竜人族 5
少し短めです。
巨大クジラと勇者が対峙していた頃、船を守るスレイヤーの元にはツララが戻ってきていた。エティカや勇者たちの姿がない。
「ただいま戻りました」
「勇者たちはどうしたんだ?」
「勇者は神官と共に最前線に向かいました。魔法使いと兵士たちは残って戦っています。私は一度船に戻って状況を伝える役目になっています」
ツララの報告にスレイヤーは苦笑いする。
「随分と勇者たちと親しくなったみたいだな」
「そんなことはありません」
腕を組んで自信を抱きしめるように顔を背けるツララにスレイヤーは勇者たちから離れることを考え始めていた。それはツララの態度を見たからではない。自分自身もグミと距離を近づき過ぎたのだ。
「状況を教えろ」
「はい。勇者一行はリヴァイアサン領の主都、ドラゴンキャッスルに侵入し、現地人である竜人族と交戦になりました」
スレイヤーは先ほど戦った八竜剣を名乗るバジリスクのことを思い出す。スレイヤー自身は無傷だったが、戦闘力はかなり高い者だった。勇者たちがまともに戦って無事でいられると思えない。
「竜人族はどんな奴だったんだ?」
「私が倒したのは、名も名乗らぬ愚か者でしたので、氷漬けにしました」
どうやら極大魔法を使ったツララによって瞬殺されてしまったらしい。
「それで勇者たちは無事だったのか?」
「いえ、それだけならばよかったのですが、次に現れた竜人族は勇者に救いを求めたのです」
「救い?」
バジリスクと戦ったスレイヤーは竜人族が勇者に救いを求めることなど考えられない。
「はい。竜人族の女性、ユランが勇者に救いを求めました」
「それで?その竜人族の言う救いとは?」
「竜人族は現在。王を決める争いをしているそうです。その中でも二人の八竜剣が王として争い合っているそうです」
どうやらバジリスク以外の八竜剣が戦場に出ていないようだ。だからこそ、勇者たちも生き抜けたのだろう。
「それじゃあ、魔法使いたちは何と戦ってるんだ?」
「ユランの敵となる竜人族です」
「それは手を組んだということか?」
「はい。勇者と竜人は手を組みました」
ツララの報告にスレイヤーはただ事ではないことが起きていることを認識する。一部とは言え、人間族と竜人族が手を組んだのだ。それは、竜人族が魔族を裏切ったことになる。
「状況が変わったな」
「はい。ですので、急ぎ戻ってまいりました」
「そうか」
二人の話が終わろうとしている頃、船に一頭のデカいアザラシが船へと向かって走ってきていた。
「丁度いいのが向かってくるな」
「そのようですね」
二人は武器を構え、アザラシへと向かって歩き出す。
「師匠!危ない」
船から整備士たちが危険を知らせるが、スレイヤーとツララは真っ直ぐにアザラシへ突撃をかけた。しかし、バジリスクと戦ったスレイヤーの動きは精彩を欠き、その鈍った剣はアザラシを仕留めるためアザラシに剣を突き立てたところで、アザラシによって吹き飛ばされる。
「「「師匠!!!」」」
整備士たちの叫びが届かぬ場所までスレイヤーたちが飛ばされたところで、スレイヤーは転移魔法を発動した。船に突撃をかけていたアザラシはその場で昏倒し倒れた。
「凄い奴だったな」
「ああ。だが、一人で守るには敵が強すぎたな」
整備士たちは見た光景をそのまま勇者たちに告げることとなる。こうして冒険者スレイと冒険者ツララは生死不明となった。
グミはスレイが生きていることを主張して探すと言ったが、竜人族が争うドラゴンキャッスル内をグミ一人にさせるわけにはいかず。
グミは勇者の説得の下で、スレイ捜索を断念せざる終えなかった。
「グミ、大丈夫よ」
「エティカさん?」
「スレイは一度死んだと思ったけど。また生き返ってきた奴だから。だから大丈夫。今度もきっと帰って来るよ」
最終的にグミを決心させたのは、エティカのあっけらかんとした言葉だった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




