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アモン領大戦 5

 ラミアは勇者と鬩ぎ合いをしている中で、眷属が次々と倒れていくのを気配で感じていた。娘たちが頑張っているのも伝わってくる。それでも勇者パーティーには及ばなかったのだ。

 勇者との戦いも均衡状態が続いているが、ジリジリと自分が押され始めている。このままでは前回と何も変わらないではないか。


「母様。私の力を」


 魔力を爆発させ、片腕も失ったライダーがラミアの近くで倒れながら、ラミアに訴えかける。それは魔族として当たり前のことなのかもしれない。勇者を弾き飛ばし、ラミアの体に触れる。


「わかった。ライダー、私と共に生きよう」


 ミアラにしたようにラミアは傷つき起き上がれないライダーを喰らった。その力を自らの糧とするために、そしてそれはライダーだけではなかった。ライラやララ、ラピスもまたラミアを見ていた。

 彼女たちも分かっていたのだ。このまま戦い続けても勝ち目がないことに。ならば少しでも勝算を上げるために自らの力をラミアに集めればいい。


 三人は動かせる力を振り絞る、ラミアへと歩み寄る。神官は傷ついた戦士の治療に当たり、勇者はラミアの行動を阻止しようと駆けてくる。ラミアに選択肢など無かった。 


「ライラ、ララ、ラピス。我が身の糧となれ」


 ラミアはそれぞれの名前を呼んで喰らっていく。三人とも満足そうにラミアの糧に慣れることを喜び、その身を捧げた。


「遅かったか」


 吹き飛ばされた勇者がラミアの下へ戻ったときには、ラミアの四人を吸収し終えていた。そこには体が肥大し荒々しい雰囲気を纏ったラミアの姿はなかった。

 あるのは朝の湖のような穏やかな静けさと、初めて会ったときよりも一回り小さな体だった。


「眷属たちに与えていた力も我が身に戻った。勇者よ。改めて名乗ろう。私がラミア・A・ベルゼブブだ」


 立ち上がったラミアは魔族であることを忘れそうなほど美しい容姿をしていた。勇者はラミアの美しさに息を飲み。次に恐怖を感じた。

 勇者が感じた恐怖はラミアから放たれるプレッシャーが今までの比ではないと気づいたからだ。


「先ずは、我が眷属を傷つけてくれた礼をせねばな」


 ラミアは勇者から視線を逸らして勇者パーティーを見る。


「逃げろ!」


 勇者はラミアが何をしようとしているのか、気づいて叫んだが、叫んだ時にはラミアはダルデの前に立っていた。


「あっあぁ」


 神官の横には魔法使いと戦士が寝かされている。魔法使いは魔力を使い果たし、戦士は爆発の衝撃で傷ついているのだ。動けるのは自分しかいない。神官であるダルデは立ち上がり拳を構える。

 だが、その拳のはラミアを見た瞬間に感じた恐怖が震えとなって表れていた。


「お前は最後にしてやろう」


 ラミアがダルデの横を通り過ぎるとき、ダルデは動けなかった。三ツ又の槍は迷うことなく戦士グルガンの胸に突き刺さる。


「我が眷属痛み。知るがいい」


 戦士グルガンは胸に刺さる槍の痛みで目を覚まし槍を掴んだ。


「むっ、まだ抵抗できる力があるか?」


 ラミアは勇者と神官の反応から動けないモノだと思い込んでいた。だが、戦士グルガンは勇者パーティー中で一番の経験者であり、恐怖というモノを理解していた。


「勇者シュウよ。魔族を討て!」


 戦士の叫びに神官と勇者は止まっていた時を動かす。戦士は血を吐き二人の恐怖を取り去ったのだ。


「なるほど。貴様が勇者パーティーの要であったか、ならば何としても殺しておかなければならんな」


 ラミアはライダーの技である体を高速で回転し始める。胸に突き刺さった槍は次第に戦士の掴んでいた手を巻き込み体を抉り始める。


「ガハッ」

「グルガンを離せ」


 戦士は大量の血を吐き出す。近くにいた神官は聖歌を唱えつつ、拳をラミアに向けて振るった。神官だって拳が当たるとは思っていない。

 それでも戦士からラミアを遠ざけることができるなら、神官は自らの身を犠牲にすることも考える前に動いていた。


「好きにするがいい」


 ラミアは戦士から槍を引き抜き神官の拳を避けた。


「グルガン」


 ラミアの動きよりも神官は傷ついた戦士に聖歌を使う。傷の状態など気にしない。魔力を最大まで高めて聖歌を使う。


「グルガン!グルガン。戻ってこい」


 神官は何度も戦士の名を呼び回復を望むが、戦士から返事が返ってくることはなかった。


「……くっ」


 神官は自らの聖歌が通じていないことはわかっていた。手応えがないのだ。傷がいくら塞がろうと、戦士グルガンの心臓は動かない。そこにあるはずの魂がすでに体から離れてしまっている。

 神官は勇者を見て、首を横に振る。神官の答えに勇者は自らの無力を嘆き力を爆発させる。


「よくもグルガンを!!!」


 勇者は叫ぶと共に剣に魔法を付加する。


「魔法剣 雷」


 だが、魔法は勇者が思うよりも巨大な威力を秘めていた。剣だけでなく、全身に降り注いだ雷は勇者自身に憑依した。

 そして、雷となった勇者はこれまでとは比べられないほどの速度でラミアに肉薄する。


「勇者よ。本気になったか」


 全てを吸収して力を取り戻したラミアと、女神の加護を最大限にした勇者が剣をぶつける。


「お前は俺が倒す」

「やってみるがいい。勇者よ」


 アモン領大戦、最大の戦いが始まろうとしていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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