使役
ラミア様の下には多種多様な種族が使用人として雇われている。その中にはオークのような腕力が強く綺麗好きで仕事熱心な者もいれば、サイクロプスと呼ばれる一つ目魔人で人を嫌い、こちらが近づけば襲ってくる者なのがいる。そういう奴はラミア様の守護者として、雑用はしないが有事の戦力として在籍しているのだ。
それらの頂点にラミア様がおり、ラミア様に気に入られれば眷属として取り立ててもらえるので、魔族たちは常に自身の地位向上のために働いている。
眷属になればラミア様の魔力供給が受けられ、自らを強化しやすくなる。魔族は強さこそが正義なのだ。
「おい、新入り。お前のしたことわかってんだろうな」
現在スレイヤーはオークたちによって囲まれていた。ラミア様に供物として捧げた、オーク先輩たちのお友達たちに囲まれているのだ。
五匹のオークはスレイヤーよりも身長が高く、他の魔族が通りかかっても何も見えない。オークは腕力が強いだけでなくガタイも大きい。
「なんのことですか?」
もちろん問い詰められている理由については見当がついている。食堂や清掃はオークたちの仕事であり、彼らは班ごとに仲間で組み分けしているのだ。その中の一つの班をスレイヤーによって抹殺されてしまったのだ。
彼らからすれば一つの班が丸々いなくなり、生き残っているのが新入りだとすれば犯人は自ずと見えてくる。
「とぼけんじゃねぇ」
一匹のオークが壁を殴れば、振動で砂が落ちてきた。スレイヤーは手で砂を払いのけながら、目の前にいるオークたちを見る。
魔法を使えばオークなど簡単に倒すことはできる。しかし、魔法は殺傷能力が高いため確実に殺してしまうだろう。だが、堂々と殺しを続けていれば、目を付けられ敵を作るだけだ。
スレイヤーは状況を考え一つの結論を出す。
「何が悪いんだ?あいつ等は俺を殺そうとした。だから、代わりに死んでもらっただけだろ」
スレイヤーは自分のしたことを正当化したのだ。もちろん、そんなことをすればオークの怒りを買うだけだ。
壁を殴ったオークの顔が怒りに震える。さらに拳を振り上げ、スレイヤーを殴り飛ばした。スレイヤーはオークの拳をよけなかった。
「アイツらは良い奴だったんぞ。それをお前は!」
「俺は何もしてないだろ。食べたのはラミア様だ」
スレイヤーは口から出た血を拭い、オークたちを睨みつける。ラミアの名前が出てきてオークは一瞬だけ怯んだ。しかし、その怯えは怒りに変わり更なる拳を生み出す。
今度は拳でなく蹴りが、スレイヤーの腹に直撃して吐血した。
「ラミア様の名前を出してんじゃねぇよ。それにな、今日はお前がラミア様の食事になるんだ。覚悟しろよ」
ボロボロの服はオークたちの暴行によって引き裂かれ、四肢が繋がっているのがやっとなほど殴り倒された。その間、スレイヤーは一度も攻撃をしなかった。強化魔法と回復魔法を使って耐え続けた。
「おい、食糧庫にぶち込んでおけ。他の食事と共にラミア様に差し出すぞ」
最初に殴り掛かってきたオークが、スレイヤーが倒れて動かなくなったことで気絶したと勘違いしたのだろう。手を緩め他のオークに指示を飛ばした。スレイヤーはオークに抱えられて食糧庫へと運び込まれる。
「はぁ、バカな奴らだな」
食糧庫に連れてこられたスレイヤーは、オークたちをバカにした。スレイヤーが連れてこられた食糧庫には、下水に続く地下迷宮が存在する。スレイヤーは痛む体を回復させながら地下迷宮へと身を落とした。
下水にはヘドロやビッグクロビカリ、スライムと言ったモンスターが生息している。スレイヤーは地下迷宮に姿を隠した。ラミアの食事を確保するためにオークたちが探しにくるとき待つために。
「はぁ~臭いな」
地下迷宮は下水が流れている。魔王城の地下には下級魔族が暮らす居住区が存在する。居住区で出た生活ゴミも地下迷宮に捨てられるためかなりの匂いとなっている。
「キュ」
スレイヤーが地下迷宮で一息つくと、小さな鳴き声が聞こえてきた。鳴き声のする方へ視線を向ければ、一匹のスライムが数匹のビッグクロビカリに囲まれていた。
グロテスクな光景に一瞬顔をしかめるが、その光景が先ほどの自分と重なるような気がして、クロビカリたちを焼き払う。
「キュ?」
一人残されたスライムは状況が分からずにプルプルと震えていた。スライムはゲル状生命体として生きてはいる。雑食でなんでも食べるので、下水は住みやすいのだろう。スライムの知能はあまり高くないので、他の生命体がくれば食事ができると勘違いして近づいていく習性がある。ビッグクロビカリの群れに近づいて返り討ちにあったというところだろう。
「お前はバカだな」
そんなスライムを見てスレイヤーは呟く。「俺も一緒か」とスライムの状況と自分の状況を重ねて自傷する。
「キュ」
スライムはスレイヤーの事を餌だとでも思ったのか、近づいてきたので、持っていた固いパンを差し出してやる。
スライムは固いパンの上に覆いかぶさり、パンを溶かして食べている。青く透明な体を持っているスライムが食事をするシーンは初めて見た。友達のいないスレイヤーからすれば、癒される光景だった。
「はっ、スライムをペットにするのも悪くないな」
魔族の中にはモンスターを使役して使う者がいる。これは眷属とは違い、魔力供給や恩恵はなく。仲間と言うよりは命令して従わせるのだ。奴隷と主人といった関係なので、力が強い者が弱い者を従わせている一方的な関係にある。
だが、今のスレイヤーにはそれぐらいの関係がちょうどいいと思った。何よりも魔王城に来てから孤独を感じていたので、誰でもよかったのかもしれない。
「お前を我が従者とする」
魔法を唱え、使役をすることを命じれる。スライムはスレイヤーの求めに応じるように、身体を振るわせてプルプルとしていた。先ほどと見た目は何も変わらないが、スレイヤーはスライムと繋がりを感じていた。
「どうやら成功したらしいな。スライムを使役するなんて聞いたこともないが、今の俺には丁度いいだろ」
他の魔族と上手くやっていく自身などないのだ。なら最底辺の魔族と、最底辺のスライムが関係を結ぶぐらいがちょうどいい。
「今日からお前はスラだ。そして、俺はスレイヤー。よろしく頼む」
スライムに手を差し出せば、スラはスレイヤーの上に乗りプルプルしていた。手が溶かされるかと思ったが、スラの身体は冷たくてアイスパックのようだった。
「スラの身体は冷たくて気持ちいな」
スラに癒されながら、時を待った。オークが自分を探しに来る時を……
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