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魔海の魔物 1

 スレイとツララが合流したことを勇者パーティーが知らないまま進軍は続き、いよいよリヴァイアサン領のメインとなる魔海に差し掛かったところで、勇者一行は思わぬ足止めを喰らっていた。


「サイモン、この場に留まって二日になるが何かあったのか?」


 魔海に住んでいる魔物を知っていたスレイヤーは、なんとなく足止めを食らっている事情を推測できた。ただ、冒険者スレイは新参者としてサイモンにわからないことについて説明を求めたのだ。


「どうやらお偉いさん方も足止めを喰らってるらしい」

「足止め?」


 サイモンが指差した魔海の方を見れば、魔海を渡るために用意された船が破損していた。乗れないわけではないが、修理をしなければいつ沈んでもおかしくない状態になってしまう。


「なるほど、それでか」

「魔法コーティングで魔物の襲撃にも備えられるようにしてあったみたいなんだ。だが、どうやら内部から破壊されたらしい」

「内部から?」

「そうだ。修理をすれば使えるらしいが、すぐには無理だそうだ」


 サイモンから足止めの理由を聞いて、納得したスレイヤーはサイモンと別れてた。自分の天幕へと帰ったスレイヤーは、天幕ではツララが食事の用意を済ませていた。


「どうやらしばらく足止めされるみたいだ」

「そうですか。それよりも食事ができたました。海が近いので新鮮な魚介類の刺身です」

「今日はマトモな料理だな」


 氷雨族であるツララは熱いモノが苦手だ。そのため火を使う料理ができない。できるのは生物を斬ることと暖かい物を冷やすことだ。そのためツララを食事当番にしてしまうと決まって冷たい物が出される。


「マトモは失礼です。少々スレイのお口に合わないだけです」

「まぁ食えるならなんでもいいさ」


 スレイヤーは出された食事に口を付け、表情を曇らせる。


「これはなんの魚だ?」

「知りません。今朝巨大な魚が浜に打ち上げられていたので、氷漬けにして砕いた物を切り分けました」


 どうやら船が壊れたのは内部だけではないらしい。デカイ魚が船に衝突し、その衝撃で船が傷んだというところだろう。

 魔海に住む魔物たちは普通の魔族とは違ってその身は巨大なモノが多い。人間族が乗る船など魔物の身体と変わらないのだ。

 人間族からすれば、それほど巨大な生物はみたことがないのかもしれない。だから、内部から破壊されたと思ったのだろう。


「なるほどな。魔物の肉だ。ありがたく頂こう」


 魔物と言っても食べ物であることに変わりはない。少し変な味はするが食べられないほどではない。


「スレイ。ちょっと来てくれ」


 サイモンの焦った声で天幕から出たスレイヤーを待っていたのは、巨大なイカが勇者が率いる王国軍に襲い掛かっていた。


「俺たちも行くから準備しろ」

「わかりました。ツララにも声をかけてきます」


 サイモンはスレイヤー以外の冒険者に声をかけるために走り出した。スレイヤーは天幕に戻りツララに声をかける。


「どうやら冒険者として初めての仕事のようだぞ」

「そうですか。それでどの程度の力で対応すればよろしいでしょうか?」

「そうだな。一割でいいだろ。死なないように、そして殺さないように戦え」

「それでよろしいので?」

「俺たちは新人冒険者だ。後方で待機してればいいだろ」

「わかりました」


 スレイはツララを伴い。巨大なイカの下へと歩き出す。イカを相手に勇者パーティーは最前線で戦っていた。勇者とそのパーティーの戦いは他の兵士や冒険者とは比べものにならないほど圧倒的な強さだった。


「来たなスレイ。お前たちは若い、俺はお前たちに死んでほしくないからな。この後方で傷ついた奴らの保護にあたってくれ」

「わかりました」

「頼んだぞ」


 サイモンがイカに向かっていく。


「とっいうわけだ」

「ですが、すぐに我々の順番がくるみたいですよ」


 スレイヤーの言葉に対して、ツララはサイモンが走り去った方向を指さす。スレイヤーが視線を向ければイカの足を払ってサイモンを吹き飛ばした。

 サイモンに率いられた冒険者たちは次々と吹き飛ばされてスレイヤーの下へ戻ってきた。


「無念」


 サイモンはそれだけ呟き倒れた。しかし、死んでいるわけではなく気絶だけで済んでいるようだ。


「この人が生き残ったわけがわかったな」

「弱っ」


 サイモンの弱さにツララは軽蔑の視線を向ける。魔族は強さこそが正しいのだ。ツララの反応は魔族として当たり前の話だろう。そんな冒険者たちの姿にいつの間にか順番が回ってきた。


「どうされるのですか?」

「仕方ない。死なず、殺さず、傷つかず。やり過ごせ」

「なんと難儀な」


 スレイヤーは双剣を抜き放ち、ツララは魔法を発動する。冒険者を払いのけていたイカの足を一本切り落としたところで、勇者がイカの脳天に剣を突き立てた。


「どうやら終わったみたいだな」

「そのようで」


 二人は戦いを終えて気を抜いた。


「スレイ」


 不意にかけれた声に、スレイヤーは驚き、ツララは怪訝な表情で相手を見つめた。


「生きてたんだね」


 そこにいたのは勇者パーティーの魔法使いエティカだった。

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