間話 勇者の力
間話はとりあえず終わりで、次回から本編に戻ります(*'ω'*)
シュウは渡された木剣を握りしめ、グルガンの前に立つ。グルガンは元々巨漢で肉体も筋肉が盛り上がっているので大きく見えていた。
しかし、目の前に立てばその大きさは何倍にも膨れ上がり、まるで巨人族を相手にしているような錯覚を覚える。
「俺に一撃入れて見せよ」
「一撃?」
「そうだ」
シュウは巨漢のグルガンに一撃入れるだけでいいなら、できるかもしれないと思った。勇者の力を得たことでスピード、腕力は格段に上がっている。何よりも勇者の知識を得たことで、剣を扱う基礎知識と、実戦での戦い方は心得ている。
「行きます」
「どこからでも来るがいい」
シュウは一直線にグルガンへ向かって走った。最速のスピードで最短距離を走るシュウの速度は、目で捉えるのは至難の業だろう。
「速い」
シュウの動きを横で見ていたクラウドが驚いた声を出す。
「悪くない」
対峙していたグルガンもシュウの判断を悪くないと声を出す。
「だが、甘いな」
真っ直ぐ向かってくるシュウは右斜めに剣を構えて走っていた。そこから放たれる一撃は右下から左上に斜めに切り上げるものだ。速度を重視したシュウの一撃に選択肢はない。グルガンは見えなくとも、剣を右斜めに構えシュウの一撃を防御した。
「まだまだ」
シュウも一撃で決められると思っていなかったようで、止められた反動で体を回転させて左横薙ぎに切りつける。
「動きが単調だな」
シュウの動きが分かっていたのか、反転している最中の背中を押されてシュウがバランスを崩した。
「くっなら、これならどうだ」
シュウは歴代の勇者から受け継いだ、勇者の奥義を繰り出す。
「魔法剣 雷」
「何あれ」
シュウの言葉が引き金となり、バチバチと木剣に雷が纏わりつく。それを見たエティカが驚いた声を出し、グルガンは構えを取り直した。
「はっ」
正面から切り下される木剣を、グルガンは正面から受け止める。受け止めた木剣は真っ二つとなり、雷はグルガンの目の前で止まった。
「勝負あり」
クラウドの声を聴いて、シュウが剣を止めたのだ。
「剣神に一撃くれやがった」
ダルデは驚きの声を上げ、グルガンは黙って切られた木剣を置いた。
「見事。勇者の力、認めさせてもらう」
巨漢で恐ろしい雰囲気を纏っていたグルガンは、優しい雰囲気とシュウを見守るような視線で、別人のようにシュウを見ていた。
「グルガンさん?」
シュウに名を呼ばれ、グルガンが膝を突く。
「え?」
「我は戦士。我が技を勇者殿に捧げよう。我が納めた剣技、武技の全てを勇者に捧げることをここに誓う」
グルガンに続きエティカも膝を突く。
「魔法剣、初めて見た魔法に感服したわ。あなたはまだまだ知らないことを多いでしょうけど。私が魔道について教えてあげる。私も誓うわ。勇者へ私の魔法を捧げる」
「ふん、僕は初めからそのつもりだったよ。勇者、我が聖歌を勇者に教える。そして、我が全てを勇者と共に歩むものとする」
最後にダルデが膝を突き、勇者に誓いを立てた。
「みんなどうして」
「君を認めたということだろう」
審判を務めていたクラウドが笑いかける。そして、クラウドもまた膝を突いた。
「勇者よ。君はこれから人間族の剣となり、旗となり、象徴となることだろう。私を含めた数名の王国騎士も君の旅に協力させてもらう。我が忠誠は王に誓ったものだが、我が剣は君のために振るおう」
自分よりも年長者であり、まだまだ未熟な自分を支えるため膝を突いてくれた人たちに報いるため、シュウも誓いを立てた。
「みんなの期待に応えられるかわからない。わからないけど、僕は必ず魔王を倒す。どんな困難が待ち受けていようと逃げ出さない」
シュウが手を差し出せば、グルガン、エティカ、ダルデ、クラウドの順に手を重ね。五人は誓いを立てた。
「「「我らは魔王を倒す人々の剣となり、魔法となり、悪を討ち滅ぼさん」」」
こうして勇者は心強い四人の仲間を得て、魔王を倒すための力をつけて行った。それは同時に魔人族スレイヤーと勇者シュウの運命が動き出した瞬間でもあった。
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