う人たちに目をキラキラさせていた。
水路の終わるところで、我々は船から降りて、路地を抜けた。
我々の馬車が先回りしてその先で待っており、馭者のおじいさんが軽く頭を下げた。
その次は図書館へ言った。
国立国会図書館並に巨大な建物だった。
エミンは町といっていたが、かなり重要な土地に違いない。地下は五階まであり、上はこれも昔、鍾乳洞だったものを地上に持ち上げて、中を改装したものらしいが、八階あった。おおきな敷地で、公園もあり、そこにあるベンチでくつろいでいる人達もいる。
受付で先に家族四人分のドンを払うと言って、コーナンのすすめがあったので、かなり多額の寄付金もそろえて出した。その上で、正直に異世界から来たことを話し、魔法と異世界へ行くための本について尋ねてみた。
「少々、お待ち下さい」
受付の女性は首から下げているネックレスの先端に付いている、透明のピラミッド型のものに向かって話しかけた。
間もなく、受付の奥で影が揺らめいたかと思うと、真っ白なヒゲを胸元まで垂らし、杖までついている老人が現れた。
「異世界人のイツキ様ですな。館長のグルマと申します。この度は寄付を頂き、お礼を申し上げます…。して、異世界からきたあなたは、元の世界へ帰ろうとしているのですかな?」
「子どもたちのために。出来るならそうしたいのです」
グルマ館長は、首を振った。
「異世界から…生身でそのまま移動したのであれば、なんとかなる道もありましたでしょうが…。ふむ…」
「我々は、肉体を再生されたと考えていましたが…」
「あまりに、あなた方は、この世界のもので再構成されておりますな。つまり、この世界に楔を打ち込まれたようなものです」
「望みはありませんか」
グルマは子供たちを見つめた。
「人間には、とても出来ますまい。魔族…いやいや…魔王でもなければ」
「魔王はどこにいるんですか?」
受付の女性もグルマも呆気にとられた。
「失礼。子供でも知っていることなので…」とグルマ。
「魔王とその軍隊は、北極におります…。帝国は間もなく、魔王軍に戦争をしかけるという噂です」と受付の女性が苦々しげに呟いた。「勝てるはずなどないのに」
「普通の人間は、魔王に会えるのですか?」
私はだんだん自分に自信がなくなってきた。あまりにもこの世界のこと、特に最新の情報に疎すぎる。ジョブズたちは、中間世界でどのくらい過ごしたのだろう。1年だろうか。2年だろうか。それとも、もっと?
「会おうと思えば会えないことはないでしょうが。何しろ魔王は北極におりますからな…。相当な準備が必要です」
図書館を出たあと、オープンテラスのある喫茶店で、昼食にした。
料理を待っている間、萌が私に言った。
「無理に、元の世界に帰ろうなんて考えなくてもいいのよ。ブラック企業でまた死にかけるの?」
「正直、あたしは友達に会えないのは寂しいけれど」と桜がはっきりと言った。「ジャックもアイルもレイもチャイもマリーもみんな大好き! あとはこっちの学校に通えればいいよ」
「僕も学校には行きたいな」と大樹。
「お父さん、お金の心配がなくて、みんなが喜んでくれることが出来るこの世界、僕は好きだよ。食べ物もおいしいし。今のところ、ダボンを除けば、不親切な人なんていないし。お父さんは本当に、元のひどい世界に帰りたいの?」
「正直に言えば、お前たちさえまともに育ってくれれば、異世界でもいいと思ってる。ただ、ここでの暮らしになれても、ある日突然元の世界に戻されるとか…」
「それはないわよ」と萌が遮った。
「あたしたちは一度死んだんだから…。あなたは考えすぎなのよ。あたしたち、ここで貴族になれて嬉しいし、あなたが暗い顔をするばかりの元の世界なんて帰りたくないのよ」
「そうだよ!」と大樹。
「今が一番いい!」と桜。
「いい、あなたはひどい目に遭いすぎて、幸せを受け取る心構えがなくなりかけていたのよ。そんなんじゃダメ。それにジョブズさんたちは、あなたに義務を押し付けたりはしなかった。だからといって無視できないのは分かるけど。ね、幸せを感じていない人間には、結局、人を幸せにはできないんだわ」
三日の間、私たち家族はいろいろなところへ行き、たくさんのものを見て、友達になってくれる人にも出会った。
そして魔法の力以外に、初めて自分は変わったな、と思えるようになった。
きっと、元の世界では本当に瀕死に近く、鬱にもなりかけていたのだろう。
家族と過ごせる時間は甘く、旅は楽しかった。
どんな世界でも幸せになって、多くの人と分かち合えなければいけない。
旅の終わりに、ようやく私はそう思えるようになっていた。