過去を知る者
ミノタウロスの下処理が終わり、スレイヤーが一息ついていると、オーガ族のイダがコメを運んでくるところだった。
イダはコメを運ぶために瑠璃姫が使わせてくれるようになった青年だ。彼はオーガ族の中でも脚力に重点を置いた鍛え方をしており、移動速度はオーガ随一だという。
「いつもすまないな」
「いえいえ、こっちさ美味しい肉をいただけて嬉しいですよ。ありがとうございます」
オーガとはあれ以降コメと肉の物々交換による交渉が成立していた。
「今回は豚肉じゃなくて牛肉なんだ。脂分が多いが、これがまた旨いから」
「珍しいもんをありがとうございます。親方様も喜びます」
「瑠璃姫様は元気かい?」
「まんず。スレイヤーさんと遊んでからは、精力的に畑を耕すのに力を貸してくださり、自らを鍛え直されておりますよ」
「はは、負けず嫌いそうだからな」
「まんずまんず。負けないために努力は惜しみませんよ」
イダと会話を楽しんでいた。スレイヤーはふと魔王城に来た時のことを思い出す。あの当時はオーク先輩たちに可愛がってもらった。今ではこうして同じ立場で話ができる魔族ができたことに嬉しく思う。
「スレイヤー兄さん。ちょっといいですか?」
調理場から出てきたライラがイダと話している、スレイヤーを見て申し訳なさそうに声をかけてきた。
「どうしたんだ?」
「スレイヤー兄さんにお客さんなんです。ただ、氷雨族の女性で、知り合いですか?」
氷雨族とは魔王城よりも北に位置する氷に覆われた領地ベルフェゴール領に住んでいる。魔王城は溶岩が近いため、気温が高く氷雨族が寄り付くことは少ないのだ。
「そうだな。知り合いは……いる」
「どういう関係なんでしょうか?」
知り合いだといえば、ライラはスレイヤーに顔が触れ合うほど近づいて問いかけてきた。
「幼馴染だな。俺の育った場所の近くに住んでいたんだ」
「氷雨族が近くに住んでいる?」
ライラは氷雨族が暮らしているであろう地域を考え出した。その間にライラを置いて、スレイヤーは氷雨族に会うため応接間へと出向いた。
魔王城には門番を務める魔族がいる。門番が魔王城内に許可ない者を入れることはない。スレイヤーが魔王城に来たときは魔王城に採用されたためだ。
「久しぶりだな、ツララ」
白い着物に白い髪。氷雨族の特徴である白い肌と全身が真っ白なツララにスレイヤーは話しかけた。
「お久しゅうございます。旦那様」
「おいおい。俺はお前の旦那様じゃないぞ」
「いえ、私の旦那様は、旦那様だけです」
「ハァー。それで?何しに来たんだ?」
スレイヤーはため息交じりに問いかける。
「もちろん。悲願のお手伝いを「そのことは出れにも言うな」
「かしこましまた」
スレイヤーの威圧にツララは白い顔を青くする。
「手伝いって。お前暑いところダメじゃん。魔王城はベルフェゴール領よりも南に位置している上に、隣のサタン領から溶岩の熱が伝わって暑いぞ。外は荒野と化すほど暑いんだぞ」
話題を変えたスレイヤーは、見るからに暑そうな白い着物を着ているツララを指摘する。暑さを強調するように話をして、ツララには無理だと伝える。
「大したことありません」
完全に強がっているツララの態度に、スレイヤーは深く息を吐いた。
「強情な奴だな。仕事を探してるなら、お前にピッタリなモノがあるけどやるか?」
「それは旦那様のお役に立てますか?」
「そうだな。俺の、というよりも俺を雇っているラミア様のためになるな」
「微妙なところですね。ですが、旦那様が言わるのであれば」
「それと旦那様はやめろ。ここではスレイヤーと呼べよ」
「そんなこと!」
大袈裟に驚くツララに、スレイヤーは頭をかく。
「それが嫌なら、帰れ」
「仕方ありませんね。スレイヤー様」
「様もいらん」
「それは譲れません」
「ハァー、仕方ないか。わかった。様は許してやる。だけど、絶対に旦那様とは呼ぶな」
「約束いたします」
深々と頭を下げるツララにスレイヤーは改めて息を吐いた。
「じゃあ、仕事場に案内するからついてこい」
スレイヤーは調理場にある地下倉庫にツララを連れてきた。
「ここは涼しいですね」
「だろうな。近くに下水が流れてるから、温度が他よりも低いんだ。それで、お前が働く場所はここだ」
スレイヤーは地下倉庫にある一室へとツララを案内した。
「気持ちいい」
「そうだろうな。ここは保存がしやすいように氷を作って食べ物を保管してるんだ。そこでお前には毎日氷を作って、ここの温度を一定に保ってほしい」
「そんなことでいいんですか?」
「お前に最適だろ」
「これならできそうです」
「ああ、お前が温度を管理してくれるなら、俺も助かる」
「やります」
スレイヤーの助かると言う言葉に、ツララがすぐにやる気を示した。
「ああ、頼んだ」
ツララは嬉しそうな顔で頭を下げた。
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