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砂漠の攻防 2

 魔狼、ベルセルク・K・アモンは豪快奔放で、多くを語らず背中で語るタイプだった。そんな魔狼の姿に、魔族は背中を追いかける。ついていきたくなる。

 スレイヤーもその姿に見惚れて、カッコいいと思った。だが、スレイヤー


「野郎どもいくぞ」


 すでに人間族との戦いは三日に及んでいる。魔狼は早朝の戦場にハウンドウルフに跨り、一番槍として先陣を駆け抜けていった。その姿は人間族のものではなく、魔狼に相応しい黒い立髪を靡かせた狼人だった。

 魔狼が戦場に出れば、人間族は怯え慄き戦意を失っていく。昼になる頃には敵をなぎ倒して、食事に戻ってきた。


「あいつら鍛錬サボってやがったな」


 黒い槍を肩に担いで戻ってきた魔狼の姿に少なからず、憧れを抱いてしまう。


「お疲れ様です。アモン様」

「おう、炎蛇のところの……」

「スレイヤーと申します」

「そうだ。スレイヤーだ」

「ご活躍拝見させて頂きました」

「堅苦しいね。俺は気楽なのが好きなんだ。俺のことはベルセルクか親方とでも呼べばいい」

「わかりました。では、ベルセルク様とお呼びさせて頂きます」


 スレイヤーは燕尾服に似つかわしい礼儀正しいお辞儀で魔狼の呼び方を変えることを承諾した。


「固いねぇ」

「仕事のときのスタンスですので、お気になさらず」

「そうかい。それで?お前から見てどうだ戦場は」

「正直、戦場に出るのは初めてですので、分かりかねます。ですが、魔族側の方が優勢に見えます」

「そうかい?俺はそうは思えねぇ」


 椅子に座った魔狼は狼人から、人間族の姿へと戻っていた。


「どういうことでしょうか?」

「未だに勇者の姿が見えねぇ」

「勇者の姿ですか?」


 スレイヤーはオウム返しのように言葉を繰り返す。


「そうだ。すでに三日、俺は一度も勇者の姿を見てねぇ」

「ベルセルク様はどうお考えですか?」


 魔狼の周りを忙しく世話をする獣人たちがスレイヤーの発する言葉一つ一つに聞き耳を立てているのはわかっていたが、聞かずにはおれなかった。


「もしかしてだが、勇者はここにいないのかもしれないな」

「いない?」

「そうだ。ここにいるのは人間族の兵士のみで、指揮を執っているのは勇者じゃない奴かもな。勇者がいるにしては手応えがなさすぎる」


 給仕によって作られた料理を頬張り、戦場を睨みつける魔狼の言葉にスレイヤーも戦場に視線を向ける。


 魔狼に代わり、タマモが戦場の指揮を執っている。タマモは魔狼と違い、自ら戦いに赴くことはなく。昨日見た蟻地獄のように砂漠を攻め込んでくる人間に対して、魔法や奇襲といった作戦を展開していた。


「もしも、勇者がここにいないとすれば、勇者はどこにいると思いますか?」

「わからねぇ。もしかしたら勇者誕生事態もデマだったのかもな」


 魔狼の言葉に、スレイヤーは否定の言葉が出そうになる。戦場に来たことで、スレイヤーの神経も過敏になっているのかもしれない。過敏になっているスレイヤーは、勇者の存在を感じていた。


「もし、勇者が居なければ、この戦いは楽勝ですね」


 スレイヤーの言葉が立証されるように、タマモの仕掛けた巨大トカゲたちが一斉に人間族を踏み倒していく。


「つまらねぇ」


 一気にワインを飲み干した魔狼が持っていたグラスを地面にたたきつける。


 二人の会話が途切れた瞬間、砂漠に爆発音が木霊した。それまで人間族を踏みつぶしていたトカゲが吹き飛ばされたのだ。


「なんだ!?」


 魔狼が立ち上がり戦場を見る。そこには巨大な火柱が立ち上がり、火柱が爆発してトカゲを吹き飛ばしていく。


「極大魔法」


 スレイヤーは攻撃の意味を理解し、その威力を言葉にする。


「極大魔法だと。そんな魔法一人でできるもんじゃねぇだろ」


 魔狼はスレイヤーの言葉を理解しているようだ。魔狼の言う通り、極大魔法は人間が一人で行使できる代物ではない。魔力残量が足らないだけでなく、極大魔法を覚える技量を持ち合わせていないはずなのだ。


「ですが、確かにあれは極大魔法、エクスプロージョンウォールです」

「どうやら、杞憂だったみたいだな」

「杞憂?」

「勇者は居やがる。あの炎を作り出したのは勇者だ」


 魔狼は嬉しそうに火柱を見つめている。だが、スレイヤーは違和感しか感じられなかった。極大魔法が使えるなら、どうしてこの三日間使わなかったのか。

 魔力を貯めて演唱までの時間が必要だった言われればそうかもしれないが、だが、どうしてこのタイミングなのか。極大魔法が切り札だった場合、戦いの中盤で使うだろうか。


スレイヤーは疑問を解消するため、魔狼に一つ願い出る。


「偵察に行かせてもらえないでしょうか?」

「偵察?お前も勇者を狙っているのか?」


 スレイヤーの言葉に鋭い視線で魔狼がにらみつける。


「いえ、勇者が居ても手を出さないことをお約束します」

「それを信じられると思うのか?お前はタマモから腕が立つとも聞いている。信用できねぇな」

「ならば、監視をつけて頂いても構いません」

「ほう、その自信があるということか?」

「はい」

「いいだろう。おい、ノミはいるか?」


 魔狼が誰かを呼んだようだが、誰も現れることはなかった。


「よく来たな。ノミ。そうだ。こいつにつけ」


 魔狼が誰かに語りかけたと思ったら、次はスレイヤーの耳に声が聞こえてくる。


「よう、魔人族の旦那。あっしはノミと申しやす」

「ノミだと、どこにいる?」

「あっしの姿は見えやせんよ。あっしはそういう種族です」

「そいつがお前を監視する。お前が勇者に手を出せば、そいつから他の仲間に知らせが入る。いいな?」

 

 何かに監視されているというのは気持ち悪いが、これで疑問が解消できるのであれば、大した問題ではない。


「はい。これで信じて頂けるのであれば」

「ノミ、頼んだぞ」


 魔狼の言葉にどうやって返事をしたのかわからないが、どうやらノミと魔狼は会話が成立しているようだ。


「これでお前が何かしてもすぐに知らせが入る」

「信じて頂けるのですね」

「おう。好きにしろ」


 魔狼の許可を得たことで、スレイヤーは極大魔法の真相を突き止めるため、魔法が吹き上がる場所へと歩き出した。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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