覚悟
ラミアが旅立った後、スレイヤーは瑠璃姫の下を訪れていた。ラミアの代わりに新しい死天王となったのはオーガ族の瑠璃姫だった。
「久しいねぇ。スレイヤー」
ラミアの寝室だった部屋は和式に改良され、瑠璃姫仕様になっていた。部屋の脇には婆やさんが控えているのか、影だけが見えている。
「お久しぶりです。瑠璃姫様」
「よくきた。主もよくぞ戻ってきたねぇ」
「瑠璃姫様は状況を知っておられるのですね」
「知ってるえ。炎蛇様のことも、主のことも聞いておるよ」
お転婆な印象だった瑠璃姫は死天王になったことで、どこか大人びた印象を与えるようになっていた。
「この度は死天王へ昇格おめでとうございます」
「失態による空席を埋めたに過ぎんよ。自分の実力で手に入れたわけではないわ」
「それでも死天王に成れる力量があったからこそ選ばれたのだと思います。ですので、めでたいことに変わりはありません」
「屁理屈やね。でも嬉しくないと言えばウソになるなぁ。死天王として恥ずかしくない行動をとるつもりやよ」
瑠璃姫なりに考えあっての態度ということだろう。
「それで?今日はどのような用向きだ?」
「はい。私は元々ラミア様の配下です。魔王城では居場所がありません」
「我に雇用せよということか?」
「いえ、ラミア様がアモン領へ向かったことはわかっておりますので、アモン領へ赴く許可を頂きたいと思います」
スレイヤーは片膝を突き、瑠璃姫に会いに来た要件を伝える。
「どうして私に言うん?」
「もしも、ラミア様が帰ってこなかった場合。自分の帰る場所を作っておきたいのです」
「負けて帰ってきた主を迎え入れよっていうことかいな?」
「はい。私は必ず生きて帰ってきます。ですので、帰る場所がほしいのです」
顔を上げたスレイヤーは口元に笑みを作る瑠璃姫を見た。
「ええよ。あんたの帰る場所はうちが作ったる。でもなぁ、そんときは馬車馬のように働いてもらうえぇ。もちろんええな?」
「もちろんです」
「面白いなぁ。なんでそこまでするん?あんたなら自由に生きたらええんちゃうの?あんたの力量は私もイッちゃんも認めてるよって」
瑠璃姫がどのような答えを求めているのか、スレイヤーはわからない。わからないが、スレイヤーは自分の中にある答えを真っすぐ瞳を見つめながら答える。
「私は魔王軍で生き残りたいんです。魔王軍という組織の中で自分という存在を生き残らせたい。それが私の目標です」
スレイヤーの瞳にウソ偽りはない。瑠璃姫はじっとスレイヤーを見つめる。
「……なんや。大した目標やないね」
「そうかもしれません。でも、引けないときがあるんです」
スレイヤーは真実に覚悟を示す。
「男の顔ってやつかいな。悪ないな」
「許可を頂けますか?」
「さっきも言うたやろ。ええよ。許可するだけであんたを手に入れられるんや。安いもんやろ」
瑠璃姫の許可を得たことで、スレイヤーは立ち上がる。
「ありがとうございます。必ず帰ります」
「無事を祈っとるよ」
スレイヤーは深々と頭を下げて瑠璃姫の部屋を後にした。
「よろしかったのですか?」
「ええよ。スレイヤーのことは気に入ってるのはホンマや。なぁイッちゃん」
「スレイヤーは強い。仲間になるなら心強いですなぁ」
部屋に入ってきた婆やとイチはスレイヤーの去った扉を見る。
「まぁラミアはんが勝ったらこの話もなしや。負けることでも祈ろかね」
瑠璃姫のセリフに二人は何も言わなかった。
瑠璃姫の下から離れたスレイヤーは待たせていたリンの下に向かう。
「待たせたな」
リンにはスレイヤーが魔族であることを告げて、リンも魔族として生き残ることを求めていた。魔王城で待っているリンは生きた心地がしなかったかもしれない。
「ううん。リョウボさんと話してたから大丈夫」
「リョウボさんもありがとうござます」
「いいよいいよ。リンちゃんはいい子じゃないか。大切にしいや」
「すいません。しばらくの間、リンをお願いします」
「わかってるよ。ラミア様のこと頼んだよ」
リョウボさんはこうして頼まれるのは二度目だ。
「あんたもまた戻ってきなよ」
「スレイ」
スレイヤーはリンの頭を撫でる。
「リョウボさんに仕事を教えてもらっておけ。必ず帰る」
「うん。絶対帰ってきてね」
スレイヤーは二人に分かれて、転移を発動する。
「信じて待ちな。好きな男を待つのは女の甲斐性だよ」
「はい」
リョウボさんに背中を叩かれ、リンは祈るようにスレイヤーが消えた空間を見た。
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