閑話 意思を継ぐもの 2
こんばんは、第一章はこれにて終わりとなります。
次回からh第二章になります。ですが、書き溜めをしたいと思いますので、十日ほどお休みさせていただきます。
次回更新は六月十七日零時を予定しております。どうか、第二章も呼んで頂ければ嬉しく思いますのでよろしくお願いします('◇')ゞ
魔王城にある転移の門、他の領に移動するためには様々な転移の門を使うのだが、帰って来る者たちは同じ転移の門から出てくることになる。
スレイヤーがアモン領から帰還すると、魔狼がスレイヤーの帰りを待っていた。
「よう、魔人」
「何か御用でしょうか?魔狼様」
スレイヤーは魔狼の微笑みかけ、いつもの燕尾服に似合う礼儀正しい礼をする。
「とぼけんじゃねぇよ。炎蛇殿を喰らったな」
「何か問題でも?」
「やはりお前の狙いはそれか。それで?どう落とし前つけてくれるっていうんだ?本来、それは俺が食らうものだったはずだ」
先ほどから出ているそれとは、ラミアの魔石のことであり、ラミアの力をスレイヤーが取り込んだことについて魔狼は怒りを表しているのだ。
「早い者勝ちでしょ?」
スレイヤーの返答に魔狼はにっこりと笑う。
「よくわかった。なら死ねよ」
魔狼が一瞬でスレイヤーとの距離を詰めて拳を振るう。普通の魔族であれば、死天王の一人である魔狼の一撃で葬り去られる。だが、スレイヤーは魔狼の攻撃を見極め、紙一重でかわした。
「やはりお前の強さ。異常だな」
「もう隠す必要もないですね。俺は魔王を目指します」
「魔王様の眷属になると言っていたお前が、魔王になる?はっ笑わせるなよ」
魔狼は唾を吐きステップを踏む。これまで槍を使った力押しばかりだった魔狼はスレイヤーに負け、極大魔法を潜り抜け、タマモの魔石を食らったことで戦い方に知恵と経験がついてきた。
「お前に負けたままの俺だと思うなよ」
単調に力押しだった魔狼の動きにリズムがついて、スレイヤーへの攻撃に変化がつけられる。
「くっ」
スレイヤーはバリアを張って防御するが、防御の上からでも衝撃が叩きつけられる。魔狼はフェイトを交えることでスレイヤーの防御を搔い潜る。
「ガハッ」
「どうした。守るだけか?」
魔狼の身体能力は魔人であるスレイヤーの反応速度を超えている。
「さすがは魔族一の身体能力ですね。ラミア様が魔法と身体能力の複合魔族だとするなら、あなたは魔力を人体強化に全て振った純粋力バカですね」
「悪いか?俺は俺の腕だけでのし上がる」
スレイヤーは魔狼を評価して、今度は自らの力を見せるように攻撃に転じる。
「あなたが純粋力バカなら、俺は純粋魔法バカですよ」
バリアで防げないなら、攻撃されないようにすればいい。
「ちっ、氷か」
魔狼はスレイヤーが作り出した氷の壁を殴り舌打ちをする。
「俺は氷の魔法が得意なんですよ」
「おいおい、わかってるのか?」
魔狼は魔法を使ったスレイヤーをバカにするように笑いかける。
「ええ、あなたに魔法が通じないのはわかってますよ」
魔狼には魔法を無効化する魔法が存在する。前回は事前にかけていた魔法を使うことで対処することができたが、今回はそういうわけにはいかない。
「ウガァー」
魔狼が叫ぶと、魔法の気配が消えて氷が消滅していく。
「もう防御もできねぇ。ここからは俺の独壇場だ」
転移の間は二人が戦うには狭い空間である。スレイヤーが何かしら対処したくても広さが足りない。建物の中では魔狼の方が有利だということだ。
「死ねや」
魔狼は先ほどよりも動きを加速させてスレイヤーに迫った。しかし、スレイヤーは焦ることなく双剣を抜き放ち魔狼の攻撃をいなしていく。
「はっ、また防御か?それで俺に勝てるとでも?」
「あまり使いたくない技なんですけどね」
魔力を感じた魔狼であったが、二人の間には何も魔法が発動していなかった。
「何をした?」
「この間は魔法を感じることができなかったはずなのに、やはり強くなられているのですね」
スレイヤーは魔狼が前回よりも魔法に過敏になっていることに気付いていた。だが、魔狼とスレイヤーで決定的に違う点がある。
「魔法に対する知識があなたと俺では違う」
「どういうことだ?」
魔法を全て無効化できる。それはとてもスゴイことだ。だが、それは魔法が発動されるとき毎回打ち消す必要がある。それに対して、スレイヤーはどんな魔法を使うのか、一度だけでなく複数の魔法を同時に時間差で発動することもできるのだ。今回はそこまでややこしいことをする必要はない。
「デスペル」
「あぁん?」
「ファイアーソード」
スレイヤーが何かの魔法を使ってすぐに剣に魔法を纏わせる。
「ウラァー」
魔狼が魔法を使うが、スレイヤーの魔法が消えることはなかった。
「何をした」
「別に、あなたと同じことをしたまでです。あなたのような広範囲の力技ではないありませんが。俺のはピンポイントであなたの魔法を封じさせてもらいました」
「なんだと」
「あなたが使える魔法を俺が使えないと思ったんだですか?」
スレイヤーは先ほどから何度も魔法を封じる魔法を試していたのだ。そして、魔法が魔狼に効果を表したことを感じて炎剣を発動したというわけだ。
「ちっ、魔法が使えるからってどうしたってんだ」
自らの身体能力だけで、スレイヤーに肉薄する魔狼がすることは負け惜しみでもないだろう。だが、スレイヤーの心に余裕ができたことは間違いない。魔狼の魔法を封じることができたのだ。
自分の土俵で戦える魔狼を、こちらの土俵に引きづり落とすことができたのだ。
「ストップ」
「なっ」
スレイヤーが次に使った魔法に魔狼は動きを止められる。
「改めて自己紹介いたします。我が名はスレイヤー、魔人族スレイヤー・オブ・スペルマスターと申します」
「スペルマスター……だと……」
スレイヤーの名乗りに魔狼は驚いた。そして、殺気を治めた。
「その名を語る意味をわかっているのか?」
「もちろん。我が祖父の名ですから」
「そうか、お前がスペルマスター……その強さ、納得した」
完全に戦意を失った魔狼が大きく息を吐く。
「それで?俺を殺すのか?」
そこには反抗する気概を見せていた魔狼はおらず、諦めた顔をした魔狼がそこにいた。
「そんなことはしない。もしよかった仲間になってほしい」
「仲間だと?」
「そうだ。俺は魔王になる。そのために強い仲間がいる。魔狼は強い。仲間になってくれた嬉しいだろ」
スレイヤーの言葉に魔狼は驚き、そして笑っていた。
「はっ、お前は初めて会った時から変わった奴だ。だが、それが面白い。いいぜ。今日から俺はお前の配下だ」
スレイヤーはラミアの意志を継ぎ魔王になることを誓った。祖父の名を明かすことで魔狼を仲間へと引き入れ、本格的な魔王軍での地位向上を目指していくことになる。
いつも読んで頂きありがとうございます。




