竜人族 2
揺らめく赤い力の放流、それがドラゴンソウブなる。竜人族の奥義なのだろう。見た目からして戦闘力が跳ね上がった。空気が弾け、肌はビリビリと威圧を感じる。
「スレイよ。貴様は人間族の中で最強に属していると誇ってよいぞ」
「人間族としてか、もちろん自覚してるよ」
スレイヤーは双剣を構える。心の中で思い出されるのは、自分が本気で戦ったときのこと。炎蛇のときも、魔狼のときも、勇者と戦っていた時ですら、スレイヤーは一度も本気で戦ってこなかった。
それは戦うに値する敵ではなかったから、いつか勇者がレベルを上げて魔王を倒すとき、自分は本気で勇者と殺し合いをするかもしれない。
だが、勇者が魔王と戦う前に越えなければならない戦いは、あまりにも過酷で高い壁過ぎる。
「今回だけだ。今回だけ力を貸してやる」
小さく囁くようにスレイヤーは勇者に向けて言葉を発した。
「何を言っている」
「気にするなよ。本気でやってやるよ
スレイヤーはバリアに攻撃を仕掛けていた魔海の魔物たちを一瞥する。戦士となったグミがいくら頑張っても数という暴力には勝てない。だが、力量の差があればそんなことは問題にすらならない。
「氷剣」
白いバリアは白い剣となって迫る魔物たちを突き刺していった。
「ほう、そんなこともできるのか」
「邪魔な奴らを退かしただけだ」
「人間とは面倒なものだな」
「竜人族は違うのか?」
俺の言葉に腹を立てるように、バジリスクは剣を振るう。
「弱者である人間族と我々を同じに考えるな。我々は崇高なるドラゴンの血脈だ。一人入れば貴様らなど殺し尽くしてくれるわ」
爬虫類が獲物を捕らえるときのような瞳へと変わったバジリスクは怒りを持って戦闘を始めた。先ほどよりも早く、先ほどよりも強力な攻撃がスレイヤーを襲う。
「さっきまでと違うのはお前だけじゃない」
スレイヤーは自身に肉体強化やレジストなどの補助魔法をかけた。さらに先ほどまでバリアを張りながら船を守ることに専念していた魔力と意識をバジリスクだけに向けたことで散漫になっていた集中力で攻撃を受け流した。
「まずは一撃だ」
スレイヤーは剣を払いのけ、開かれたバジリスクの右頬に剣を振るう。
「ぐっ」
ドラゴンソウビに守られているバジリスクを斬ることはできない。だが、折れることのないスレイヤーの剣は鈍器となってバジリスクの顔を吹き飛ばす。
「ドラゴンの防御力も大したことないな」
「ドラゴンをバカにするな」
頭から出血を流しながらもスレイヤーの言葉に反論を返すのは、大した傷ではないからだろう。スレイヤーは反論したバジリスクを再度殴りつける。
「そう何度も食らうと思うなよ」
しかし、バジリスクによって防御された剣をスレイヤーはあっさりと捨てた。
「なっ」
面食らったバジリスクは一瞬のスキを作る。それは一秒にも満たない時間だった。しかし、そのコンマ数秒がスレイヤーに次の行動をとらせる。
「爆ぜろ」
剣を話した手の中には練り込んでいた魔力を爆発させてバジリスクに浴びせる。もろに爆発を受けたバジリスクの身体から煙が上がる。
「人間風情がーーー!!!」
叫び越えと共にバジリスクが怒りを表らす。先ほどまで揺らめいていた力の放流はドラゴンの形へとなってバジリスクの身体に纏われていく。
「調子に乗るなよ」
真っ赤な鎧。真っ赤な剣を持ったバジリスクが無傷の状態でスレイヤーを睨みつけた。
「貴様は楽に死ねると思うなよ。スレイ」
スレイヤーはバジリスクに炎系の魔法が効かないこと知らない。知らないからこそ、選んだ魔法が悪かった。
「無傷かよ」
「貴様らごときの攻撃が我に通じるとでも思ったのか?ここから貴様の攻撃は一切通じないと思うことだな」
バジリスクが赤い剣を振るえば、先ほどまで生じなかった炎が剣から生まれる。
「魔剣イフリート」
スレイヤーの疑問に答えるようにバジリスクが剣の名前を呼んだ。
「ここからはお前の力も借りるぞ」
攻撃も防御も全てが整ったバジリスクは、先ほどまでの怒りを治めたかのように穏やかだった。
「さて、待たせたなスレイ。殺してやる」
赤い軌跡と共にバジリスクの姿が消え、スレイヤーの横へと現れる。
「一撃で死ぬなよ」
宣言されるように放たれた一撃は今までのが嘘だったように片手では受けきれず、両手でも受け流すことができなかった。
「グッ」
「ほう、これでも防ぐか。お前、本当に人間か?」
バジリスクもスレイヤーの頑丈さに疑いを持ち始める。
「人間族でないとするなら、精霊族か?魔法も使えるなら種族は限られるが、我の攻撃をここまで耐えられる種族を知らんな」
思考を巡らせるバジリスクにスレイヤーは、双剣を空中で振るう。
「はっ、おかしくなったか?」
バジリスクがバカにした言葉を口にした瞬間、バジリスクに向かって巨大な竜巻が襲い掛かる。
「なっ!」
さらに双剣を振るい続けるスレイヤーは一心不乱に何かを呟き続ける。
「出でよ」
風がバジリスクの動きを止めたと追撃に今度は水がバジリスクを包み込むように吹き上がる。
「我ら魔海の住民に水の魔法が効くとでも思うのか」
動きを止められても一切のダメージを受けていないバジリスクは余裕の声でスレイヤーをバカにする。
「凍てつけ」
さらに水の柱は急激に温度を下げて、バジリスクを中心に氷始める。
「バカにしているのか?こんなもので我が」
その防具と剣から炎が吹き荒れる。だが、先に放った水が炎を相殺し、風が熱を上へと吹き上げる。
「なっ」
「バカはお前だ」
「氷剣」
全てを剝がされたバジリスクの身体を氷の剣が全方位から襲い掛かる。
「舐める」
バジリスクも逃げ出そうと力を爆発させるが、スレイヤーの魔法は終わっていなかった。
「止まれ」
バジリスクにかけられた魔法は重力の魔法であり、身動きもできないほどの重力がバジリスクを襲う。
「こんなことが人間に」
バジリスクが何かを呟くよりも前に氷の剣が、バジリスクの身体を貫いた。
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