間話 オーブ
夜に投稿した文字数が少なかったので、追加投稿です。
作戦を聞かされたとき、正直どうしてそんなことをしなければならないのかと思った。だが、長年戦い続けてきた王族だから分かることがあるのだと思い知らされた。
「勇者殿こちらへ」
王族だけが入ることを許された王城の地下、王たちが眠る場所に勇者は案内されていた。戦闘を重ねていくことで勇者として力がついてきたことは自分でも自覚している。
だからこそ、いよいよ魔族がいるであろう魔族領に入ろうとした。だが、王都から呼び出しを受けて戻ってくれば、王様に墓へと案内された。
「ここは神聖な場所では?」
「そうじゃな。我々にとって神聖であり始まりの場所じゃ」
「始まりの場所?」
「そうじゃ。これは数千年前からの因縁であり、ここには歴代の王と一人の魔王が眠っておる」
「どうして魔王が?」
勇者の問いに王は答えなかった。答えない代わりに、勇者は見てはいけないものを見てしまう。それは壁画だった。墓の一番奥にある壁画、そこには魔王らしき男と王女らしき女性が抱き合うように描かれていた。
魔王の後ろには拍手する魔族たち、王女の後ろには武器を持つ人間族が描かれている。
「これは……」
「裏切ったのは我々なのだ」
「裏切る?」
「そうじゃ。魔族は強い力を持っていた。そして、一時全大陸を支配していた。だが、魔族は優しかった。我々人間を冷遇せず、虐げなかった。だが、我々人間は力のある魔族が怖かった。だから、奇襲をかけて魔王を討ち、魔族を土地から追い出した」
それは教会が語る歴史とは異なる歴史。本来の歴史、王族だけが口伝にて伝え聞く歴史を語られていた。
「我々を卑怯者と思うか?」
王様が勇者を見て、問いかける。勇者は心では卑怯だと思った。だが、自分も勇者として女神から授かる前は単なる農家でオークやゴブリンを恐れて生活をしていた。
そのことを思えば、その当時の人たちの気持ちがわからないわけではない。
「いいえ、思いません」
「そうか……ありがとう。勇者よ」
王様の目が一瞬だけだが、涙ぐんだように見えた。
「語らなければならないのは、ここからなのだ。十代魔王は人間の女性に恋をした。魔王はその女性を信じて魔族の秘密を語った」
「秘密?」
「そうだ。ただ魔族領に入っても魔王城にはたどり着けない」
「そういうことですか?」
王様が壁画に触れると壁画は回転して、違う壁画が現れる。
「これは?」
見た目にも何が書かれているのかわからない壁画だった。
「中央にあるのが魔王城だ。それを囲むのが六つの魔族領ということになっておるが。これは地図ではない。だから配置としては正しくはない。だが、これが意味するのは魔王城を守るため、六つの領に保管されているオープを壊さなければ魔王城にはたどり着けないということだ」
「六つのオーブ?」
「そうだ。魔族たちの力の源を封じた物だと言われておる」
王様から伝えられた事実は、魔族にとって絶対に知られてはいけない秘密のはずだ。それを知っていることに勇者は今日一番の驚きを感じた。
「どうして……」
「我々が王族である理由。わかってもらえたかな?我々は長い時、魔族と戦うために様々なことをしてきた。その成果が今なのだ」
「今?」
「そうだ、我々の集大成。人間族が団結して魔族と戦うことを誓いあった。そして、勇者が誕生したことで旗印もできた。全ての運命が我々に魔族を討てと物語っておる。脅威は無くさねばならない。それが、友好的な相手であってもだ」
王様の言葉は理不尽で横暴なモノだった。決して人情がある者ならば許してはならない。だが、その全てが人間族のためを考え自らを犠牲にして作り上げたモノだと言われてしまえば、それはどれほどの責任とどれほどの苦労だったか図り知れない。
「僕にどれだけのことができるかわかりません。でも、人間族のためである限り。僕は王様に従います」
勇者は王様の前で膝を突き、忠誠を誓った。その道は茨で出来ている。罪のない魔族もその手にかけて殺し尽くさねばならない。
遺恨を残すことはできない。一匹として地上に魔族を残してはいけない。そんな戦いをしようとしているのだ。
「ありがとう。勇者よ。お前にやってもらわねばならぬ大事な作戦だ。信じているぞ」
何人の犠牲を出すかわからない作戦が決行されようとしていた。それは仲間である人族が死ぬことを黙認し、魔族を駆逐する修羅の道を勇者は歩き出した。
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