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姉妹

 ライダーの槍は普通の槍ではない。三つ又に分かれた槍は、紙一重で躱せば左右の刃によってスレイヤーの身体を切り裂き、武器で受ければ回転させることで武器を弾き飛ばしてしまう。

 普通の槍よりも重みがあり、払えばライダーの細い体からは考えられないほど重たい一撃を放つことができるのだ。


「厄介だな」


 ライダーは槍の修練を何十年も積んできたのだろう。突けば速く鋭いため、避けるのが一苦労であり、避けるときは大きく距離を取って避けなければならない。攻撃魔法を使おうにも狭い調理場では自らも巻き込むことになる。

 槍も長物であるはずなのに、狭い調理場を荒らしながら振り回してくるから厄介でしかない。


「どうしたんだい?大口を叩いた割には不甲斐ない」


 ライダーは攻撃の手を緩めることなくスレイヤーを挑発してくる。


「そうだな。確かにこの状況は俺に不利だ」

「なんだ?今さら弱音を吐くのかい」

「そういう意味じゃないさ。俺がお前に勝っても意味がないって言ってるんだ」

「私に勝てるつもりか?」


 ライダーはスレイヤーの言葉に逆撫でされたようだ。スレイヤーを見下ろすように槍を構えたまま飛び上がる。


「お前を殺したとしても、今度はラミア様が俺を殺しに来るだろ。それじゃあ、割に合わない。だから決着の方法を決めないか?」


 必殺の一撃を放とうとしたライダーに、スレイヤーは力みを感じさせない雰囲気で会話を続ける。


「君は私に勝てるつもりなのかい?そんなことはありえないと思うが、そうだね。これは慈悲だ。この一撃で止めを刺してあげるよ。もしも君がこの一撃を耐えることができたなら君の勝ちにしてあげるよ。勝負に負ければなんでもいうことを聞いてあげるよ」


 ライダーの攻撃は確かに素早く鋭い。武器の重みを利用して攻撃の威力も増している。さらに上空に飛び上がり降下の速度を加えている。


七星流星群シューティングセンブンスター


 流れ星のように高速で放たれる槍の雨は計り知れない威力を秘めている。


「それはいい決着条件だ。バリア」


 確かに攻撃魔法は自分を巻き込む恐れがある。だが、耐えるだけならば調理場や自分を傷つけることもない。


「ハァァァァァ」


 ライダーが気合を放った叫び声をあげ、必殺の一撃をスレイヤーへ放った。だが、ライダーの槍は透明の壁によって一切を遮断される。スレイヤーに傷一つ付けることはできなかった。


「なっ」


 ライダーは必殺の一撃を放ったにもかかわらず、何一つ手応えを感じられなかったことに驚き、振り返る。振り返った先にはデカい包丁を持ったスレイヤーが、獲物をライダーの首に向けていた。


「どうする?」

「負けたよ」


 ライダーは良くも悪くも魔族の戦士である。魔族である限り「強き者が正しい」その法にかんして認めているところがある。だからこそ、スレイヤーに負けたことを潔く受け入れた。


「いいのか?」

「もちろんだ。私も戦士だ。言った言葉に二言はない」

「そうか」


 スレイヤーは厄介な侵入者をどうにか撃退できたことに息を吐く。そして、ずっとこの部屋の奥にある食糧庫に身を潜めていた人物に視線を向けた。


「もういいだろ。出てきたらどうなんだ?」


 スレイヤーに声をかけられ、隠れた人物が姿を現す。そこにはライダーと瓜二つの顔をした、雰囲気が全く違う可愛らしい少女がいた。


「ライラっ」


 ライダーが現れた少女に驚き、ライラと呼ばれた少女はライダーに向かって笑いかけた。


「姉さん、ダメですよ。スレイヤー兄さんに迷惑をかけては」

「スレイヤー兄さん?何を言ってるんだ。こいつはラミア母様の眷族じゃないんだぞ」

「姉さん。そんなことは関係ありませんよ。私がスレイヤー兄さんを、兄さんと認めてるんですから」


 ライラの発言にライダーがスレイヤーをにらみつけてくる。だが、スレイヤーは我関せずといった態度で、ライダーが来るまでしていた作業へと戻っていた。


「ライラ、いつからこの男のことを知っているんだ?」

「ラミア母様のところにいらっしゃったときからです」

「こいつが強いことを知っていたのか?」


 ライダーの質問に対して、ライラは笑うだけでスレイヤーの作業を手伝いだした。


「何をしてるんだ?」

「もちろん食事のお手伝いですよ。スレイヤー兄さんには部下がいませんので私が手伝っているんです。オークさんたちは、スレイヤー兄さんが怖いのか、調理場には入って来ませんから」

「どうして眷属であるお前がそんなことを」


 ライダーが質問をしようとすると、別の侵入が調理場へと入ってくる。


「にぃにぃ、お肉持ってきました」

「兄、仕事した」


 二人の蛇姫たちよりも小さな少女たち二人が調理場へと入ってきた。


「ララ、ラピス」


 その二人を見てライダーが名を呼ぶ。


「ライダーお姉さま」

「姉」


 ララは驚き、ラピスは淡々と名を呼んだ姉を見る。


「お前たちまでこんなところで何をしてるんだ」

「何って、スレイヤーにぃにぃの手伝いです」

「兄と仕事」


 三人の妹たちがスレイヤーの手伝いをしていると聞いて、ライダーはさらにスレイヤーを睨みつける。スレイヤーはライダーの威圧も気にすることなく、ララとラピスが持ってきた食材の調理を開始した。


「妹たちを誑かすとは、もう一度勝負だ」


 ライダーが槍を構える。それに対して妹たちは驚き、スレイヤーはため息を一つ吐いた。


「お前、いい加減ウザい」


 スレイヤーは強化した脚力で跳躍して、槍を構えるライダーの頭を掴んで地面へと衝突させた。戦闘態勢に気持ちを切り替えていなかったライダーはスレイヤーの行動についていけなかった。


「これぐらいやれば大人しくなるだろ」

 

 ライダーは何をされたのかわからぬまま意識を失った。


 

いつも読んで頂きありがとうございます。

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