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親分

 イチに連れられて来た場所は、魔王城の地下だとは思えない立派な屋敷が建てられていた。門構えも仰々しく威風堂々としていた。まるで別世界に来たような気になる。


「オーガってなんかスゴイな」

「うん?どうかしたんですかい?」

「いや、コメの農産も効率的に考えられている。それにこんな立派な建物も建てらるのか。本当にスゴイな」

「ふふ、本当にあんさんは素直な御仁だ。だからこそ、親方様に会わせてもいいと思ったんですがねぇ」


 イチは嬉しそうに笑いながら、門を通って屋敷の中へと入っていった。スレイヤーも辺りを見渡しながらワクワクしながら門を通った。門の先には庭があり、青白い小石が敷き詰められている。小石たちで山を作り、その上に草木が植えられていた。


「こういうのを幻想的っていうのかな?綺麗だな」

「庭園のことですかい?あっしには見えやせんが、ここの雰囲気は好きですねぇ」

「イチさんもわかるねぇ」


 二人で庭の話をしながら、屋敷の玄関にやってくると赤オーガの老婆が立っていた。


「婆やさん、お客人をお連れしました」

「イチ殿、勝手に連れてこられては困ります」

「わかっています。ですが、こちらの御仁はあっしが認めた御仁。親方にお目通りを」


 婆やさんとイチがしばし黙ったまま見つめ合う。スレイヤーはどうすればいいのか分からず、黙ったまま二人の沈黙が解けるのを待つしかできなかった。


「わかりました。姫様に話してみます。しばしお待ちください」


 婆やさんは背中を向けて屋敷の中へ入っていった。十分ほど待っていると、婆やさんが戻ってきた。


「どうぞ。姫様がお会いになるそうです」


 どうやら許可が出たらしい。


「あっしはここで待ちやす。行ってきなんせい」

「イチさん。世話になったな」

「何を言うんです。あっしの一撃を正面から受けた気概。こちらこそ自らの未熟を教えてもらいやした。感謝しておりやす」

「イチさんは剣士だね。本当にありがとう」


 スレイヤーはイチに深々と頭を下げた。イチは照れくそうな苦笑いを浮かべていた。


「もうよろしいか」

「お待たせしてすみません」


 婆やさんの声をかけられスレイヤーは屋敷の奥へと歩き出す。


 しばらく薄暗い廊下を歩いて行くと、突き当りに豪華な絵が描かれた襖が現れる。


「姫様、お客人をお連れしました」


 襖の前で頭を下げて婆やさんが声をかける。


「はいり」

「はい」


 許可を出した声は若い女性の声だった。


「失礼いたします」


 婆やさんが襖を開けると、広い部屋の奥にある御簾ミスの向こう。クッションらしき物に寝滑った女性がいた。


「姫様、ラミア様からのお客人です」

「あの蛇女があたいになんのようや?」


 婆やさんが部屋に入り、スレイヤーが続いて部屋の中に足を踏み入れた瞬間、首を切られたような殺気がスレイヤーの体を襲う。

 スレイヤーその一歩を踏み出したまま足を止め、深呼吸を一つした。


「私はラミア様配下のスレイヤーと申します。この度はオーガ族が作りしコメを分けて頂けないかと参上しました」


 祖父に習った通り、息を吐くことで肩の力を抜いて恐怖を押し込める。スレイヤーは広い部屋の中央を通り、御簾の前に来て腰を下ろす。その勢いのまま、頭を下げながら名乗りと目的を告げた。


「なんや、えろう気合の入った御仁やね」


 親方様は黒い肌をしているのだろう。少しだけ見える御簾の下からのぞき込めば黒い足が見えている。


「どうやら、我らが主食であるコメを分けてほしくてここまで来なさったそうです」

「なんや、ホンマにそれだけか?」

「はい。本当にそれだけです」

「ただでもらえるとはおもてへんよね?」


 気を削がれたのか、殺気は無くなった。しかし、今度は面白いモノを見つけたように、声色が嬉しそうになる。


「はい。代価は支払わせて頂きます」

「お金なんていらへんよ。困ってないしね」

「では、何を差し出せば交換していただけますか?」

「そやね。なんや面白いことしてみよか」

「面白いこと?」

「そや。うちがまだ若い頃、人間たちとようやった遊びや」


 御簾が開き、姿を見せた親方様は美しいオーガだった。全身が真っ黒い肌、赤い瞳が肌と相まって美しく、着崩した着物が豊満な胸を露出している。


「姫様、このような者にお姿を見せるなど」

「婆、黙れ。暇なんじゃ」

「身も蓋もない」


 親方様の言葉に婆やがあきれる。


「スレイヤーと言ったな。私の名前は瑠璃姫や。今からする遊びについて説明へ」


 遊びの内容は簡単だった。今から数時間、瑠璃姫様から逃げ切れば勝ちという単純なもので、もしも捕まればどうなるのか。


「捕まれば、殺す」


 命を懸けたデスゲームをしろと言っているのだ。


「承知しました」

「殺す、そう聞いても引かぬか。良いな良いぞスレイヤー」


 瑠璃姫は嬉しそうにスレイヤーに近づいてきた。


「褒美はコメ。罰は死。始めようぞ。死を賭けた遊びを、さぁ主は逃げい。範囲はこの階層全てや、制限時間は二刻。楽しみや」


 俺は与えられた逃げる時間を使って屋敷から飛び出す。途中イチさんが玄関に腰かけていたが、挨拶する時間もない。


「頑張りなさい。あっしは応援してますよ」


 イチの声が聞こえた気がするが、スレイヤーは返すことなく階層内を走り出した。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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