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魔海の魔物 4

 浜辺に現れた巨大な甲羅の魔物は真っ直ぐに船に向かって歩き出した。その歩行は愚鈍で遅い。だが、歩む事に浜辺は振動で揺れ、まるで地震が起きているように立っていることすら困難な状況になっていた。


「ハァァアァァァァッァァ」


 そんな甲羅に一人の剣士が立ち向かっていく。戦士ではない、一本の剣を構えたそれは剣士に相違ない。巨大な甲羅は、向かってくる剣士を意に介さず相手にもしていない。

 それでも自分の背丈よりも大きな剣を持った美少女は甲羅を斬るため、その身を宙へ舞い上げる。


「チェーストー!!!」


 剣士の叫びがその剣に宿り、剣は甲羅へと一直線に襲い掛かる。もしも、甲羅が普通の魔物ならば、その剣は甲羅を一刀両断にしていたことだろう。だが、彼女はその甲羅がただの魔物ではないことを知らない。


「ウガァァァァッァァァァァAAAAAA」


 甲羅が正面から斬りつけてきた剣士に向かって叫び声をあげる。剣士の体が空中で動きを止めて、落下を開始した。

 

「ヤレヤレ」


 剣士の落下に気付いたスレイヤーは、彼女が落下するであろう場所へサイモンを投げつける。


「ウォッ、なんだ?」


 腰を抜かしていたサイモンは、自らの身体が宙に浮いて落下する剣士に向かっていることに驚いた。だが、気付いて走っているとでも思っているのだろう。その手は剣士の落下位置に延ばされていた。

 

「グェ」


 サイモンが受け止めたというよりも落下するグミの下敷きになった。


「あれがスレイヤー様が作った魔物ですか」

「まぁ、魔海にいる奴を掛け合わせただけだがな。俺の魔力も足しておいたから協力になって実験は成功といったところだ。これで多少は勇者の攻撃にも耐えられるだろう」


 グミが落下して気絶したことで魔物のが進軍を開始する。だが、逃げた冒険者たちが勇者を連れて戻ってきた。


「デカイ!」


 勇者も甲羅の大きさに驚いたのか、一瞬動きを止めた。だが、炎蛇や魔狼と戦った経験のある勇者は即座に甲羅へ戦いを仕掛ける。

 剣士のような正面からの攻撃ではなく、横に周り込み歩みを続ける足へと攻撃を開始した。


「固い」


 しかし、勇者の剣を持ってしても、甲羅の魔物に傷をつけることはできない。甲羅の魔物は勇者を無視して船へと迫ろうとしていた。


「させるか」


 スレイヤーが作り出すバリアに近い壁が甲羅の魔物に前に立ちふさがり、甲羅の魔物の足元には神官が聖歌を唱えていた。


「ダルデ、助かった」


 勇者も船を守ってくれた援軍に勢いを取り戻し、魔法に剣を纏わせる。


「魔法剣 雷」


 だが、それは愚策と言える。なぜならば、甲羅の魔物はその見た目にだけで判断できる魔物ではないのだ。


「はっ」


 勇者が雷を帯びた剣で甲羅の魔物に切りかかれば、今度は甲羅の魔物に傷がついた。だが、傷の下から甲羅の魔物から放たれていた放電が地面に流れ出し、傍にいた冒険者や勇者一行の体に地面を伝って放電されていく。


「なっ!」


 自身に雷を帯びていた勇者ですら、自らの雷と魔物の放電が合わさった力に抗えずにダメージを受けた。


「とんでもない化け物ですね」


 その光景を遠巻きに見ていたツララが驚嘆の声を漏らした。


「放電を放っている甲羅の魔物に雷で対抗するのは愚策だろ。まぁ、実験は予想以上に上手くいったようだな」

「あれならば死天王に匹敵する強さを持つのではないですか?」

「それはないな。どんな魔物にも弱点はある。相性はあるだろうが、今回は勇者パーティーに特化した形で作り上げた魔物だから上手くいっているに過ぎない。この困難を勇者たちはどう突破するのだろうな」


 スレイヤーは面白い見世物を見ているように笑顔で、勇者の戦いを見つめていた。それを見たツララはスレイヤーの何を思っているのか考えたが、応えるが出ることはなかった。


「シュウ、すみません」


 雷は冒険者のほとんどを戦闘不能に追いやったが、剣士を目覚めさせるには十分な刺激になったようだ。


「グミ。戦いえるか?」

「はい。先ほどは不覚を取りましたが、戦います」


 戦場で立っているのは勇者パーティーの三人だけだ。エティカは先ほど見張りをしていたせいか、この場に姿を見せない。

 だが、三人の勇者パーティーが揃ったことで三人は連携を取り始める。


「先陣は僕が行く。グミは援護を」

「いえ、先陣は私が」

「待てっ」


 勇者の指示に従わず、剣士がまたも駆けだしていく。神官は船を守るために動くことができずに、二人の動向を見守ることしかできないようだ。

 神官も地面を伝って襲ってきた電流を受けたはずだが、服を焼いただで立ち続けていた。


「ハァーーー!!!」


 剣士は甲羅の魔物の真下に入り込み、下から剣を突き上げる。先ほどのように正面から行かなかったのは賢い選択かもしれないが、放電し続ける魔物に剣を突き立てるのは得策とは言えない。


「キャッ」


 放電する電流は向かってくる剣に向かって力を集中させて、雷と成って剣士に襲い掛かる。 


「グミッ」


 連携を取ろうとした勇者とは別に、実戦経験が乏しい剣士は一人の戦いに慣れ過ぎていたのだろう。魔物の対応を誤り、再度意識を失うこととなった。

 

「ダルデ」

「わかってるよ」


 シュウはグミを回収してダルデの下へと連れて行く。今度は気絶だけでは済まない。火傷に雷による裂傷も多くみられる。


「あいつは僕が止める」


 勇者は剣を天に向けて掲げ、空が一瞬明るくなる。


「魔法剣 光」


 それはラミアを倒した勇者のとっておき、光の刃だった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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