アモン領大戦 4
ラミアとライダーは三ツ又の槍を構えて、それぞれの敵に相対する。勇者と相対するラミアを一瞬チラリと見たライダーは誇らしげな気持ちになった。
母であり、師であるラミアが久しぶりに自分と同じ武器を持ち、戦場に立っているのだ。ラミアの眷属になってからライダーは一番に槍を習った。最初は重い槍を上手く使えなくて、槍に振り回されていた。年月を重ねていくうちに槍の重さに慣れて、自らの力で振れるようになった。
ラミアと共に戦場を駆け抜けた人を倒し、魔族を退け、槍を振り続けた。毎日の修練も欠かしたことはない。突きと払いを何年も重ね。自らの技を編み出すまで槍慣れていった。
人間との戦争が落ち着き、ラミアが偉くなり戦場に出なくなった。それでも魔族として力は磨かなければならない。ライダーは三ツ又の槍を振るい続けた。自分がラミアを守る盾であり矛となれるように。
「どうした?かかってこないのか?」
ライダーは初めて味わうプレッシャーに汗を流していた。声をかけてきた相手はタダの人間なのだ。魔力が高いわけでも、勇者ですらない。
タダの人間が放つプレッシャーがこんなにも強いと感じたのは初めてのことだった。
「言われなくても戦ってやるさ」
ライダーは姿勢を低くして、自らを槍の先にするように感覚を研ぎ澄ませる。
「死ぬがいい。人間よ」
スレイヤーに負けた時からどうすれば負けないか考えていた。スレイヤーのバリアを突破するにはどうすればいいか。力だけでもスピードだけでもダメだ。感覚を研ぎ澄まし、全てを貫く一本の槍にならなければならない。
「貫槍」
「……」
戦士は重い大剣を一振りする。貫く槍と盾と間違うほど大きな剣がぶつかり合う。
「それで防げると思うなよ」
バリアで防がれた時から相手が盾や剣で防ぐことを想定して技を編み出したのだ。貫くためにはどんな手段でも取る。力と速さだけで足りないのであれば回転を突ければいい。
「ドリル」
ライダーは突き刺さる槍ごと自身の体を回転させる。まるで巨大なドリルとなってグルガンの持っていた大剣に穴を開けようとしていた。
「威力は見事。だが……」
グルガンは押し込まれる槍の威力を受け流すように、その身ごと、体を斜めに向けた。勢いを逸らされたライダーは地面に向かって槍を突き立てる。
グルガンの大剣には穴が開き、それでも切るのに支障はないと振り上げる。
「まだだ」
大剣と槍。長さはどちらの方が有利なのか。ライダーは回転する力はそのままに、槍の持ち手を変えて砂漠を抉り突きから払いに攻撃を変える。
「むっ」
それに対して、威力が低いと見たグルガンは剣で応戦するが、三ツ又の槍はグルガンの予想よりも遥かに重い一撃を手に伝えてきた。
ライダーは攻撃を止めることなく、返された力を利用して上空に飛び上がる。
「速さ力、回転、重み。どんなモノも利用する」
ライダーは飛び上がったまま回転を始める。槍の重みを生かした回転は速さを増して落下の速度も加える。一度スレイヤーのバリアに防がれた攻撃だが、あのときの威力とは比較にならないほど強力になっている。
「七星流星群」
ライダー最強の一撃がグルガンに襲い掛かる。
「はっ」
グルガンは掛け声を上げて槍を肩に担いだ。それまで防御に徹していた剣を担いだ姿は鈍足で、お世辞にも攻撃を当てられるとは思えない。
それでもライダーはグルガンを侮ることなく、全力を持って槍の星を降らせる。
「斬」
全てを拒絶する断絶の一撃が放たれる。
「ガハッ」
グルガンが放った一撃はライダーの槍を圧し折り、返す刀でライダー自身も吹き飛ばした。ライダーは全身がボロボロになり動けなくなった。
「トドメだ」
「まだ負けない」
ボロボロになった体を引きずりながら、ライダーはグルガンの足を掴んだ。グルガンもまさかライダーが動くと思わず油断していた。
「魔力がない人間族が魔族を舐めるなよ」
ライダーは掴んだ手を離すことなく魔力を暴発させる。それはライダーができる最終手段だった。グルガンはライダーの腕を切り落とし離れようとする。
しかし、ライダーの魔力は少し離れたぐらいで威力を軽減できるほど生半可な魔力ではない。普段武器にこだわり肉体強化だけに費やしている魔力を一気に外へと放出したのだ。
「バカな」
「ラミア様は負けない」
ライダーとグルガンは魔力の光に包まれた。
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