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竜人族 7

 黒頭巾を被った鬼は単身でドラゴンキャッスルへ踏み込んでいた。ドラゴンキャッスルは現在竜人同士で争っていた。

 その情報を掴んだオーガ族の瑠璃姫は、一番の側近である黒頭巾の鬼、イチを使者として使わせていた。


「お前がオーガの使いか?」

「そうだ」

「オーガにしては偉く小さい奴だな」


 イチの前にいる竜人族八竜剣の一柱、アジ・ダハーカ。漆黒の鱗を持つドラゴンが座している。


「それが問題?」


 竜人族の中でも最強であるアジ・ダハーカに対して、イチは一切引くことなく睨みを聞かせる。


「くくく、いいねぇ。どうだ?俺の嫁にならねぇか?」

「お断り」

「なんだ?ここに決めた奴でもいるのか?」


 どうやらアジ・ダハーカの告白は本気のようで、イチに断られるとも思っていなかったようだ。


「いない。けど。お前の物にはならない」

「いないなら、これからじっくり口説くかね。それでオーガの姫さんは俺に加担してくれるのかい?」

「そう。その代り、竜人族はオーガの配下になる」

「配下?おいおい冗談だろ。どうして自分より弱い奴の配下にならないといけないんだ?」


 瑠璃姫を侮辱するような発言にイチの姿が消えてアジ・ダハーカの首に刃が当てられる。


「次に姫様を侮辱するなら殺す」


 イチが本気であることがアジ・ダハーカもわかったのだろう。背中に冷や汗が流れた。


「身体能力だけならば俺たち竜人と変わらないか。あながち嘘でもなさそうだ」

「それは間違い。竜人族よりもオーガの方が身体能力は高い」

「はっ!本当に面白い女だ。この俺を相手にそこまでの啖呵切る奴は竜人族もいねぇぞ」

「事実を言っただけ」


 イチの物言いにアジ・ダハーカは高笑いで応える。


「兄者、本当にオーガと手を組むのか?」


 アジ・ダハーカを兄者と呼んだのは、白い鱗を持つアータルという竜人族だった。


「アータル。これは俺が決めたことだ。文句でもあるのか?」


 アジ・ダハーカはイチに見せていた気安さを消して、殺意と悪意に満ちた目で弟アータルを見る。先ほどまで悪態をついていたイチですら、アジ・ダハーカが恐いと一瞬思った。


「白けちまったな。よう、イチとか言ったな。俺はオーガに手を貸してもいい。だが、こいつみたいに本当にオーガと手を組むのか疑問に思っている奴もいるようだ。どうだ?ここで面白い趣向を凝らすってのは?」

「趣向?」

「そうだ。この島には勇者御一行様と裏切り者の竜人族が手を組もうとしてやがる。そこでだ、勇者パーティーの誰か、もしくは裏切り者の誰かを仕留めてきてくれないか?」


 アジ・ダハーカの提案にイチは頷くことしかできなかった。機嫌を悪くしたアジ・ダハーカの覇気はイチを恐れさせるのに十分な力を持っていた。


「よし、決まりだな。アータル。お前はイチに付いていけ」

「どうして私が?」

「あぁ?俺の言うことが聞けないのか?」

「いや、そういうわけじゃ」

「なら行けよ」


 アジ・ダハーカの威圧に押されるようにアータルは頷くことしかできなかった。


「話はこれで終わりだ。俺は気分が悪い。ここから出ていけ」


 アジ・ダハーカに追い出される形でイチとアータルは部屋から出た。


「おい、オーガの娘よ」


 アータルはイチに嫌悪するような視線を向ける。


「なに?」

「我は竜人族として生まれたから、兄者とこれからも生きていかねばならぬが。だが、主は違う」

「何がいいたい?」


 視線こそ嫌悪に満ちているが、アータルから出てきた言葉は意外なものだった。


「兄者は本当の悪だ。悪いことは言わん。兄と手を組むことは止めておけ」

「弟であるあなたがそれを言うの?」

「弟だからこそ分かることがあるのだ」


 アータルの目は真剣だった。


「私にはどうすることもできない。これは我が主が決めたこと」

「そうか、忠告はしたぞ」


 アータルはこれ以上話すことはないと歩き出した。


「どこにいく?」

「勇者パーティーを倒すのだろう。案内しよう。現在も魔海の魔物と竜人族が勇者へ攻撃を仕掛けているはずだ」

「あなたはどうしてアジ・ダハーカから離れないの?」

「あれでも血を分けた兄だ。俺だけでも味方でいたい」


 アータルの応えにイチはそれ以上質問することはなかった。二人は海岸に止まっている人間族の船へと向かった。


 竜人族は現在、八竜剣であるアジ・ダハーカとアータルの二人対八竜剣の残り五名が対立関係にあった。五人は穏健派であり、アジ・ダハーカのような危険思想に反対して人間族と手を組むことを選んだ。

 それに対して、アジ・ダハーカとその弟アータルは、強い者をトップとする弱肉強食を訴え、竜人族の血で血を洗う戦いを望んだ。

 その情報を聞きつけた瑠璃姫はイチを使者として、オーガ族と竜人族の同盟を結ぼうとしていた。これにより竜人オーガ同盟対竜人人間族同盟が対立する構図が出来上がっていた。


「どうやら上手くいったみたいだな」

「スレイヤー。あんたの言っていた通りになったな」


 スレイヤーはイチとアータルが去っていく姿を見つめながら、イチに着けていたノミの報告を受けていた。


「全てはオーガを、そして竜人族を引き釣り出すための策だ」


 スレイヤーは全て思惑通りに行ったことをほくそ笑み。次の策に向けて姿を消した。



 

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