アモン領大戦 3
炎蛇の眷属であるライダーたちは勇者パーティーを相手にしていた。だが、彼女たちは勇者パーティーの強さを見誤っていた。
勇者ばかりに目を奪われており、勇者単体が脅威であると考えていたのだ。しかし、勇者にとって魔法も、剣も、聖歌も全て仲間たちによって教えられたものなのだ。
その師である仲間たちが弱いはずがない。彼らは人間族の中でも指折りの強者なのだ。
「前回は疲れてから一撃しか魔法使えなかったけど。今日は違うからね」
魔法使いは楽しそうに魔法を唱え、その一撃一撃が眷属たちを追い詰める。普通の魔導士であれば、ライラも魔法で応戦することができた。しかし、魔法使いの使う魔法は威力が桁違いに強い。
ライラの魔法を貫通して襲ってくるのだ。
「あんたも魔法を使うみたいだけど。まだまだ粗削りね。魔法は魔力を凝縮すれば威力を上げることができるよ」
言葉の意味はライラにも理解できる。だが、それをできるかと言えばまた意味が変わってくる。魔法の真理を理解し、何年も修練を積んだ者だけが到達し得る領域なのだ。
「私達は負けない」
ライラは自分の魔法が魔法使いに劣っていると素直に認めた。だが、それで負けたとは思っていない。自分には姉妹たちがいるのだ。力を合わせればどんな巨大な敵であろうと太刀打ちできる。
「ララ、ラピス」
ライラの呼びかけに妹たちがライラの前に立つ。
「合わせるわよ」
二人が攻撃を仕掛ける際にライラは魔法を発動する。ララとラピスも魔法使いのでたらめな威力に圧倒されながらもライラの援護で近接戦闘を仕掛けるために近づいていく。
だが、魔法使いに近づいた二人を待ち受けていたのは、武器による攻撃を遮断する聖なる盾だった。魔法使いを守るように現れた聖なる盾は神官が作り出した聖歌であった。
「魔族の攻撃が通じると思うなよ」
「ダルデ、やるじゃん」
魔法使いが攻撃を、神官が防御を二人のコンビネーションは完璧で、いくらライラたちが猛攻を仕掛けても二人の前に無効化されてしまう。
さらに、魔法使いの威力に当てられたライラたちは徐々に消耗が激しくなり、傷がどんどん増えていく。
「負けない。私たちは負けない戦いをする」
ライラは魔力を爆発させる。炎蛇の眷属であるライラに相応しい炎の柱が吹き上がり勇者パーティの二人を包み込む。
「ファイアーウォール」
吹き上がった魔力の威力は凄まじく、魔法使いはその巨大なファイアーウォールを見て感嘆の声を漏らす。
「凄い」
「エティカ。何を感心している。これじゃあシュウの手助けができない」
エティカとは別にダルデはライラが作り出した炎の壁を脅威に感じていた。
「待ってなって。これぐらいの炎、私が消して見せる」
魔法使いは巨大な炎を作り出す。
「炎を消すのに炎を出す奴があるか」
「バカね。炎は炎で消えるのよ」
巨大なファイアーウォールに向けて、巨大なファイアーボールが衝突させる。二つの力がぶつかり合い、炎は火力が増していく。
ファイアウォールはファイアーボールを飲み込みさらに大きくなる。
「ウソ!」
「余計大きくしてどうすんだよ」
魔法使いはライラの覚悟を見誤った。ライラはその命を賭して炎の壁を作り出したのだ。それは魔力の暴走に近い状態であり、魔法使いの魔力ですら飲み込む。
巨大になった炎の壁は熱を増して、五人は灼熱の地獄を味わうことになる。だが、眷属たちはその身が焼かれようと、引くことはなかった。
「体が焼かれようと、我々はお前たちを殺す」
ララやラピスは火の雨が降る中で、武器を構えて魔法使いと神官に襲い掛かる。
「上等よ。ダビデ、負けたら承知しないわよ」
「お前が言うな」
二人は話をしながらも、魔法の発動を開始していた。魔法使いは炎の中で更なる炎を作り出す。神官も聖歌で回復と防御を作り出す。
「神官だから近接戦闘が弱いとでも思ったか?」
近づいてきたララの頬を殴り、ラピスの腹を蹴り飛ばした。
「神官が聖歌だけと思うなよ。俺の拳は魔族も貫く」
神官は火の粉舞う戦場で上半身の法衣を脱ぎ捨て、裸で拳を構える。
「あんたのスタイルだけは理解できないわね」
「拳を振るうのに余計な物を排除しただけだ」
飛んで行った眷属たちに炎を打ち込んだ魔法使いは呆れた様子で神官に話しかける。
「あなた達が私たちよりも強いことは十分にわかりました。でも、この炎の檻から絶対に出さない」
二人を睨むライラは自らの体を隠すように炎が上がる壁の中へと身を投じた。ラミアが勇者を討つその時までライラは自らの命の炎を燃やし続ける。
「そんだけの覚悟見せられたら、私もとっておきを見せなきゃね」
「おい!何をする気だ?」
「ダビデは自分の心配だけしてなさいよ」
魔法使いは全ての魔力を練り込むように、風が吹き上がる。
「ぶつけて消せないなら、飛ばしてあげる」
風が竜巻のように渦を巻いて空へと昇っていく。熱が風に乗って燃え上がり、炎は火力を増すとともに風に乗る。それまで動く気配すらなかった炎は風と合わさり作り出していたライラの手から離れていく。
「どうして……」
ライラはぶつかり合っていた炎と風が強く増して消えていく。
「ハァーちょっと無理し過ぎたわね。後は任せたわよ」
魔法使いは魔力を全て使い果たしたのか意識を失う。残された神官はため息を吐きながらも、魔王使いを地面に寝かせて眷属たちを見る。
「我々を阻む壁は消滅した。まだやるのか?」
ライラは魔力の全てをファイアーウォールに注ぎ込んでいたので、意識を保てているがすでに戦う力はなく。ララやラピスに至っては火の粉と体中に受けた傷で立ち上がることも困難な状況だった。
「死にたいか。ならば、そこで見ているがいい。勇者の力を」
神官の言葉にライラたちはラミアの方を見る。
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