一夜の企み
リンとの一夜を過ごしたスレイヤーが商館から出ると、先に商館を出ていたザコたちがスレイヤーを出迎えてくれる。
「よう、初体験だったんだろ。どうだった?」
ザコは酒臭さは抜けていたが、酒を飲んでいるときと同じようなテンションでスレイヤーに問いかけてきた。
「悪くなかった」
「悪くなかった?ハハハ、やっぱお前貫禄あるわ」
スレイヤーの返答が可笑しかったのか、ザコはスレイヤーの肩に腕を回して笑い始める。
「なぁ、スレイ。もし困ったことがあったらいつでも俺たちに言えよ。俺たちは一応B級冒険者なんだ。新人の一人ぐらい面倒見てやるからよ」
ひとしきり笑ったザコは、真面目な顔でスレイヤーを心配するように言葉をかけてくる。
「おうよ。俺たちはもう仲間だ」
ザコに続くように、ハンゲの他二人も頷いた。
「ありがとう」
スレイヤーは素直にザコたちにお礼を述べた。人間も悪くない。ザコたちの雰囲気にスレイヤーは心地よさを感じていた。
「よし、今日も頑張って働きますか」
ザコの言葉で装備を整えるために解散となった。スレイヤーは一度商館を振り返り、自分がいたであろう部屋を見る。部屋の窓からはリサがスレイヤーを見ていた。結局昨日は何もせずに眠りについた。
だが、全てを諦めたリンの瞳に、スレイヤーは思案するような顔をしてから立ち去って行った。
冒険者ギルドに行っても仕事があるわけではないので、街の散策をした後、スラの下へとやってきた。昨日よりも、スラを取り囲むモンスターの数が増えていた。
スライムだけでなく、ゴブリンやオークまで存在する。その数は森で隠れている場所では数えられないほどになっていた。冒険者パーティーが遭遇すれば一溜りもないだろう。
「なんだこいつら」
不運な奴はどこにでも存在するものだ。スレイヤーは身を隠し気配を消す魔法を発動する。
「おい、冒険者ギルドに知らせにいけ。モンスター行進だ」
聞きなれない単語が飛び出し、冒険者の一人が逃げ出していく。しかし、冒険者の声を聞き逃さなかったモンスターたちが一斉に冒険者に襲いかかった。
四人の冒険者パーティーは、一瞬にしてモンスターに飲み込まれた。冒険者ギルドにモンスターが集まっていることは誰にも知られることはないだろう
「スラ、いるかい?」
一匹のスライムがスレイヤーの前にやってくる。モンスターに囲まれているからか、いつもよりも威圧が増しているように感じる。
「今晩やってほしいことがある。それまでに、この辺り一帯のモンスターを集めてくれ。面白いことが待ってるから」
スラはスレイヤーの言葉にプルプルと震える。そして、モンスターたちの中へと消えて行った。ベルゼブブの街付近にいるモンスターは強い者はあまりいない。一番強いモンスターでもコボルトやオークがいいところだろう。だが、弱くとも数が集まれば力になる。
「今夜が楽しみだな」
スレイヤーは街へ戻り、冒険者ギルドを訪れた。先ほど死んだ冒険者たちの身分証を拾ってきたのだ。
「これを」
「おう、ありがとな。そうか、こんな初級モンスターしかいないところで死んだのか。こいつらも残念だったな」
ギルド職員であるオッサンは悲痛な顔をして、身分証であるギルドカードを受け取った。
「お前さんも新人なんだ。一人で無理はするなよ」
「ああ、それとこの冒険者が死んでいたところで、大量のモンスターがいる気配を感じたんだ。みんなに警戒するように伝えておいてくれ」
「重ね重ねすまねぇな。警告しておくよ」
オッサンは新人冒険者であるスレイヤーを、一人前の冒険者として扱ってくれているようだ。報告したことをしっかりとメモっていた。
「ここはまだ安全じゃないってことだ。お互いこんなところで死なねぇようにしねぇとな」
「ああ」
報告を済ませたスレイヤーが冒険者ギルドから出ようとすると、ザコに声をかけられた。
「スレイ。今日はもう仕事終わりか?」
「ああ、今日は嫌なモノを見たからな」
「まぁ、そういう日もあるさ」
スレイがギルドカードを渡しているのを見たのだろう。ザコがスレイヤーを気遣うような顔をしている。
「落ち込んだときは女に限るぜ。どうだ?今日は奢ってやれねぇけど一緒に行くか?」
「そうだな」
スレイヤーは宿を取っていないので、ザコに言われてリンのことを思い出す。ハンゲや他のメンバーはまだ飲んでいると言うことだったので、ザコと二人で商館に赴いた。
「二日続けてのご来店ありがとうございます。今日はどうされますか?」
「こいつが落ち込んでるからな。慰めてやりてぇんだ」
「そうですか。一夜の娯楽をお楽しみください」
昨日と同じように開かれた赤カーテンの先にいた。リンを選び、部屋へと通される。
「どうして私を指名するんですか?」
「別にいいだろ。今日は夜に面白いことがあるからな。早めに寝るぞ」
「また寝るんですか?寝るなら、私はいらないですよね」
「どうした?何か言われたのか?」
昨日よりも積極的に体を密着させてくるリンは、少し自暴自棄になっているように感じる。
「別に何も……ただ、私も穢れれば諦めがつくかと思って」
他の女性たちに何か言われたのだろう。スレイヤーは昨日と同じ質問を投げかける。
「逃げたいか?」
「……逃げれるわけないじゃない。私は奴隷なのよ」
首に付けられた首輪を掴み、リンは絶望に打ちひしがれた表情で膝を突く。
「逃げたいってことだな。なら、今晩を楽しみにしていろ」
「どういう意味?」
「それは夜になってからのお楽しみだ」
スレイヤーはリンの事など気にしないと言わんばかりにベッドへと倒れ込んだ。リンはどうしていいか分からず、昨日と同じようにスレイヤーの横で体を倒した。
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