竜人族 6
スレイヤーはツララを連れて、一度魔王城へと戻ってきた。魔王城には四つの区画が存在する。元々ラミアが拠点を構えていたベルゼブブ、魔狼が獣人魔族を従えるアモン。この二つが魔王城の地上階層を二十ずつ分けて生活をしていた。
現在ではラミアの失脚があったため、ラミアの配下であったオークやサイクロプスは地下階層へと拠点を移していた。
スレイヤーの現在の所属はオーガ族の瑠璃姫配下になっている。ただ、特殊部隊として自由行動が許されているため、人間族も冒険者として活動していた。
「戻った」
だが、スレイヤーは魔狼の住まうアモン階層に足を踏み入れ、魔狼の前にある椅子に腰を下ろす。
「よう、我らが主よ」
酒を片手にスレイヤーを出迎えた魔狼は巨大な椅子に深々と座っていた。
「中間報告だ。そっちの状況はどうなっている?」
「あの嬢ちゃん。抜け目がねぇな」
魔狼が嬢ちゃんと呼んだ相手は、ラミアの後釜となった瑠璃姫のことだ。オーガ族は強靭な肉体と仲間意識が高い種族なのだ。ただし、魔法が使えず、魔法の攻撃に弱い。そんなオーガ族の動向を魔狼に探ってもらっていたのだ。
「何か変わったことでもあったのか?」
「いいや、主だって動いたところはないな。死天王としての仕事を順調に起こっているだけだ。だが、お前が言っていたイチとかいうオーガの姿は見かけねぇな」
「イチさんか」
瑠璃姫の側近である彼女がいないということは、何か仕込みをしているということだ。
「それで?そっちは何かしら進展があったから帰ってきたんだろ」
「ああ、どうやら竜人族が魔族を裏切って人間族につくようだ」
「ほう、あいつらは特別な扱いを受けてるからな」
「知ってるのか?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。これでも死天王の三席だぞ」
魔狼は狡猾な男である。情報の大切さをわかっている男だ。
「今回の戦闘でバジリスクを倒した」
「ほう、奴は竜人族の仲間でもかなりの手練れだぞ。苦労しただろ」
「まぁな。一応無傷だったが。奴の戦闘力は危険だ」
「さすがだな。無傷か」
魔狼は驚くというよりも、楽しんでいるように笑っていた。
「それで?これからどうするつもりなんだ?」
「どうもしないさ。このまま瑠璃姫にこのことを報告する」
「ほう」
スレイヤーの言葉に魔狼は持っていたグラスを置いて座り直す。
「何をする気だ?」
「俺は何もしないさ」
「俺はか……わかった。あとのことは任せろ」
「ああ、任せた」
スレイヤーが何かを求めるより前に、魔狼は全てを察してそれ以上語ることはなかった。スレイヤーは座っていた椅子から立ち上がり魔狼の管理するアモンから離れた。
スレイヤーはその足で瑠璃姫たちがいるベルゼブブへと入り、瑠璃姫がいるであろう部屋へとやってきた。
「スレイヤー、ただいま帰りました」
「入り」
瑠璃姫の声により開かれた扉の先には屈強なオーガが腕を組んでスレイヤー出迎えた。
「阿さん、吽さんお疲れ様です」
スレイヤーは瑠璃姫の護衛であるオーガたちに頭を下げる。しかし、二人はスレイヤーを一瞥しただけで返事をする気配はなかった。
「久しぶりやね。スレイヤー。ちゃんと仕事してくれてるん?」
相変わらず妖艶な雰囲気を持った瑠璃姫が、着崩した服から豊満胸元が見えている。
「はっ。現在勇者の動向を探るため、変化の魔法で姿を変えて勇者たちの行動を監視してきました」
「それで?今回はなんぞ報告があるから帰ってきたってことやんね?」
「はい。現在勇者はドラゴンキャッスルに入り、竜人族と交戦に入りました」
「竜人族かいな。なら、竜人族によって勇者も終わりか?」
「いえ、それが竜人族は同胞で争っているらしく、一部が勇者に手を貸し魔族を裏切る情報を持って帰ってきました」
スレイヤーの言葉に、興味なさそうに聞いていた瑠璃姫が立ち上がってスレイヤーを見る。
「ホンマか?」
「はい。竜人が裏切りました」
瑠璃姫は出世に飢えている。何よりもオーガが魔族の頂点に立つことを望んでいるのだ。今回の報告は彼女にとってチャンスになるだろう。
「そうかいな。ええ情報もってきたね。それで?これからはどうするつもりなん?」
「ここからは瑠璃姫様に従おうと思っています。瑠璃姫様はどうされますか?」
スレイヤーは戻ることも考えたが、瑠璃姫がどう動くのか考える方が面白いと思った。
「そうか、ならスレイヤーにもイッチャンの手伝いをしてもらおか」
「イチさんのですか?」
「そや。イッチャンには竜人族抹殺に向かってもらってんよ」
「なっ」
予想外の言葉にスレイヤーは驚かされる。魔狼によって瑠璃姫は監視していたが、イチさんの動きを見失っていた。そのイチさんは報告よりも早くすでにドラゴンキャッスルに向かっていた。
「驚いたか?ふふふ。スレイヤー。あんたが何を考えてるのかまでわからんけど。うちを甘く見てたらあかんよ」
瑠璃姫は悪戯を成功させた子供のように笑った。
「わたしのためによう働いてや。そういう約束やろ」
立ち上がった瑠璃姫はスレイヤーの耳元に口を近づけて囁くように約束を口にする。
「はっ」
スレイヤーは背中に汗を流しながら瑠璃姫の部屋を後にした。
いつも読んで頂きありがとうございます。




