魔海の魔物 終
剣から漏れる光は勇者を包み込み一筋の光となって甲羅の魔物に襲い掛かる。甲羅の魔物は迫りくる光に向かって咆哮で応戦した。
「グギャアアァァァァアァァァアァァァァ」
咆哮に込められた魔力は勇者の動きを鈍らせ、攻撃の威力を下げる。だが、それでも甲羅の魔物に向かう勇者は動きを止めることはなかった。
甲羅の魔物に迫る勇者の刃が魔物に当たる瞬間、まるで甲羅全体に膜が張るように透明な壁が出現して勇者の動きを受け止めた。
「なっ!」
勇者は白い膜の弾力によって押し返され、攻撃を当てることができなかった。
「あれほどの攻撃を防いだ?」
その光景を見ていたツララが驚きの声を上げる。だが、スレイヤーの表情に驚きはなかった。
「どうなっているのですか?」
「大したことではない。単純な防御力ならば魔力を帯びた甲羅で防げるだろう。だが、魔力の攻撃には甲羅であっても耐えられない。だから、俺は魔法も防げるように作り上げた。さて、初めての試みだったが、上手くいったようだな」
通常攻撃、魔法攻撃、どちらも通じない敵に勇者たちはどうやって勝つのか。スレイヤーは勇者の力が見たかった。ただ、思った以上に魔物を強く作り過ぎたかもしれないな。
勇者はカウンターを食らったように吹き飛ばされ、ダメージはそれほど受けていないにもかかわらず、驚いた表情で次の攻撃に転じることができない。
「シュウ!今はお前しかいないんだぞ」
ダルデの声がシュウの名を叫ぶ。そこに込められた想いにシュウが気づけないわけがない。
「ウォォォォオオオオーーーー」
シュウは立ち上がり甲羅の魔物へと剣を向ける。その剣には魔法は宿っておらず、魔物を斬りつける瞬間、剣に魔法が宿って威力の増加と勢いを加速させる。
「ハァァァァ」
勇者は膜のような物が魔法に反応しているとすぐに悟ったようで、戦い方をすぐに変えた。どうしてすぐに気づけたかは謎だが。勇者は魔物を倒す一つの答えにたどりついたのだ。
「あの魔物を倒すためには、いくつかの方法がある」
「いくつもあるのですか?」
ツララには勇者がやっと攻撃を当てただけに見えた。だが、スレイヤーは甲羅の魔物が勇者に敗北する姿が見えているようだ。
「ある。勇者はその一つにたどり着いた」
「ですが、放電するあの魔物に近づけば常にダメージを受けます。何より攻撃を全てはねのけていた」
「はねのけてはいないさ。甲羅の魔物が初めから持っていた防御力に俺の魔力を合わせて強化しただけだ。そして魔法に関しては、甲羅の魔物に掛け合わせたもう一つの魔物が魔力に反応して吸収するからだ」
「魔力の吸収?」
ヒントを与えたことで、ツララにも倒す方法が思いついたようだ。
「物理攻撃で魔物の防御力を上回るか、魔法攻撃で魔力吸収以上の速度をと魔力を与えるか」
ツララが口にした方法以外にも、もっと簡単に倒す方法がある。それは勇者も気付いたようで、彼は自ら甲羅の魔物の正面へと周り込んだ。
甲羅の魔物の正面でワザと飛び上がった勇者へ向かって甲羅の魔物は咆哮で弱体化を図る。だが、それこそが勇者の狙いなのだ。勇者は一瞬だけ魔法を使って空中で速度をあげる。
速度を上げた勇者はそのまま大きく開いた口の中へと飛び込んだ。そして口の中で眩しいほどの光が発せられる。
「終わったな」
スレイヤーは勇者が行った攻撃を見て、決着がついたことを告げる。
「どういうことですか?」
スレイヤーの言葉に意味が分からずツララが問いかける。
「どんな魔物にも弱点はある。強力な防御力はあの甲羅があるからだ。いくら魔法が吸収できても、甲羅のない体内は防御力が格段に落ちる」
スレイヤーの言葉を証明するように眩い光を放っていた魔物の口から勇者が飛び出した。勇者が飛び出してくると魔物は動きを止めて次には体中から出血して倒れた。
「なっ!」
「体内から全身を切り刻んだんだろうな」
「巨大だからこそ、小さな人間族の姿を相手にもしていないのだろう。だが、それこそが最大の弱点になる」
勇者ほどの攻撃力があるのならば、いくら巨大で鈍感な魔物であろうと、いくつも傷を負えば殺せるだろう。
「勇者の実力を知ることができたな」
「スレイの目的が一つ叶いましたね」
「ああ、誤算もあったがな」
「誤算?」
「ああ、戦士。いや、剣士が思った以上に弱い。経験の無さからくるから、これからの成長を楽しみにしたいところだが。あれは期待できなさそうだ」
気を失い神官に解放される剣士にスレイヤーはどこか冷たい視線を向けていた。
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