アモン領大戦 6
次でアモン領編も終わりになります。
閑話を挟み。次章に移っていきます。
雷となった勇者は轟音と共にラミアに斬りかかる。ラミアも今までの愚鈍な動きではありえない反応速度で勇者の剣を受け止める。
「ピリッと痺れるな」
受けた槍から電撃が伝わり、ラミアの手に痺れを感じる。だが、ラミアは槍を振るうだけで痺れを振り払い攻撃に転じる。
「今度はこちらの番だ」
ただ振るうだけの槍の威力はこれまでの比較にならないほど威力を秘めている。勇者は正面からラミアの剣を受け止めるのではなく、最大限回避に徹した。
「なぜ避ける?お前ならば受け止められるだろ」
ラミアは面白いモノを見るように勇者に問いかける。
「黙れ」
勇者は距離を取りながら、攻撃へと転じる。ラミアは雷を帯びた勇者の剣を受け止めながら、力で押し返す。
「どうした。先ほどよりもスピードも力も増したが、その程度か?」
ラミアは感じていた。勇者との力量差がなくなっていることに。自分の方が上回ったことを実感していた。それは勇者も感じていたことであり、勝つためにどうすればいいのか、考えを巡らせえていた。
「負けない。俺は人間族の希望なんだ」
勇者は雷となって攻撃を続けていたが、ラミアの槍によって有効打の決められない。代わりに振るわれる一撃一撃が重く避け続けていたが、ついにラミアの槍が勇者を捉える。
「ガハッ」
勇者はラミアの一撃で吹き飛ばされ、口に含んだ砂を吐き出す。
「シュウ」
勇者に心配そうに声をかけた神官は聖歌を唱え、勇者に強化をかける。
「ダルデ、グルガンは?」
「……」
神官は勇者の瞳を見つめた後、首を横に振った。勇者は持っていた剣を強く握りしめ、強化された体を確かめる。
「ダルデ、今から僕は力を開放する」
「あれをやるのか?」
「ああ、あとのことは頼んだ」
「必ずお前を戻してやる。だから、魔族を倒してくれ」
神官は勇者の背中を叩きあと押しする。
「俺にできるのはここまでだ」
「ありがとう」
勇者は吹き飛ばされた際に、解除された雷の代わりの魔法を発動する。
「魔法剣 光」
勇者だけが使える属性魔法がある。それは女神の加護を受けた光の魔法だ。雷が剣に落ちた時と違い、光は勇者を照らすように剣と勇者自身を包み込む。光は剣に吸収されていき、剣を光輝かせる。
「先ほどと何が違うというのだ」
ラミアは雷を宿した勇者との違いに気づかなかった。それも仕方ないことだろう。見た目には雷を宿した勇者の方が稲光を放ち、攻撃と共に轟音を鳴らしていたのだ。
光を宿した勇者は稲光もなければ、轟音も発していない。
「待たせたみたいだな」
ラミアは弱く感じていた勇者に追い打ちをかけなかった。それはラミア自身が、己の強さに自信があったからだ。
「好きにすればいい。勇者であるお前の全てを打ち砕けばいいのだ」
「ああ、ここからは俺自身どうなるかわからない。まだ力がコントロール出来ていないんだ」
「それで私に勝てると思うのか?」
「勝つさ。僕は負けられないんだ」
光は勇者を包み込み、静かに灯しているだけだ。だが、ラミアは警戒していなければならなかった。勇者は揺らめくように一瞬にして消えた。
とっさに槍を構えて防いだのは、ラミア自身が強者である証だろう。
「何をした!」
ラミアは突然正面に出現した勇者の剣を受け止めて吹き飛びそうになる。
「何もしていない。ただ、使う魔法を変えただけだ」
「それだけで」
ラミアは明らかに速度が変わった勇者の動きに驚いた。しかし、それ以上に驚いたのは剣を振るう威力の方だろう。先ほどまではいくら痺れても吹き飛ばされるような威力はなかった。
しかし、今回の勇者に与えられた一撃は、ラミア自身を吹き飛ばすだけの威力を秘めていた。
「ここからはお前を倒すまで止まらない」
勇者はそれ以上語ることはないと、剣を振るう。速度も威力も今までの比ではない。ラミアが眷属を吸収したように、勇者も何かを犠牲にしたのかもしれない。
そう思えてしまうほど、今の勇者は鬼気迫る強さを兼ね備えていた。ラミアは勇者と槍を交え、魔法をぶつけ合う。
光となった勇者は力が強く、魔法はラミアに分がある。だが、互いに威力が増した分、防御の上からでもダメージを受け始めていた。
「決着を付けねばなるまいな」
砂漠の夜空は寒く。ラミアの体が硬くなり始めている。
「太陽」
ラミアは残りの全てを注ぎこんだ魔力を放出させて砂漠の夜に太陽を作り出した。
「陽光」
作り出された太陽からは日光が降り注ぐ。日光に触れた勇者の体が焼けて光と化した勇者はそれでもラミアに迫っていく。
「太陽落下」
ラミアも魔力で作り出した太陽を勇者と自らの上に落とした。
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