魔海の魔物 2
「スレイ、生きてたんだね」
勇者パーティーの魔法使いエティカは、死んだと思っていた冒険者の姿を見つけて嬉しさのあまり声をかけた。
「エティカ」
「やっぱりスレイだ。なんだか、雰囲気変わったね」
スレイヤーがエティカの名前を呼んだことで、エティカは確信をもってスレイに近づいた。しかし、エティカとスレイヤーの前にツララが立ちはだかる。
「うわっ!なっなに?」
「あなたこそ、なんですか?スレイになんの用ですか?」
「あんたこそ何よ」
いきなり現れたツララに対抗するようにエティカがツララを睨みつける。
「私はスレイの友人よ。あんたこそ何よ」
「私はど……スレイの冒険者パーティーです」
ツララが余計なことを言いそうになったので、後ろから脇腹を突いておく。なんとかマトモなことを言ったのでスレイヤーは安堵の息を吐いた。
「へぇー仲間なんだ。スレイにも仲間ができたんだね」
「ああ、この間の戦いのときに助けてもらったんだ」
「そうなんだ。ふーん、へー」
「なんですか?」
エティカが対抗するような目線から、面白い者を見るような視線に変える。
「ううん。私は魔法使いのエティカ。あなたの名前は?」
「えっ」
いきなり名乗ったエティカに、ツララの方が戸惑ってしまう。
「ツララだ。魔法使いで氷の魔法を得意としている」
「冷却系か。私が苦手な魔法だな」
ツララが驚いている間に、スレイがツララの名前と得意な魔法を告げとエティカは嬉しそうな表情になった。ツララはスレイを非難するような目で見たが、エティカの視線はツララを捉えて離さない。
「ねぇねぇ、魔法使いってことはあなたの魔力量はどれくらいなの?私はね、火炎系と風雷系の魔法なら結構自信あるんだ。魔力量的には極大魔法三発は打てるよ」
極大魔法は高位の魔導士が50人分の命を燃やして打てるものだが、それを三回も放てる魔力量にスレイヤーか驚嘆してしまう。人間でそれほどの魔力量を保有しているのは異常なことなのだ。
「そうですか、私は四発は打てます」
「なっ!スゴッ」
ツララは魔族なので、得意な冷却系魔法の条件さえ揃えば四発を撃つこともできるだろう。だが、なぜ人間に対抗する必要があるのか、スレイヤーにはツララの言動が理解できなかった。
「あんた何者よ。そんな魔法使い、私以外に聞いたことないわよ」
「私はスレイと同郷で、田舎にいましたので」
「ツララ、もういいだろ。エティカも久しぶりだな」
スレイヤーはツララに余計なことを話されては困るので会話に割り込んだ。
「ですが」
「ツララ」
声に怒りは含まれていないが、瞳は笑っていなかった。
「わかりました」
「ふーん。なんだか、二人って怪しいね」
従ったツララとは別にエティカは二人の関係を怪しむように笑っていた。
「そうか?普通だろ。それよりも久しぶりだな」
「そうだね。君が生きていてくれて嬉しいよ。スラは元気?」
「ああ、ここにいる」
スレイヤーは腰にぶら下げていた水筒の蓋を開ける。水筒の中には青いスライムがみっちり詰まって眠っていた。
「相変わらずプニプニで冷たい」
エティカはスラを指で突いて感触を楽しんだ。
「モンスターが大群で街を襲った後に数人の冒険者がいなくなって、てっきりね」
エティカが悲痛そうな顔になる。
「ああ、俺も傷を負ってな。ツララに助けてもらったんだ」
「なるほどなるほど。彼女は命の恩人ってことね」
スレイヤーの話を聞いたエティカは、もう一度視線をツララに向ける。
「私の友人を助けてくれてありがとう。あなたも冒険者よね。改めて私は魔法使いのエティカ。これからもよろしくね」
「私はよろしくするつもりはありません」
「まぁそう言わずに。私は魔法が大好きなの。だから、あなたが魔法を使うなら、私はあなたのことも好きになりたい。それに同じ冒険者として魔族を倒すために頑張りましょう」
エティカが握手を求めて手を差し出す。ツララの態度に、めげないエティカにどうしていいのかわからんずツララがスレイヤーを見る。それに対して、スレイヤーはツララに応じるように頷いた。
「正直まだあなたことは好きになれません。でも、同じ目的なのは理解しました」
「まぁ最初はそれでいいよ。よろしくね」
「スレイも、今回は頑張ってね」
「ああ、またな」
エティカはスレイたちから別れると他の冒険者に声をかけ始めた。魔法使いというには明るくムードメイカー的な存在のエティカにスレイヤーは息を吐く。
「いったい何なのですか。あの方は」
「勇者パーティーの魔法使いで、人間族最高の魔導士だ」
「あの女が」
ツララも先の戦いでラミアの眷族で魔法が得意なライラを圧倒した魔法使いの話は聞いていたのだろう。
「今は仲良くしておけ。いつかお前も戦うことになるかもしれないんだ。戦い方を知るのも勝つための手段だ」
「わかりました」
ツララはエティカを睨みつけるように後ろ姿を見つめた。
「だが、今は敵意を出すな」
「わかりました」
ツララはすぐに視線を外して天幕へと歩き出した。
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