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砂漠の攻防 3

 魔狼から許可を得たスレイヤーは、ノミという得体のしれない魔族に監視されながら、極大魔法が使われた場所を目指していた。


「あんたも物好きだね」


 耳元に直接聞こえるノミの声に不快感を感じる。ノミという魔族について祖父の知識を検索しても該当するものはなかった。

 ガス状生命体やゴースト系の魔族ならば姿を消すこともできるが、完全に姿が見えないということはない。ガス状生命体ならば影が残り。ゴースト系には影はないがその性質状、砂漠の炎天下で活動できるはずがない。


「何かおかしいか?」

「勇者を見に行くなんて、正気の沙汰とは思えませんね」

「それに同行しているお前はどうなんだ?」

「あっしは無関係ですから」

「ほう、無関係と言えるのか?」

「おっと、あっしのことについて探ろうとしてもダメですぜ。何も答える気はありやせん」


 誘導するように話を振ったが、どうやら気づかれていたらしい。


「別にどうでもいいさ。お前は見たこと、聞いたことをそのまま魔狼様に報告すればいい」

「それがあっしの仕事ですからね」


 ノミについて考えながら、極大魔法が使われた場所に近づく。そこには無数の死体が転がっていた。魔族だけでも数千の死体がその場にあった。それに対して人間族の死体は少なく、スレイヤーは違和感を覚える死体を見つけた。


「座ったまま焼け死んでいる」

「それのどこがおかしいんだ?」


 ノミは気づいていないようだが、焼け死んでいるのは人間族の魔導士の死体だ。彼らは座禅を組んで、手は印を結んでいる。これらは自らの魔力を高める効力を持っている。


「いや、こんなにも大量の座っている死体は異常だと思っただけだ」

「ふ~ん、あっしには別段異常に感じるところはないがね。どうせ逃げ遅れただけだろ」


 ノミは魔法にはあまり詳しくないのだろう。だからこそ、スレイヤーが気づいたことに気付けない。


「どうやら、ここには勇者はいないようだな」

「そのようですなぁ。すでに魔狼様には報告済みでさぁ」

「そうか、ならもう少し踏み込もうと思うがついてくるか?」

「踏み込む?」

「ああ、何もわかっていないからな。調べたいと思ってな」

「あっしは問題ありませんよ」


 ノミの許可を得たことで、スレイヤーは人間族が陣地を引いている場所へさらに踏み込んだ。 


 極大魔法を使ったことで、劣勢だった人間族の状況も逆転して、今は人間族の方が有利な状況になっている。そのため人間族の陣地には人が少なく、魔族一人が紛れ込んでも気付くことはない。


「おいおい、こんなところまで来ても大丈夫なのか」

「大丈夫だ。魔法で姿を人間族のものにしている。何より元々魔人族は、人間族とほとんど姿が変わらない。もしも魔法を解く者がいてもばれることはないだろう」

「そういうもんかね」


 スレイヤーは自分が着ている燕尾服を隠すためにローブを纏い魔導士を装った。今回の人間族には魔導士が多くいるため、スレイヤーが混ざっても違和感を感じないことだろう。

 どうやら獣人魔族が魔法に弱いことを人間族側も知っているようだ。


「戦いの経験というものか」


 長い歴史で人間族にも知恵が備わっているということだろう。


「どうやら、あそこが指揮官の天幕だな」


 スレイヤーは一際立派な天幕を見つけ、他の者にバレないよう隠密と姿を消す魔法を使って聞き耳を立てる。オークを暗殺したときに使った魔法なので、触れられればバレてしまう。


「こんなんで本当に大丈夫なのかい?」

「黙れ。中の声が聞こえない」


 スレイヤーは天幕の中に意識を向ける。


「戦況はどうなっている?」

「魔狼のせいで一時劣勢に傾きましたが、魔導士たち五十名の犠牲により戦況はこちらに傾いております」

「魔導士五十名の命、無駄にはできんな」

「敵の被害状況はどのぐらいだ?」

「目視になりますが、二割ほどが極大魔法に飲み込まれたものと思われます」

「よしっ!これで、勇者殿が居られなくても我々だけでもなんとかなるぞ」


 どうやら魔狼の勘は当たっていたらしい。勇者はアモン領に来ていない。では、どこにいるのか。


「おいおい、とんでもねぇ話じゃねぇか」

「魔狼様に報告は早めにしろよ」

「すでに報告済みだ」


 ノミの言葉にスレイヤーはノミの存在の異常さを感じていた。先ほどからノミからは魔法の気配を全く感じない。それなのにノミはすでに魔狼に情報を流したと言ったのだ。


「一度、魔狼様の下に戻るぞ」

「いいのか?ここにいればもっと有益な情報が聞けるんじゃないのか?」


 勇者がどこにいるのか、それは確かに魅力的な情報ではある。だが、魔狼にそれを伝える必要はない。


「いや、これ以上ここにいるのは危険だ」

「そうかい。なら好きにすればいいさ」


 ノミが素直に引き下がったので、スレイヤーは人間族の陣地から離れ、獣人魔族の陣地へと戻ってきた。スレイヤーが離れてから大きな変化はないようだが、スレイヤーを出迎えたのは魔狼とタマモの二人だけだった。


「ただいま戻りました」

「よく戻ったな」


 魔狼は人間族の姿ではなく、狼人族の姿で椅子に座っていた。


「ノミから連絡は受けている。やはり勇者はいなかったようだな」

「はい。どうやらここにいる人間族の軍隊は囮のようです」

「それで?どうしてお前は戻ってきた。何より、勇者がここにいない情報をどうするつもりだ?」

「もちろん。ラミア様に知らせるため魔王城に戻ります」

「それは許せねぇな」


 魔狼が立ち上がり、威圧の体が何倍にも大きくなったように感じる。魔狼が殺気を込めてスレイヤーを睨みつけていた。黒い槍を椅子の後ろから取り出し、スレイヤーに槍先が向けれる。


「戦いが終わるまでここにいるのであれば、殺さないでいてやろう。もしも、逃げるというならお前を殺す。お前の居場所はノミが常に監視してるからな。逃げだすことはできないがな」


 スレイヤーが魔法を発動しようとすると、魔狼が突然吠えた。


「ウルゥー」

「なっ」

「俺にも魔法が二つだけ使えるんだ」


 スレイヤーは自身の魔法が消滅したことに驚き、魔狼は得意げに指を二本立てる。


「その内の一つが、魔法の発動を強制終了させる」


 魔法に弱いと、獣人魔族を侮っていたのはスレイヤーの方だったようだ。絶対絶命に立たされたスレイヤーは何を選ぶのか。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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