暴食VS勇者
スレイヤーがアモン領へ旅立って三日後、ラミアの下に新たな知らせが届いた。それは自身が管理するベルゼブブ領に勇者が現れたという報だった。
事実なのか確認が取れず、戸惑うラミアではあったが、ライラが転移魔法を使いベルゼブブ領に赴いて、それが事実であると情報を手に入れてきた。
「勇者はアモン領ではなかったのか?だが、これは好機だな。我々が勇者を倒せば、次の魔王は我だ」
ラミアは支度を整え、数名の配下と眷属を連れてベルゼブブ領へ転移魔法を使った。ベルゼブブ領は魔族領の中で緑も多く、豊かな実りを魔族にもたらしてきた土地である。
ベルゼブブ城から見える湖はヒドゥー湖という穏やかで美しい景色が広がっている。また魔族たちの中でも弱い種族が生息できる場所であり、ゴブリンやコボルトといった人間族に近い種族が生息している。
そんなベルゼブブ領は、すでに勇者一行と人間族の軍隊による襲撃がかけられていた。人間族の軍隊は今にも街を占拠する勢いで、街の中から火の手が上がっていた。連れてきた配下には街への援軍へ向かわせた。
ラミアたちは転移の門がある神殿から、さらに転移を使ってベルゼブブ城へ移動した。城では勇者一行とミアラの戦いが繰り広げられていた。ラミア一行が謁見の間に到着したときには、紫色の髪をした蛇姫が勇者によって止めを刺されようとしていた。
「させん」
瞬時に状況を把握したラミアが、得意としている炎の魔法で勇者をけん制する。勇者は突然の奇襲に対して、後方に飛び退くことで魔法を躱した。
ミアラから勇者が離れたことで、ラミアはミアラを守るように立ちはだかった。
「援軍か……」
勇者は新たに表れたラミアを意識して、パーティーメンバーの下へと一旦下がった。
「よくも我が妹を傷つけてくれたな」
炎蛇の名を表すように赤髪を振り乱し、全身に炎を纏ったラミアがパーティーの下へ戻った勇者へ肉薄する。勇者の周りには魔法使い、神官、戦士がいた。
勇者パーティーに対して、眷属がラミアを守るように戦いを挑んでいく。ライラはミアラを守りながら、援護をするため後方から様子をうかがう。
眷族たちは戦い慣れた連携で勇者パーティーに攻撃を仕掛け始めた。
「くっ強いな」
勇者はすでに一戦を終えたことで体力を消耗しているのだろう。現れたラミアに対して防戦一方となっていた。ライラはミアラに近づき、ケガを確認してから回復の魔法を発動した。
「まだ間に合う」
ミアラは傷つき意識を失っていたが、命に別状はなかった。ライラはミアラに回復魔法をかけたまま、視線を勇者とラミアへ向ける。
「どうした勇者よ。お前の強さはこんなものか」
両手の爪を武器に、勇者のダメージを与えていくラミアの方が優勢であり、その勢いはさらに増していた。
「くっ」
防戦一方となりながらも、勇者の目は死んでいなかった。持っている剣で爪を弾き、弾けぬ攻撃は身を躱すことで傷を最小限に抑えている。
「シュウ、私の力を」
魔法使いが爆炎の魔法を使ってラピスを吹き飛ばした。ラピスはライラに抱き留められ意識を失ってしまう。魔法使いはラピスを倒した勢いで、勇者へ向かって魔力を放出する。魔力が尽きかけていた勇者の体に魔力が充満していくのが光となって輝く。
「エティカ、ありがとう」
魔力を回復させた勇者が剣に魔法を纏わせる。
「魔法剣、雷」
勇者は剣に魔法を纏わせる魔法剣を発動して、ラミアの体に纏われていた炎を切り裂き、それまでの劣勢を覆すようにラミアの攻撃をはじき返した。
「なっ、なんだその力は」
攻守を逆転されてたラミアは、勇者の猛攻に後ずさり始める。勇者の体力はすでに限界を迎えているはずなのだ。魔力も底を尽き、成す術なくやられるはずだった。
勇者は意思の力と仲間の支えにより復活を遂げ、その剣は確実にラミアを追い詰めていく。
「うん?」
ライラによって回復魔法が施されたミアラが目を覚ました。傷は塞がっているが体力や魔力は全回復していない。
「なんだ貴様は?」
「ミアラ様、私はライラ母様の眷属であるライラです」
「ライラ……ラミア姉様の……」
ラミアの名前を聞いて意識が一気に覚醒したミアラが起き上がる。
「勇者はっ」
「現在ラミア様と交戦中です」
「姉様一人では勝てない」
ミアラは回復したばかりの体を無理矢理起こして、ラミアに向かって走り出した。ラミアもミアラに気付いて二人は肩を寄せ合う。同じ顔をした二人は、赤と紫の髪を振り乱して炎が吹き上げた。
「「我が姉妹は二人で一人」」
ライラが止める間もなく駆けだしたミアラを止めることができなった。肩を寄せ合う二人は、半身になって勇者と対峙する。
「これで最後だ。魔族の蛇姫よ」
勇者も最後の力を振り絞り二頭一対となった魔物と対峙する。勇者を後押しするように神官が聖歌によって勇者と戦士の体力を回復した。
神官と魔法使いは全てを足し切り、戦士に守られながら後退していく。ライダーも戦士との戦いで疲弊した体をラミアの邪魔にならぬように後退させた。
「「勇者よ。我々を相手にしたこと後悔するがいい」」
ラミアとミアラは一匹の魔物と化して、勇者へと襲い掛かる。ラミアが爪を振るえば、ミアラが尻尾で襲い掛かる。だが、二人の完璧な連携も勇者は信じられない速度で、爪を受け、尻尾を躱し、互角以上の戦いを繰りひろげる。
「なっ」「我々の攻撃を」
スピード、パワーは勇者が上、二人は連携攻撃をとることで戦っている。徐々に勇者に押され始め、炎の爪が勇者の魔法剣によって切り裂かれた。
「僕は負けない。僕は人々にとって最後の希望なんだ」
爪を切られたミアラが炎を纏い、尾で勇者に襲い掛かる。しかし、勇者の剣がラミアを斬りつけ、ミアラの尾を弾き飛ばした。
「ラミア様」
体制を崩したラミアにトドメを刺そうと勇者が前に出る。ライダーが叫び、トドメを刺そうとする勇者の下へ走った。
ライダーは誰よりも早かった。ラミアを守るためラミアに体でぶつかり、勇者の剣を受ける盾となった。ライダーは胸に大きな傷が出来て大量の血液を噴出しする。
ライラはライダーの体を抱き留め後方に下がらせながら全力で回復魔法をかけ続けた。
「無茶をしないで、姉さん」
ライラは叱咤しながらライダーに回復魔法をかける。ライラの視線の先には怒りに震えるラミアがいた。
「よくも我が眷属を傷つけてくれたな。許さぬぞ」
ラミアはミアラと手を合わせる。ここまでの戦い、確かに二人は連携して戦っていた。だが、ミアラは勇者から受けた傷により満足に戦えていなかった。だからこそ、二人きりの姉妹は決断したのだ。手を合わせて、頷き合う。
「我らはまだ強くなる」
ラミアはミアラの体を飲み込んだ。暴食の貴族、炎蛇のラミア・A・ベルゼブブが本来の力を取り戻したのだ。魔族は他者を喰らうことで相手の力を吸収する。もっとも、それは個人差があり吸収できる限界も存在する。
だが、ラミアの暴食は喰らった相手の全てを手に入れることができる。
「我こそ七大貴族の一人、暴食のベルゼブブなり」
大蛇となったラミアが城の天井を突き破り、高みから勇者を見下ろしていた。その瞳は片方が赤、もう片方が紫へと変色している。
「化け物め、いいだろう。最後の戦いを始めよう」
勇者とラミアの最後の戦いが始まる。
「炎よ」
「雷よ」
奇しくも二人が選んだ技は、炎と雷の性質が似た力だった。ラミアの口元に巨大な火球が生まれ始め、勇者の剣に雷が落ちた。二人は最大まで魔力を練り上げ力をぶつけ合う。
「キシャーーー!!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
二人の力がぶつかり合い、スレイヤーたちがいる場所も力のぶつかり合いによる衝撃に飲み込まれた。
いつも読んで頂きありがとうございます。




