砂漠の盗賊
スレイヤーはラミアからの命令で、アモン領へとやってきていた。アモン領は八割近い領地が砂漠に埋め尽くされている。残り二割はオアシスとして水と草が生い茂る。その全てのオアシスはアモン領の配下である、獣人魔族が支配している。
「暑いな」
スレイヤーは砂漠には相応しくない燕尾服を来たまま、炎天下の砂漠を歩いていた。ラミアの命令とは言え、アモン領の支配者であるベルセルク・K・アモンに挨拶しないわけにはいかない。
そのためスレイヤーは砂漠を横断して、魔族領の一番近くにあるオアシスを目指していた。
「動くな。どこからきたのか吐いてもらおうか」
オアシスに近づくと、オアシスを管理している獣人魔族がシャムールと呼ばれる刀身が曲がった形状の剣を持ってスレイヤーを取り囲んだ。頭にはターバンを巻き、体毛の上からチョッキを着ていた。
「死天王がお一人、ラミア様の配下スレイヤーだ。ベルセルク・K・アモン様にお会いしたい」
「はっ、お前みたいな魔人族が死天王様の配下だと?本当か?」
狐のような顔をした盗賊は顔を近づけ凄んでいた。
「どうすれば信じてもらえる?」
「魔族のルールは決まってんだろ」
「力を示せってことか?」
「そうだ」
五人いた獣人魔族たちが一斉に剣を振り上げ、スレイヤーに殺到する。
「無駄だな。バリア」
スレイヤーは獣人魔族たちが魔法に弱いことを知っている。知っているからこそ、スレイヤーが作り出した魔法の防護壁を破れないことが分かっていた。
ガキン
五人の剣が透明な壁によって阻まれる。
「なんだこれ」
獣人魔族はスレイヤーに触れることができずに驚き、痺れる手によって剣を落としそうになる。
「まだやるか?」
「何をしたのか知らんねぇが、俺たちは負けてねぇ」
獣人魔族は確かに魔法に弱い。弱いが使えないわけではない。使える魔法が少なく、威力も乏しい。
「狐火」
紫の炎が砂漠に上がり、スレイヤーを包み込む。魔法とは威力や使える数ではない。では、何なのか、彼らはそれを知っている。
弱い出力で放たれた狐火なる炎は五人が力を合わせることで、消えることなく狐火は灯り続けスレイヤーの魔法が解けるときを待っているのだ。彼らが得意としたのは持続時間だ。
「脆弱なる魔法だな」
魔人族は魔法に関して、どの種族よりも優れている。それは魔力の多さではなく、魔法という技に関して研究し続けてきた結果なのだ。
「火は水によって消える。自然の摂理なり」
スレイヤーはウォーターを唱え、発せられた水によって狐火を消してしまった。
「スラッシュ」
ウォーターを水の刃と化して、獣人魔族を襲う。
「ギャアー」
獣人魔族たちが水の刃によって傷を負って倒れていく。
「同じ魔族だ。殺しはしない。これでいいだろ」
スレイヤーはその場から一歩も動くことなく五人を退けたのだ。
「ヒャハハハハ。強ぇ~強いなお前」
狐たちは突然笑い出し、スレイヤーに向けていた剣を直した。
「悪かった。俺たちは魔狼の親分には会えない。ただ、俺たちの親分にお前を紹介することはできるからついてきてくれるか」
「もちろんだ。いきなり会えるとは思ってないさ」
態度の変わった狐たちに連れられて、スレイヤーはオアシスの中へと入っていった。オアシスの中は石で作られた家が建てられており、砂が入らないように工夫がされていた。
「紹介が遅くなって悪かったな。俺の名はクルルだ」
代表として話していた狐はクルルと言うらしい。スレイヤーは先ほど名乗っているので、名乗り返すことはなかった。
「魔狼の親分がおられるオアシスは、ここから三つ先のオアシスなんだ。ここは俺たちフォックスが治めてるんだ」
「そうだったのか、他の領地のことは知らなくてな。案内助かる」
クルルに礼を言うと、嬉しそうに笑って肩を叩いてきた。
「いいってことよ。魔族の中でも俺たち獣人は強さを重視する。お前は力を示したんだ。俺は認めるぞ」
クルルに連れられて、スレイヤーはオアシスの中でも一番涼しく、大きな作りの家へと案内されてきた。
「親方、クルルだ。客人を連れてきたぞ」
「入れ」
中から聞こえてきた声は、女性の者だった。暖簾によって隔たれていた雰囲気が解放され、煙と共に威圧が流れ込む。
「俺はここまでだ。後は親方と話してくれ」
クルルに諭されて中に入ると、七つの尾を持った大きな狐が煙草を吹かしながら座っていた。
「よく来たね。私はタマモだ。魔狼様の右腕をさせてもらっている」
名乗りながら、スレイヤーに煙を吹きかけるタマモに、スレイヤーは片膝を突いて礼を尽くす。
「ラミア様の配下、スレイヤーと申します。この度はベルセルク・K・アモン様の戦いを見せて頂きます」
「好きにするがいいさ。どうせ我々が勇者を倒すことになるだろうがね」
「お手並み拝見させて頂きます」
スレイヤーは深々と頭を下げて、大狐をチラリとみる。大狐は気怠そうに煙を吐いた。
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