ディナー
地下迷宮は下水の流れる音と、ビッククロビカリの足音だけが聞こえている。普通の魔族は、不潔なこの場所を嫌って絶対に入ろうとはしない。
しかし、五匹のオークたちは怒りに任せて地下迷宮に入る決意をした。仲間を殺され、殺した相手に逃げられ、怒りにその身を震わせ、逃げた相手がいるであろう地下迷宮を探索していた。
地下迷宮は臭く、綺麗好きである彼らには地獄のような場所であり、彼らの一番嫌う場所に誘いこまれたことに更なる怒りを感じていた。
「あいつ、どこに逃げやがった」
オークたちの手には、こん棒やデカイ包丁を持っていた。
スレイヤーは回復魔法で治した体を魔法で壁に同化させる。隠密系の魔法なので触られてしまうと解けてしまう。スレイヤーは魔法に長けていないオークならば十分に騙せると確信していた。
「狩りの時間だ」
案の定、オークの一匹がスレイヤーの前を通り過ぎても気づく気配すらない。五人目のオークが通り過ぎ去ってスレイヤーは魔法を解いた。
オークたちは何も気づかずに角を曲がっていった。スレイヤーは気配を消した状態で、一匹のオークの口を塞いで首を飛ばす。
「一匹目」
小さく呟くように発せられた言葉を聞いている者は誰もいない。
スレイヤーはオークたちの気を引くために、オークたちの前方に石を投げて音を鳴らす。
「なんだ?」
先頭にいたオークが音のする方に向かっていく。後続の二匹が立ち止まっていたので後ろから手刀で心臓を一突きする。
「なっ」「お前……」
何かを呟く前に喉を潰して絶命させる。
「三匹」
ようやく異変に気付いた先頭のオークが振り返ると、仲間が串刺しにされている光景を目の当たりにする。スレイヤーは四匹のオークを魔法で強化した体で暗殺した。
「四匹目、お前で最後だ」
残された先頭のオークは壁を殴り、一番にスレイヤーを蹴飛ばしたやつだった。
「なんなんだお前は」
怯えた声でオークがデカい包丁を前に突き出す。
「ただの魔人族だよ。お前たちと変わらない魔族だ。ただ、俺は爺さんから色々と戦い方を教えてもらってはいるがな」
スレイヤーはデカイ包丁に怯むことなく魔法を唱える。簡単な魔法であり、攻撃魔法としては初期に習うモノだ。
「ウィンドー」
風刃がオークの胴体を切り裂く。
「魔法だと……」
上半身だけとなったオークが驚きの声を上げる。
「ラミア様の食事ができたな」
「ブヒー、助けてくれ。魔法が使えるなら回復もできるんだろ」
「なんで?お前を助けないといけないんだ?お前が一番殴ってくれたよな」
「悪かった、悪かったよ。頼む。助けてくれ。助けてくれるなら奴隷にでもなんでもなるから」
オークの言葉にスレイヤーは口の端を上げて笑う。
「醜い奴はいらないな」
スレイヤーはオークの顔を踏みつぶした。五人の死体を見て、スレイヤーは一つ息を吐く。
「スラ、いるんだろ?」
スレイヤーの声に反応して使役したスライムが現れる。
「潰してグチャグチャにしたこれと、切り裂いて飛び出た要らないところはスラにやるから食べてくれ」
スレイヤーの言葉を理解しているのか、スラは踏みつぶしたオークの頭を溶かして食べていく。その間に心臓を貫いたオークと頭を飛ばしたオークの血抜きをする。
「早めにやった方が新鮮さを保てるからな」
下水に流れる真っ赤な血を見て、スレイヤーは口の端を上げる。今のスレイヤーの顔を見た者がいたならば彼の本質を知ることができただろう。
「スラ、お前は地下迷宮で魔物の肉を喰らって強くなれ。たまにこうして餌も与える。だから絶対に生き残れよ。俺も頑張るから」
調理に仕えない部位を全てスラに与え、スラはオークの力を得たことで心なしか艶が出たような気がする。もしかしたら強くなっているのかもしれない。
「また来るからな」
スレイヤーはスラと別れて、オークの死体を食堂に運んで調理を開始する。出来上がった料理に満足して、残ったオークの肉はウィンナーにして貯蔵する。
「さて、運ぶか」
出来上がった料理は豚足、ミミガー、豚の生姜焼き、トン汁、角煮、トンカツと味のバリエーションから食べ応えまで考えて調理した。
「ラミア様が喜んでくれるといいが」
満足そうに笑うスレイヤーの後ろには頭を下にして吊るされたオークがいた。すでに心臓はなく血抜きが終わっているので肉としての鮮度を保っている。
料理を運ぶため食堂からスレイヤーが居なくなり、食堂を訪れた魔族が悲鳴を上げるまで時間はかからなかった。
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