アモン領大戦 終
明日からは閑話を挟みます。
勇者が宿した光とラミアが作り出した太陽がぶつかり合い。砂漠に爆炎と砂嵐に包まれる。砂漠の夜は昼間と変わらぬ暑さを一瞬取り戻して、その後には唯々舞い上がる砂埃が収まるのを待つだけとなった。
「どうなったんだ?」
神官が砂煙がはれるのを待ちきれずに声をあげる。神官の横には眠り続ける魔法使いがいる。魔法防御をしたまま神官は勇者とラミアの戦いの決着を待ち望んでいた。
「シュウ」
神官が勇者の姿を見つけ、歓喜の声を上げる。神官が見たのは、ラミアの胸に勇者の剣が突き刺さっている姿だった。ラミアは槍を地面に落とし、動きを止めていた。
神官の呼びかけに応えるようにラミアと共に勇者の体が傾き、二人とも地面に倒れ伏した。
「シュウ」
神官は勇者の下へ駆け寄る。砂に足を取られ、何度も転びそうになるが、そのたびに勇者の名前を叫びながら走り続けた。
「今すぐ回復してやるからな」
神官は勇者の安否を心配して聖歌を唱える。ラミアの動向も気にはしていたが、駆け寄った勇者に意識がないことが気がかりだった。だが、そんなことよりも勇者が無事なのか聖歌を唱えながら、胸に耳を当てる。
「よかった。生きてる」
神官は勇者の生死を確認して安堵の息を吐く。だが、顔を上げた神官が見たのは立ち上がっていたラミアの姿だった。その手には爪が伸び、神官に振り下ろされようとしていた。
「化け物め」
神官は勇者を庇うように立ち上がる。ラミアの腕が振り下ろされる。爪が神官に届くことはなかった。ラミアの胸に刺さった剣が引き抜かれラミアの首が飛んだ。
「無茶するなよ。ダルデ。グルガンに続いてお前までいなくなったら。悲しいだろ」
勇者はボロボロになりながらも、仲間のピンチに立ち上がった。そしてラミアが倒れたことで、ラミアの上空に緑色の石が浮き上がる。
「これがオーブ」
浮き上がった石をオーブと呟いた。
「これを壊せば」
「ああ、やっと一つ目だ」
勇者は仲間にオーブのことを話していた。神官はオーブと言われて目的が達成できることに喜んだ。
「今は戦いの勝利を伝えてくれ。僕は少し休ませてもらうよ」
オーブを握りしめた勇者は戦いの疲れを癒すために眠りについた。ラミアが立ち上がったときに力の全てを使い切ったのだろう。
神官は元気な勇者に喜びを感じ、それと共に失った者の大きさを実感しながら、それでも勝利を宣言する。戦いを終わらせるために。
「勝鬨を上げろ」
神官は近くにいた兵士に勝利を伝えて座り込む。神官自身も疲れた体を横たえる。
「疲れた」
神官は目を瞑り眠りについた。勇者とラミアの戦いが終わった一方。獣人魔族と人間族の戦いも終結を迎えようとしていた。
「人間風情が」
「魔族が」
司令官同士の武器が交錯しタマモの胸に剣が突き刺さる。
「グッ」
「ハァハァ、勝った」
タマモが倒れ血を吐く。疲弊した司令官クラウド・ハイネスが勝利を叫ぼうとして、彼は自らの声が出ないことを悟った。
「おいたが過ぎるぜ」
クラウド・ハイネスはその存在に気づけなかった。この戦場でもっとも目を離してはいけない存在を忘れ去っていたことに。
「……魔……狼」
クラウド・ハイネスはそれだけ発して絶命した。そして狐人族と戦っていた人間族は一瞬のうちに葬り去られる。
「タマモ、大丈夫か?」
胸に刺さった剣を見て魔狼はタマモが長くないことがわかっていた。
「無事とはいえねぇな」
抱きかかえたタマモに話しかける。
「親方……様……」
「ああ、間に合わなくてすまん」
「私の力を」
「わかってるよ。お前の魔石は俺が食らう」
「嬉しい。やっとあなたのモノになれる」
タマモは自分の死を悟り、力を魔狼に預けた。タマモは嬉しいと言って魔狼の胸に顔を埋めて死んでいった。
「どうやら、ラミアも負けたらしいな」
タマモの魔石を食らった魔狼は戦場になっていた場所を見る。
「いよいよ俺の出番かね」
人間族は勇者の勝利で賑わい始めた。司令官が倒れたことなどどうでもいいかのように。
「クルルと言ったな」
「はっ」
片膝を突き、タマモを弔っていた狐人族に言葉をかける。
「あとはお前が狐人族を引き継げ。一先ずここは引く」
「しかし!」
「タマモは俺の中で生きてる。それにな。俺にはまだやらなきゃいけないことがあるんだ」
「お供します」
「ダメだ。お前たちはタマモの形見みたいなもんだ。生きろ。これは命令だ」
魔狼は最大限の威圧を持ってクルルに命令する。クルルたち狐人族たちは震えあがり、クルル以外は一目散に逃げ去った。
「胆力は認めてやる。だが、あいつらの面倒を見てやれ」
「……承知しました」
クルルは悔しそうにしながら、その場を後にした。
「さて、行きますか。美味しいところだけ頂くだけで悪いがな」
魔狼は勇者たちの下へと向かって歩き出した。しかし、その歩はすぐに止まることにある。
「どうしてお前がここにいる?お前は死んだと聞いたが?」
「間に合わなかったことは認めます。でも、あなたまで失うわけにはいかない」
「俺が負けるといいてぇのか?」
砂漠の夜に溶け込むローブを来た男に魔狼は止められる。
「まだ、あなたは全快じゃない。そんな体で覚醒した勇者と戦えば、ラミア様の二の舞でしょう」
「それでも俺は死天王で、アモン領の党首だからな。やらないわけにはいなかないだろ」
「行かせません」
二人の間にビリビリとした力がぶつかり合う。そして仕掛けたのは魔狼からだった。魔狼は槍を振るいローブの男に襲い掛かる。
「転移」
だが、二人が戦うことはなかった。作り出された転移の魔法で魔狼は飛ばされ、男のローブだけを掴んだ。
「てめぇ」
「すみません」
魔人族の男、スレイヤーは魔狼に謝罪の言葉を口にして頭を下げた。
「ラミア様の亡骸は俺が処理したいんです」
転移の魔法で魔狼を魔王城へ送った、スレイヤーはラミアの亡骸へと向かって歩き出した。すでに勇者や神官の姿はなく、そこにはラミアが倒れていた。
「お待たせして申し訳ありません」
スレイヤーは頭だけとなったラミアを抱きしめる。ライダーやライラの亡骸がないということは魔石をラミアに捧げたのだろう。
それでも勇者には及ばなかった。スレイヤーはラミアの頭を抱きかかえしばし黙祷を捧げる。
「ラミア様、ライダー、ライラ、ララ、ラピス。間に合わなくてすまない。丁重に葬るから許してくれ」
五人の顔を思い出し、スレイヤーある決意を言葉にする。
「俺は魔王になる。生き残るだけじゃダメだ。ラミア様が求めた魔王に俺がなる」
決意したスレイヤーはラミアの魔石を抱きしめその場を去った。こうしてアモン領大戦は幕を閉じた。人間族は戦士と司令官を失い。獣人魔族は七貴族の一人を失った。
互いに多くの犠牲者を出したこの戦いは魔人大戦の中で、一番大規模な戦いであった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




