間話 脅威誕生
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眩い金色の光を放ち、十二枚の羽根を生やした美しい女性が舞い降りた。「女神」その言葉を口にするのに時間はかからなかった。
山々に囲まれた田舎の片隅で、畑を耕し母と二人で細々と暮らしていた。そんな少年の下に女神が舞い降りた。
「女神様?あっ、あなたは誰ですか?」
「私は女神アルカナ。あなたに勇者の力を授けに来たものです」
「勇者の力?」
「はい。あなたの魂は異世界からこの世界に紛れ込んできた特別な魂です。歴代の勇者たちには成し得なかった大成を成してくれることでしょう」
「僕の魂が異世界から?」
女神から告げられた言葉に驚き、自分が何者なのか思考を巡らせる。
「異世界に住んでいたのは前世の話です。今のあなたは、勇者シュウ・アカツキとして目覚めるのです」
女神を包んでいた金色の光がシュウを包み込む。
騎士になりたくて、母に隠れて剣の稽古をしていた。騎士になれば少しでも母の生活を助けられると思っていた。騎士になれなくても剣の稽古をしていれば、冒険者になって成功できるかもしれない。そんな夢を持っていた。でも、そんなのは夢の話で現実には非力な自分ではモンスターを倒すことすら難しかった。
シュウの下に女神様が降臨してから二日後、教会の神官と王国の騎士が会いにきた。
「あなたが勇者シュウ・アカツキですね」
王都からやってきた騎士は優しげな笑顔をした青年だった。それに対して眼鏡をかけた神官は、神経質そうにシュウをチラチラと見つめていた。
「あなたたちは?」
「これは失礼しました。私は王国騎士団所属、クラウド・ハイネスと申します。それと、先ほどから仏頂面をしているのが、神官のマカロフだ」
「誰が仏頂面だ」
クラウドの言葉に反応はしたが、マカロフからの挨拶はなかった。だが、相手が名乗った以上質問には答えなければならない。
「はい。シュウ・アカツキは僕です」
「王女様の下へ神託がおりました。女神が選んだ。勇者が誕生したと。あなたのことで間違いないですね」
「はい。神託を受けました。女神アルカナ様から勇者になるようにと」
「そうか、やはり君が」
シュウは素直に女神が降臨したことを告げた。それは授かった力の凄まじさを実感したからだ。これまで非力な我が身では、母と二人で数日かけて整備していた土地が足った一日で耕すことができた。
剣を振るえば、重く感じていた木の剣が、軽く物足りなさすら感じるようになっていた。腕力や体力だけでなく、足が速くなり、頭の中に文字や知識が流れ込んできた。
それまで使えなかった魔法が使えるようになり、歴代の勇者たちの戦い方などの知識が流れ込んできた。
そんなシュウにクラウドが片膝を突く。
「私達と共に王都に来ていただけませんか?」
クラウドの言葉は嬉しかった。自分が勇者として選ばれたことが誇らしかった。だが、母を一人でここに置いておくことがシュウにはできなかった。
「すみません。ここには母が」
「もちろんお母様も一緒です。あなたには国から王都の家と、お母様が暮らしていけるのに十分な報酬の提示をいたします」
手付金だと置いた麻袋の中には見たこともない金貨が袋一杯に入っていた。
「こっこんなに!」
「どうですか?」
「母も助かります」
会話を見守っていた母は戸惑いながらも、騎士様に膝を突かれるシュウを見て感動したのか涙ぐんでいた。
シュウは勇者として選ばれた名誉、母親が生活に困らない金貨を見て、勇者として第一歩を踏み出した。
騎士と神官が乗ってきた馬車に乗り込み、母を連れて王都にやってきた。王都は見たこともない数の人が道を行き交いしており、行商人しか見たことないシュウは商店を始めてみた。たくさんの物が売られており、煌びやかで賑やかだった。
「凄い」
「街に来るのは初めてかい?」
「はい。他の村には行ったことはあるんですが、街は凄いんですね」
「王都は特にだね。人も、物も、知識も集まってくる」
「知識も?」
「そうだよ。王都にはいくつかの学校があり、優秀な人材が王都に集まるんだ。だから、当たり前の常識から見たことも聞いたこともない知識を学べるんですよ」
クラウドの言葉に、シュウは唯々驚くばかりで、自分以外の生活を知らなかった。
「君には王様に会ってもらうんのだが。流石にその姿じゃ王様に会わせられないな。先に私の屋敷に行って着替えてもらうね。マカロフ、それでいいか?」
「私はここで失礼する。勇者殿の事は貴殿に任せよう」
「わかった」
神経質そうな顔をしたマカロフは、一度シュウの顔を見て頭を下げてから去っていった。悪い人ではないと思うがシュウはなんだか苦手だと思った。
「ちょっと固いところもあるが、良い奴なんだ」
クラウドは気さくで爽やかな人物だった。王国騎士として勤めているのは貴族だけなので、クラウドも貴族のはずなのに、それを鼻にかけて話したりはしない。
「はい。クラウドさんも良い人なんですね」
「よせよ。私は貴族の三男で、騎士になるしか道がなかっただけのしがない名誉貴族さ」
クラウドの屋敷でお風呂に入れてもらい、服を借りてから登城した。城の中は豪華な壺や絵が飾られ、シュウが見たこともない。世界が広がっている。長い廊下を超えて、大きな扉の前に立たされる。
「勇者シュウ・アカツキ殿をお連れしました」
「入れ」
大きな扉が開かれ、謁見の間へと入っていく。左右には甲冑を着こんだ騎士が並び、奥には椅子に座る王様と王妃様。その二人の横に立つ。美しい女性と年老いた男性がいた。
「前へ」
老人の声でクラウドが歩き始め、シュウも後に続く。
「よくぞ参った勇者よ」
クラウドの習って片膝をついて王様への礼を示す。
「はっ」
「貴殿も知っておると思うが、この世界には魔族なる人を害する者たちが存在する。人と魔は長い間戦いを繰り広げていた。そして、今回新たな魔王が誕生した」
「魔王が……」
「そうじゃ、そんなおり、人間族の代表たる勇者が誕生したと、ここにおる王女に神託が下った」
「お初にお目にかかります勇者様シュウ・アカツキ様。私はマルテス王国第一王女ナターシャ・システィア・D・マルテスです。王女の地位と教会では聖女の称号を頂いております」
王女様の挨拶にシュウは唯々頭を下げることしかできないでいた。王女様は、今まで会ったどんな女性よりも美しく、シュウは見惚れてしまった。
「勇者よ。そんなに我が娘を見つめるものではない」
「申し訳ありません」
王様の叱責にシュウは慌てて頭を下げる。シュウのそんな姿に王女が笑い、その場にいた者たちに笑いが広がる。
「うむ。素直な勇者だ。そんな勇者に願う。どうか魔王を倒し、我が国を救ってはくれぬか?」
「女神様から神託を受けた時から気持ちは決まっております。謹んで王様の命、受けさせて頂きます」
「うむ、頼んだ。魔王を倒した褒美は王女とこの国の王となるがよい」
「えっ」
王様の言葉にシュウが驚いていると、騎士たちに拍手が起こりシュウが何かを言う前に退出を促された。
こうしてスレイヤーの最大の敵となる、勇者シュウ・アカツキは誕生したのであった。
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