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商館

 スレイヤーが街に戻り、冒険者ギルドに行けばエティカの正体はすぐに分かった。冒険者ギルド内にデカデカと似顔絵が飾られていたのだ。


「勇者パーティーだったのか」


 勇者パーティーと呼ばれている人物は、勇者を入れて四人。勇者シュウ・アカツキ、戦士グルガン、神官ダルデ・マカロフ、魔法使いエティカの四名だ。

 エティカが自分は有名人であると言った理由も頷ける。冒険者ギルドが経営する食堂の壁一面に巨大な顔が描かれているのだ。気づかない方が不自然だろう。


「なんだ?兄ちゃん。見ねぇ顔だな」


 酔っぱらった冒険者がスレイヤーの肩に腕を回してくる。一応剣に手を当てていたが、大事にしない方がいいだろうと払い退けなかった。


「今日ここに来たばかりなんだ」

「そうかそうか。新人か?新人にしちゃ風格があるが、まぁいい。俺はザコ。冒険者で盗賊をしてるんだ」

「俺はスレイ。剣士だ」


 魔法が使えることを伏せたのは、手の内を晒す必要はないと思ったからだ。


「剣士?その割には随分細い体だな」

「そうか?これでも鍛えてるんだ」

「まぁいい。そんなことよりも勇者パーティーのエティカちゃんを見てたのか?」


 男がイヤらしい笑みを作ってスレイヤーを覗き込む。


「ああ、さっき森で会ったんだ」

「そうかそうか。みなまで言うな。エティカちゃんは可愛いからな。しかも戦うときの魔法少女の衣装はエロい。それに興奮しない男はいないよな」


 どうやらこちらの話は聞く気がないらしい。


「興奮しちまったら鎮めにいかねぇとな」


 ザコは強引にスレイヤーを冒険者ギルドの外へと連れだした。冒険者ギルド内で、もめ事を起こすことはできないと思ったのでザコに従えば、ザコの仲間らしき三人の冒険者が外で待っていた。スレイヤーはザコにはめられたと剣に手を添える。


「なんだ?そいつ?」

「こいつは新人のスレイ。今日の楽しみに参加させてやろうと思ってよ」

「お前も物好きだな」


 戦士風の男が、ザコの行動に慣れているのかヤレヤレとため息を吐く。残りの二人はスレイヤーに興味がないようでスレイヤーを見ようともしない。


「どういう状況だ?」

「まぁそうだろうな。何も説明されてねぇよな。こいつはいつもそうだからな。脅かせて悪かった」


 戦士風の男に謝られ状況を説明された。どうやらザコは面倒見がよく。弱そうな見た目に反して案外腕が立つらしい。

 そこで新人の世話をしたり、遊びに誘ったりすることが多いそうだ。今日の標的にスレイヤーが選ばれたというわけだ。


「まぁこいつも悪気が合ってやってるわけじゃねぇから付き合ってやってくれ」

「あぁ」


 戦士風の男が説明している間も、ザコは陽気に歌いながら先頭を歩いている。


「俺は戦士のハンゲだ。ザコとは長い付き合いでな。同じパーティーを組んでる。あと、俺はハゲじゃねぇからな」


 スキンヘッドを指さしながら自己紹介するので、どうしても視線は頭に行ってしまう。だが、本人が気にしているようなので、触れない方がいいのだろう。


「ああ、俺はスレイ。剣士だ。よろしく頼む」

「お前、新人のくせに貫禄があるな」


 ハンゲはザコと同じようなことを言う。長い付き合いのせいか、物腰がザコに似ている。


「おい、お前ら着いたぞ」


 ザコが陽気な調子でスレイヤーとハンゲに声をかければ、煌びやかな光に彩られた建物を指さしていた。


「スレイはこういうところは初めてか?」


 スレイヤーが驚いているのに気付いたハンゲが気の毒そうに問いかけてくる。


「ああ。経験がないわけじゃないが、こういう店は初めてだ」

「まぁなんだ。こういうのも経験だからな。ザコの趣味だと思って付き合ってやってくれ」


 ハンゲに引っ張られて中に入ると、見慣れた商人が出迎える。


「ようこそお出でくださいました。バルボの商館では、一生お仕えする奴隷から、一夜の娯楽を与える娼婦まで幅広く揃えております。今日は一夜の娯楽ですかな?」


 バルボと名乗った商人は、昼間に獣人の少女を連れて行った奴隷商だった。スレイヤーの顔は憶えていなかったようで、こちらを見ようともしない。


「一夜の快楽を求めにきたぞ」

「私どもは快楽ではなく、娯楽を提供するのが仕事ですよ」

 

 ザコの間違いを指摘しつつ、バルボが手を鳴らすと赤いカーテンが開かれる。その先には様々な種族のの女性たちが立ち並ぶ。

 人間の女性はもちろん。獣人やエルフ、ドワーフと言った人間族に属しているものだけでなく、魔族の一員であるサキュバスや、人魚として知られるマーメイドなども奴隷として首輪をつけられていた。


「今日はどの子にしようかな」


 ザコは通い慣れているのか、すぐに女の子を選び始めた。ハンゲも同じように赤カーテンの中に入っていき、残されたスレイヤーも覚悟を決めて赤カーテンを通った。


「どうする?どうする?新人だからな。オレが奢ってやるぞ」


 ザコが楽しそうにスレイヤーの肩を掴んで、奢りを宣言する。


「いいのか?」

「おうよ。新人に奢るぐらいは稼いでるぜ」


 親指を立てるザコは、爽やかとは程遠い笑顔だった。


「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 スレイヤーはザコの言葉に甘えることにして、女性たちを見る。ふと、スレイヤーの視線に止まる少女がいた。


「じゃあ、あの子で」

「これはこれはお目が高い。今日は言ったばかりの新人なんですよ」

「新人ちゃんかよ。お前よく見つけたな。羨ましい」


 ザコがハイテンションでスレイヤーの肩を掴み、バルボが少女を目の前に連れてくる。青いワンピースに身を包んだ少女は昼間会ったときよりも綺麗に整えられた洗礼された美しさを表現している。

 しかし、昼間会ったときのような少女としての元気良さや明るさは失われていた。その瞳には一切の輝きはなかった。


「リサと申します。今夜はよろしくお願い致します」


 茶色い髪の間から狼耳がピコピコと動いている。警戒するように耳を立てていた。


「ああ、俺はスレイだ」


 スレイヤーはリサに連れられて、商館の一室へと連れられる。


「何からなさいますか?お風呂、それとも」


 リサはスレイヤーの前で服を脱ぎ始める。そんなリサにスレイはゆっくりと手を伸ばした。


「‼」


 怖がるリサの頭を撫でて、頬に滑らせる。


「怖いか?」

「いえ」

「まだ逃げたいか?」


 突然の問いかけに対して、リサの瞳に一瞬光が戻る。


「いえ」

「そうか。だが、寝るか」


 スレイヤーは装備を脱ぎ捨てベッドへと入る。


「汚れてはいない。今日は疲れたから寝るぞ」

「よろしいのですか?」

「抱き枕ぐらいにはなってくれるんだろ?」

「かしこまりました」


 怯えていたリサは安堵したように、腕の中へと入ってきた。 

いつも読んで頂きありがとうございます。

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