アモン領大戦 2
ラミアと勇者が戦いを始め、人間族と獣人魔族の戦いも激しさを増していく。タマモの指示により、獣人魔族は全戦力を投入して人間族へ戦いを仕掛けた。
これに対して人間族は数で応戦する。巨大なトカゲには魔法を使い。小さな虫人魔族にはフルアーマーを付けた重騎士たちが。獣人魔族には徒党を組んで多対一の戦いを仕掛ける。
「我々獣人魔族は人間族など、何人来ようと問題ないぞ」
いくら強い獣人魔族であろうと、数は脅威である。強がっていても、獣人魔族は次第に押され始めていた。だが、人間族は忘れてはいけない存在を思い出す。
「ガウォーーーー!!!」
戦場全体に響き渡る声には魔力が込められていた。魔狼が使える二つ目の魔法、ソウルハウンド。仲間の獣人魔族には気力を与え、敵には恐怖を植え付ける。
それまで優勢に進めていた人間族は、極大魔法を消滅させた魔狼の存在を怯えずにはいられなかった。
「親方が応援してくださってるぞ」
獣人魔族は息を吹き返したように人間族を討ち果たし始め、獣人魔族は強化された肉体をフルに使って人間族を殺し始めた。
逆に人間族はどこから魔狼に責められるかわからぬ恐怖から足が竦み、強張らせた体は思うように動かない。
「くっ、このままでは……極大魔法の用意だ」
人間族の司令官は勇者が足止めされ、魔狼が復活したことに怯える兵士を鼓舞するため、魔導士を犠牲にすることを顧みる余裕をなくして極大魔法の指示を出した。
しかし、司令官の命令があっても、極大魔法が発動されることはなかった。
獣人魔族もバカな者ばかりではない。獣人魔族の副官を務めるタマモは、ずっと魔狼に危害を加えた極大魔法について調べていた。
スレイヤーについたノミから得た情報で、スレイヤーが気にした魔導士たちにタマモも目星をつけていた。だからこそ、タマモは生き残っているノミを使って司令官の監視をさせていた。
監視されていた司令官が指示を出したとき、タマモは自らの私兵であるクルルたちを動かした。
「タマモ様を舐めた罰だ」
狐人族たちは魔法を唱え始めた五十名の魔導士たちに襲い掛かった。極大魔法が発動しなかった戦場では獣人魔族たちが人間族を蹂躙し始め、タマモが操る特大トカゲが司令官がいる天幕を襲う。
「舐められたモノだな。獣風情が」
そこで待ち受けていた司令官クラウド・ハイネスは剣を抜き、巨大なトカゲを一刀両断して見せた。
「剣聖クラウドには及ばないかもしれない。だが、剣の道に生きた者として鍛錬を怠ったことはない。俺は剣のみならず、魔法も扱える。獣人が魔法に弱いことはわかっているのだ」
王国騎士団時代、クラウド・ハイネスは天才と言われていた。勇者や剣聖がいなければ人間族の中で一番の戦力であったことだろう。
「人間風情が調子に乗るなよ」
タマモは鉄扇を帯から息抜きクラウドに突きつける。
「獣風情が何を吠える」
二人が言い合いを始めると、人間族の兵士が集まり、狐人族もタマモを守るためタマモの後ろに控える。
「司令官の首は、獣人魔族の副官タマモが取るよ」
「オオォォォォォーーー!!!」
狐人族はタマモの宣言に呼応されるように雄叫びを上げて砂漠を駆ける。タマモは鉄扇を開き、口元を隠した。
「狐火」
揺らめく紫の炎がタマモの周りに現れる。
「火の魔法か。大した威力もなさそうだ」
クラウドは剣を下段に構え、魔法を唱える。タマモに対抗するように空中には水の刃が生まれ始める。
「ウォータースラッシュ」
先手を打ったのはクラウドの方だった。水の刃をタマモに向けて放った。しかし、狐火によって揺らめくタマモは水の刃を避けることはなかった。水の刃はタマモをすり抜け後方に飛んでいく。
「なんだと」
「すでに術の中にいる。お前に勝ち目はない」
クラウドが異変に気付いたときにはタマモの身体がユラユラと消えていく。残された紫の炎がクラウドに近づいていく。クラウドは紫の炎を剣で払うが、いくら払っても火が消えることはなく、むしろクラウドにまとわりついていく。
「九火」
九つの火がクラウドを包み込み、次第に火力を上げていく。
「狐火は一つでは大した威力を持っておらぬ。だがな、一つでも幻惑は作りだせる。九つ全てが集まれば人間族など簡単に殺せる威力を秘めておるわ」
タマモの言葉にクラウドは自らの迂闊を恥じながら、一つ息を吐く。
「舐めるなよ」
火力が高まり、狐火がクラウドを焼き尽くす寸前。クラウドの体が青く光を放った。
「魔力よ」
青い魔力は水を操る。狐火が火力を最大にして爆ぜる前に、クラウドは自らの水魔力を爆発させることで狐火から消滅させる。
「小細工で勝てると思うなよ」
「ならば力で押し通す」
ラミアが勇者と戦う中で、様々な戦いが行われる。クラウドとタマモの戦いは人間族、獣人魔族それぞれの司令官が雌雄を決する軍隊から、一対一へ対決するまで佳境へと差し掛かっていた。
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