砂漠の攻防 1
すいません。ちょっと遅れました。
スレイヤーはタマモの足止めにより、魔狼と会えない日々が続いてた。しかし、そんな状況は長く続かなかった。アモン領へ勇者が侵入したと、フォックスの街へ知らせが入ったのだ。
「どうやら主を足止めしておくのも終わりのようだ」
タマモは吹かしていた煙草を置いて立ち上がる。狐人族であるタマモは妖艶な雰囲気を持ち、幻惑されているような錯覚すら受ける。
もしかしたら本当に幻惑されていたのかもしれない。この数日間、スレイヤーはタマモの思惑通りフォックスの街から進めないでいた。
「タマモ殿も戦いに行かれるのか?」
「もちろんだ。我は魔狼様の右腕だと言ったであろう」
「着いて行ってもよろしいか?」
「もちろんだ。ダメだと言っても、我がここから居なくなれば、主は戦場へ来るのであろう?ならば、共に行動した方が見張りやすい」
「正直なのですね」
スレイヤーの言葉にタマモは口元だけ笑い、外へと出ていった。応える必要はないということだろう。
「戦の準備だ」
狐人たちはテントと旅の準備を早々に作り上げ、巨大なトカゲの背に荷物を載せて、街から旅立っていった。スレイヤーはタマモが乗るトカゲに乗り、クルルと共に旅を開始した。狐人族と共に旅をして、三日後に戦場へと到着した。
様々な獣人魔族が砂漠を駆け、勇者率いる人間族の軍隊と戦っていた。人間族も勇者が生まれたことで勢いに乗っているのだろう。
身体能力が高い獣人魔族を相手にまったく引けを取らず、互いに均衡している戦況が続いているようだ。
「どうやら間に合ったね」
「どういうことですか?」
タマモと共にやってきたスレイヤーは、タマモのセリフに違和感を感じた。先ほど見た戦場は均衡状態であり、むしろ獣人魔族の方が不利にも見える。自らの土地で互角ということは相手の方が強いということだ。
「どうやら魔狼様は遊んでおられるようだ」
「遊ぶ?」
「そうだ。仲間の獣人魔族を訓練されているのだろう」
「どうしてそんな危険なことを?相手は勇者ですよ」
スレイヤーの疑問に対して、タマモは視線を戦場へ向けた。向けられた視線を追えば、勇者率いる軍隊の一角がいきなり消え失せた。
「あれは」
「蟻地獄と言うものを知っているか?」
「蟻地獄?確か、砂の中に空洞を作り地面を陥没させることで、相手を引き釣り込んでいるということえdすか」
「原理はそうだね。だが、そこには強力な魔物が潜んでいるんだ。我々としてもあまりかかわりたくない相手だ」
祖父の知識にもなかった情報にスレイヤーは興味をそそられた。
「いったいどんな魔物なのですか?」
「あそこにいるのは虫人魔族だ」
「虫人魔族?」
初めて聞く単語に、スレイヤーはタマモへの質問が止まらない。
「そうだ。数千の虫人魔族が穴の中に獲物を引き釣り込んで食べるのだ。人間族も例外ではない。奴らに瞳はなく、条件反射のように穴に落ちたものを食すのだ」
「こんな罠を隠し持っていたのですね」
だからこそ、魔狼が遊んでいるとタマモは言っていたのだ。
「こんなものは序の口でしかない。そろそろいくぞ。ついてくるのであろう?」
タマモに引き連れられて、魔狼がいるであろう天幕へと入っていく。
「親方様、遅れてしまい申し訳ありません」
「おう、タマモか。フォックスから来るのは大変だっただろう」
天幕の中にいたのは、右目から顔半分に大きな傷を持った黒髪の人間族の男だった。魔族の特徴である、白い髪、赤い瞳、褐色の肌を持たない。だが、その雰囲気から魔狼であることに間違いないとスレイヤーは感じていた。
それおどの存在感が男にはあったのだ。魔狼は気さくにタマモに話しかけた。タマモは膝を突き、魔狼に礼を尽くす。
「戦場に来れたのです。これほど楽しいことはございません」
「お前も戦いが好きだな」
「親方様には遠く及びません」
「分かるか?やっぱ戦いは楽しいな」
魔狼は両手を広げて楽しそうに語っていた。
「それで?後ろに連れている奴は誰だ?嗅いだことのない匂いだ」
「はっ、こちらは死天王がお一人。炎蛇様配下のスレイヤー殿です。種族は魔人族で、魔法の腕はなかなかのものだとクルルから報告が上がっております」
「ほう~。炎蛇殿の配下か、炎蛇殿にはサイクロップスを頂戴したことがある。その際は強い戦士を下さり感謝しているぞ」
魔狼の視線がスレイヤーへ注がれる。威圧などは感じないが、存在感と言うべき圧迫感が直接スレイヤーを射抜いた。
「はっ、こちらもミノタウロスにハーピーを頂き、炎蛇様も大変喜ばれておりました」
「そうか、そうか。互いに有益な交換ができたとは喜ばしい」
「はい。本当にありがとうござます」
スレイヤーは返事を返す前に、ゆっくりと息を吐いて気持ちを整える。
「それで?此度は何故ここにいる?まさかお前も差し出されたというわけではあるまい?」
「はい。此度はラミア様の目として、魔狼様の戦いを拝見させて頂くためにやってまいりました」
「そういうことか、ならば思う存分見ていくがいい。勇者の首は俺が取る。次の魔王は俺ということだ」
「私は、全て包み隠すことなく炎蛇様に話すだけでございます」
スレイヤーの態度が気に入ったのか、魔狼は大きな声で笑い、脇に置いていたワインを飲み干した。
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