閑話 意志を継ぐもの
アモン領大戦は人間族にも多大な被害を与えた。多くの兵士や戦士が命を落とし、戦力の上では勇者パーティーの中で一番強いと言われていた剣聖グルガンの死。
そして、人間族の総司令官を務めていたクラウド・ハイネスが遺体として発見されたことは人間族にかなりの痛手を与えた。
「勇敢なる戦士のお陰で二つの魔族領を手に入れることができた。尊い犠牲に感謝を……皆、祈りを捧げよう」
王様の言葉に涙を流し始めるもの、祈るために目を閉じるものなど。その場に集まる者たちは王様の言葉に胸打たれていた。
勇者シュウ・アカツキは王様が演説を開始すると、その場を後にした。最初から参列はするつもりだったが、気持ちを落ち着けるために祈りを捧げた後は退出することを告げていた。
「アカツキ様」
そんなシュウに声をかけてきたのは、王女であるナターシャ・システィア・D・マルテスだった。金色の髪は美しく。城を基調としたドレスにちりばめられた宝石が彼女の美しさをより一層際立たせている。
その綺麗な顔と合わさり整ったプロポーションをしている胸元からは、ドレスから零れそうなほどあふれ出して胸が強調されていた。
「王女様」
シュウはすぐに片膝を突いて、王女に礼をつくした。
「楽にしてください。今は私とアカツキ様しかおりません」
「ありがとうございます」
シュウは片膝を突いたままだが、
「そうですわ。私もみなさんのようにシュウ様と呼んでもよろしいでしょうか?」
「それは構いませんよ」
「嬉しい。シュウ様」
「はい」
「私のこともナターシャとお呼びください」
「それは」
「私たちは将来を約束したなかなのですよ」
ナターシャ王女が頬を膨らませて抗議する姿に、勇者は苦笑いを浮かべて頷いた。
「はい。では、ナターシャ様」
「様も取ってください」
「それは追々でお願いします。今はこれが精いっぱい」
シュウの反応に頬を膨らませていた王女は笑顔になる。
「そうですね。私たちの関係は始まったばかりですもんね」
二人が仲良く話している姿を見つめる影が二つあった。
「いいのか?行かなくて」
「邪魔する必要なんてないでしょ。私とシュウはそんな関係じゃないんだから」
「お前も素直じゃないな」
ダルデはため息を吐きながら、シュウたちを振り返る。エティカはその場を離れるように歩き出した。ダルデもエティカの後を追って城を後にする。
後日、勇者パーティーから城へと呼ばれた。
「此度は二つの領地を手に入れ、七代貴族の一人、ラミア・A・ベルゼブブを倒したこと本当によくやってくれた。此度はその褒美を渡したいと思う」
王様は勇者パーティーを呼び、労いと褒美を授けた。さらに、失ったグルガンに代わる一人の少女を紹介する。
「グミと申します。父が大変お世話になりました」
ほっそりとした長身の少女は、背中にありえない巨大な剣を背負って勇者たちの前に現れた。
「父?」
「はい。グルガンは我が父。父の意思は私が継ぎます」
黒髪の美しい少女は悲しい瞳の中に決意が込められていた。
「そして、貴殿らには領地を与えようと思う。まだ小さくはあるが、貴殿らが帰る場所にするといい」
王様から与えられた驚くべき報酬にシュウは驚いた。だが、シュウは自らの使命をわかっている。だからこそ、立ち上がり言葉を発した。
「ありがとうございます」
王様に一礼して、シュウはグミに近づく。
「グルガンは凄い戦士だった。色々なことを教えてくれて世話になった。僕じゃ救えなかった。すまない」
グルガンについて語り、グミに対して謝罪を口にする。
「いえ、父は戦士です。戦士はいつ死んでもいい覚悟を持っています。父は私に全てを伝えてくれました。今の私があるのは父のお陰です」
「僕たちと共に戦っていくことは辛くないか?」
「辛い……いえ、覚悟は持っています」
グミの言葉にシュウは一瞬目を閉じて、もう一度目を開ける。
「ありがとう。どうか仲間になってくれ」
「はい。よろしくお願いします」
シュウは新たな仲間を得て、新たな戦いへ赴く覚悟を示した。
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