魔海の魔物 3
勇者たちも魔海の魔物が巨大であることを理解した。船は魔物に襲われないよう、王国兵士と冒険者が交代で見張りを立てることになり、巨大な魔物を足止めできるように勇者パーティーの誰かが見張りについていた。
「今日は私たちが当番ですね」
「ああ、行こうか」
今夜はサイモンが隊長を務める冒険者隊が見張りを務める番なのだ。スレイはツララを引き連れて集合場所へと赴く。
「サイモン。遅くなった」
「おう、スレイ。前回のイカ野郎は勇者たちが倒してくれたが、スゲーデカかったな」
「そうだな。それよりもサイモンは大丈夫なのか?」
「おう。頑丈なのが取り柄だからな」
サイモンは力こぶを見せてケガがないことをアピールする。
「それならいいんだ」
あまりにも弱かったので驚いたが、どうやらサイモンにも誇れる部分があったようだ。
「そんなことよりも。今回の見張りには剣聖の後継ぎが見張りに来てくれるぞ」
「剣聖の後継ぎ?」
「お前も先の戦いで剣聖グルガンが戦死されたことは知っているだろ?」
「噂には聞いています」
戦士グルガンを殺したのはラミアだ。スレイヤーはその場にいなかったが、魔狼の仲間がラミアの戦いを見ていたことでそれを知ることができた。
「その剣聖グルガンには娘がいたらしくてな。グルガンと変わらない剣の腕をしているらしい」
「そうなんですか」
スレイヤーもグルガンを見たことがある。勇者パーティーの中で一番多くの経験をもった百戦錬磨のツワモノだと知っている。
「しかもかなりの美少女らしいぞ」
「美少女?女性なのですか?」
「ああ、齢も勇者たちと同じで、大分若いらしい」
「そうですか」
サイモンの言葉にスレイヤーは後継ぎに興味を失った。サイモンも会話が終わったと見張りへと赴く。船の周囲には明かりがともされ、千人ほどで見張りに当たっている。
交代を言い渡された兵士とエティカがあくびをしながら見張りを終えて去っていった。
「冒険者のサイモン隊です。よろしくお願いします」
どうやら勇者一行の戦士様のお出ましのようだ。
「グミです。よろしくお願いします」
細身で長身の美少女がサイモンと握手を交わしている。見た目は普通の女性と対して変わらない。多少細身の体にしては筋肉がついていることぐらいか。それよりも特徴的なのは背中に背負われている巨大な剣の存在だ。
彼女の身長よりも大きな剣は彼女の頭を越した位置に剣の柄が見えている。
「それにしてもデカイ剣だな。本当に使えるのか」
サイモンに慎ましさという言葉はないらしい。疑問に思ったことはすぐに口に出してしまうのだろう。
「皆さんそう言われます。ですが、振るえない物を持ち歩くと思いますか?」
「そりゃそうだ。悪かったな」
グミが怒気を含んだ物言いでサイモンに詰めよれば、サイモンの方も罰が悪くなったのかすぐに引き下がった。それを見ていたスレイヤーはグミの実力が知りたいと思ってしまう。
「ツララ」
「はい」
「ちょっと試したいことがある。この場を離れるから適当に誤魔化しておいてくれ」
「わかりました」
分担して見張りをする冒険者たちの目を盗み。魔海へ赴いたスレイヤーは、夜の闇に紛れるように魔海には息を潜め様子を伺っている魔物たちを探した。
普通の人間族ならば、暗い夜の魔海はどこまでも先が見ない恐怖を植え付けるだろう。だが、そんな魔海を歩くスレイヤーは巨大な影を見つけて笑っていた。
「ちょっと協力してもうぞ」
イカはデカイだけで弱かった。勇者の一撃でやられてもらっては困るのだ。勇者や戦士の剣では貫けぬ防御力と魔法使いの魔法に耐えられるほどの魔法耐久性を持った魔物でなければならない。
「もう一匹いいのがいたな」
二匹の巨大な魔物を見つけたスレイヤーはそれぞれの魔物に魔力を流し込み、魔物を自らの手の中で溶かし交り合わせる。スレイヤーの魔力によって融合させられた新たな魔物が誕生したのだ。
「一匹の力で勝てないなら。二匹を合わせて、より強力な魔物の誕生させればいい」
スレイヤーは魔物を魔海に放ち見張りへと戻っていった。二匹が融合したことで魔物も狂暴になり、自らの力を試したいと光が灯る浜辺へと向かって泳ぎ出した。
「魔物だ!この間のイカ野郎よりもデカいぞ」
魔物に、一番最初に気付いたのはサイモンだった。サイモンは魔物の襲来を冒険者たちに告げる。
「勇者を!勇者を呼べ」
サイモンの叫びに冒険者たちは我先にと逃げ出し、勇者を呼ぶために走り出す。残っているのはスレイヤーとツララ、サイモンとグミの四人だけになっていた。
「へへへ。あれはヤベーな」
サイモンはイカよりもデカイ魔物の存在に腰を抜かして動けないでいたようだ。
「任せてください。シュウさんが来る前に終わらせます」
腰を抜かしたサイモンに代わり、グミが魔物にむかって走りだした。
「おう。頼もしいぜ」
浜辺に上がってきた魔物は、全身から放電しながら、カメのような甲羅を持った魔物だった。
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