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ごくつぶし

 四十人のミノタウロスは、目の前にいる魔人族の青年をバカにするように笑っていた。ミノタウロスたちは鍛え抜かれた肉体、牛の顔を持つ。身長は三メートル近くあり、スレイヤーからすれば一メートル以上の身長差がある。


「おいおい、魔人族の兄ちゃんよ。俺たちは魔狼様から命令されたから仕方なく、炎蛇のところに来てやったんだぞ。それなりの対応を取ってもらえるんだろうな。わかってんだろうな、あぁ」

 

 黒い肌に一番デカいミノタウロスが、スレイヤーを睨みつける。それを聞いて他のミノタウロスは厭らしい笑みを作る。


「どこにでもごくつぶしはいるもんだ。そうだな。もしも、お前たちが俺を倒す。もしくは殺すことができたなら、惰眠を貪ろうが好きにすればいい。それでいいな、ライダー」


 スレイヤーは立会人を務めている、ライダーに承諾を得る。


「もちろんだ。スレイヤーが負けるようならば、お前たちが好きにすることを、ラミア様の眷族たる私が認めよう」

「へへへ、炎蛇の眷属殿は太っ腹だね。こんな細男を殺したぐらいで自由を与えてくれるんだから」


 黒いミノタウロスが楽しそうに笑い、巨大な斧を肩に担ぐ。


「悪く思うなよ。お前は贄だ」

「贄か、いい言葉だな」


 スレイヤーはミノタウロスの言葉に賛同し、燕尾服には似合わない双剣を抜く。


「魔王城に来て、初めて使うな」


 懐かしむように双剣を愛でる。別に大した剣ではない。とスレイヤーは思っている。祖父が、昔に竜と戦った際にその牙から作ったと語っていた。

 切れ味はそれほど良くないが、折れない頑丈さがスレイヤーが気に入ったところだ。スレイヤーが武器を抜いたことに、ライダーは興味深そうに見つめていた。


「どこからでも来るがいい。今日は朝から胸糞悪い気分なんだ」


 スレイヤーが双剣を持ってきたのは、朝の夢が関係している。魔族も夢は見る。だが、夢には意味があり、高位の魔族が見る夢は予知の要素も含まれているのだ。

 そのため夢に出てきた影に潜む闇が何者なのかわからない内は、武器を持っていようと思ったのだ。


「なら一撃で殺してやるよ」


 黒いミノタウロスが斧を振り上げ、スレイヤーの脳天に打ち下ろす。


「大振りだな」


 巨体から繰り出される一撃は、普通の人間であれば真っ二つにするほどの速度と、威力が込められていた。しかし、スレイヤーは振り上げられた斧を避け、片方の剣をミノタウロスの胸に突き刺す。


「なっ」

「ココロも美味しいと思うが、今回は殺すために最小限の傷を付けさせてもらうぞ」


 黒いミノタウロスはスレイヤーの一撃で絶命した。


「さぁ、あと39匹も調理しなければならないんだ。さっさとかかってこい」

「「「てめぇ!!!」」」


 黒いミノタウロスが倒れたことで怯むかと思ったが、ミノタウロスも戦士だということだろう。残った者たちがまとめてスレイヤーを殺すために押し寄せる。


「巨体で襲ってくると大迫力だね」


 スレイヤーは嬉しそうにミノタウロスの群れにその身を投げた。剣や斧、角をむき出しにしたミノタウロスたちは、群れの中に入ったスレイヤーの姿を見失う。スレイヤーはミノタウロスの首を飛ばし、背中から心臓を突き刺す。

 ミノタウロスを踏み台に宙に跳び、舞うようにミノタウロスたちの息を止めていく。


「魔法を使わない戦いも久しぶりだな。面白い」


 ライダーは、スレイヤーが戦うシーンを初めて見る。ダンスを踊るようにミノタウロスたちを斬りつけ、払いのけるスレイヤーの姿に見惚れてしまう。


「下拵え完了だな」


 ライダーがスレイヤーに見惚れているうちに、いつの間にか40匹のミノタウロスは誰一人立っていなかった。


「おいっ。本当に全員殺してよかったのか?」

「別に構わないだろ。ミノタウロスは元々迷宮を守る守護者だった。しかし、ミノタウロスが守っていた迷宮が、人間族に奪われてからは家を失い彷徨うただのごくつぶしの大食いだ」

 

 スレイヤーは剣に付いた血を払い。持っていたハンカチで汚れを拭きとる。


「なぁ、スレイヤー。お前はミノタウロスに詳しいみたいだな。その知識はどこから手に入れてるんだ?」

「祖父から色々と教えてもらっただけだ」

「祖父?スレイヤーのお爺様ってことか?名前はなんて言うんだ?」

「別に、スレイって言う。ただの魔人族の長老だよ」

「スレイ?聞いたことないな」


 ライダーは有名な魔族ではないかと思考を巡らせた。しかし、スレイと言う名に思い当たる人物はいなかった。

 

「だろ。気にすんなよ」

「そうだな」


 スレイヤーはウソをついたわけではない。ただ、名誉貴族として与えられた名前を語る必要はないとおもっただけだ。


「そんなことよりも、これだけの肉が手に入ったんだ。今日の晩飯は牛肉だぞ。豪華だろ」

「うっ」


 ライダーは倒れたミノタウロスを見て涎を垂らしていた。


「調理場でライラが待ってるからな。運ぶの手伝ってくれよ」

「しょうがないな。仕方なくだぞ」


 ライダーは渋々と言いながら、嬉しそうにミノタウロスを運んでいく。足取りが軽いのは大量の肉のためだと思うと、後ろ姿に笑いかけていた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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