米騒動
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ラミアの眷属である四姉妹との出会いは、スレイヤーに平穏な日々をもたらした。魔王城に来た時は家族もいなくなり孤独を味わっていた。
オーク先輩たちには食料として見られ、罠にはめてからは命を狙う敵となった。来る日も来る日も戦いに明け暮れ魔王城での一カ月はすぐに過ぎ去った。
そして、一カ月で新たに出会った四姉妹はスレイヤーを兄と呼んで慕ってくれるようになった。
「兄さん。これは何に使うんですか?」
次女のライラは、一番スレイヤーに懐いている。スレイヤーとしても調理場での仕事を手伝ってくれているのでありがたい。ライラは元々家事全般が好きだったようで、料理を作るのを楽しんでいる。
「それはコメって言ってな。最近肉が減ってきたからな。新しい食材が欲しいと思って手に入れてきたんだ」
「コメですか?」
「そうだ。見たことないか?」
「ないです。私たちは肉食ですので、基本的にお肉があればいいと思っていますので」
「そうか。俺は結構好きなんだぜ。これに大豆があれば豆ごはんや豆腐が作れていいんだけどな」
「大豆?豆腐?」
スレイヤーは自分が食していた物を思い浮かべて涎が出そうになる。
「知らないか?」
「はい」
「そのうち手に入ったら作ってやるよ」
「楽しみです」
ライラが喜んでいる横で、不貞腐れた顔でライダーが槍の手入れをしている。ララとラピスには、今日は狩りを頼んだので来ていない。
「それで?その食材はどこで取ってきたんだ?」
ライダーが会話に入ってきたことで、ライラは少し膨れた顔をする。
「これか?これは丁度よく魔王城の地下で栽培していたから拝借してきた」
「魔王城の地下で栽培?もしかして盗んできたのか?」
ライダーは驚き、立ち上がる。
「盗んだわけじゃないさ。ただちょっともらっただけだ」
「おい、地下のコメを管理しているのが、誰かわかっているのか?」
ライダーはコメの存在を知っているようで、スレイヤーの行動を咎めるように怒り出した。今にも斬りかかって来そうな雰囲気に、スレイヤーも悪いことにしたのかもしれないと頬をかく。
「いや、知らないけど。ヤバい奴なのか?」
「かなりヤバい。地下の居住区でコメを栽培しているのは一種族だけだ」
「それは?」
ライダーに答えを求め、疑問を口にしながら唾を飲み込む。
「鬼人族だ」
「オーガ族?あの頭に角が生えている種族か?」
「そうだ。奴らは身体能力が高く。オークなどよりも遥かに危険な種族なんだぞ。そんな奴らからお前は盗みを働いたんだ。これはラミア母様にも報告しないといけないからな」
ライダーは慌てて調理場を出て行った。その光景にスレイヤーは頭を掻いてライラを見た。ライラも困った顔で「どうしましょう?」と首を傾げていた。どうしようもないので、せっかく収穫したコメが傷まないよう使うしかないだろう。
とりあえずは乾燥させて水分を飛ばす必要がある。水分を飛ばした後は、魔法で乾燥を速めて、ある程度乾燥したところで脱穀に入る。脱穀してもまだ水分が抜けきらないので、もう一度乾燥させて食べる分を籾摺りしていく。
最後にぬか層を取り除く作業を行うために精米していく。ぬかは漬物を作るときに仕えるので壺に保存しておく。
「よし、コメの工程はこれで終わりだな」
「一日仕事でしたね」
「手伝ってくれてありがとうな」
「いえ、乾燥も魔法でできましたし、兄さんとの作業は楽しかったですよ」
「そうか?ならいいが」
二人がのほほんとした時間を過ごしていると、ライダーが調理場に入ってきた。
「スレイヤー」
「なんだ。うるさい奴だな」
ライダーに名前を呼ばれてスレイヤーはため息交じりに応える。
「母様がお呼びだ。すぐに来てもらおう」
「これからコメを炊くとこなんだがな」
「そんなことはどうでもいい。早くしろ」
ライダーに急かされて、スレイヤーは精米を終えたコメ十キロを担いだままラミアの下へ向かった。なぜか調理場に置いていくのはもったいないような気がしたのだ。
「ラミア母様、スレイヤーを連れてまいりました」
ライダーは少し緊張した面持ちでラミアの寝室へと入っていく。
「失礼します」
スレイヤーも上司であるラミアに礼を尽くすために挨拶してから入室した。
「来たかえ」
赤いネグジェを着こんだラミアが、気だるそうに上半身を起こしてスレイヤーを出迎える。ラミアの姿に妖艶な雰囲気を感じてしまう。スレイヤーは頬を赤くする。
「お呼びにより参上仕りました」
「堅苦しい挨拶はいい。オーガと戦争をする気か?もしくは私とオーガを戦争させたいのか?」
気だるそうなラミアから威圧が放たれる。スレイヤーは意に介した様子はない。一緒にいたライダーはラミアの圧に当てられたようだ。
「どちらも、いいえです。オーガの持ち物であることは知りませんでした。返せと言われれば返しますが、美味しい物なので勿体ない気がします」
「ふむ。美味いのかえ?」
「新コメですので、かなり美味しいです」
スレイヤーの言葉にラミアが喉を鳴らす。
「母様」
そんなラミアを窘めるようにライダーが母を呼ぶ。
「ウォッホン」
罰が悪そうにラミアが咳払いをして、喉の音を誤魔化した。
「それはオーガたちの物だ。許可なく使用することはできん」
「ならば許可を頂いて参れば問題ありませんか?」
ラミアの言葉にスレイヤーが答えれば、ライダーは何を言っているのだと睨んできた。だが、ラミアは目を輝かせて頷いている。
「そうであるな。オーガが許可を出すのであれば問題なかろう」
「母様っ」
ライダーはラミアの発言に驚き、母を呼ぶ。スレイヤーはライダーを意に返さず、片膝を突いてラミアに頭を下げた。
「承知しました。では、オーガに許可を取り付けに行ってまいります」
「うむ。頼んだぞ」
ラミアは弾んだ声でスレイヤーを送り出した。すでにライダーは蚊帳の外になっており、二人の会話は終わりを告げた。
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