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勧誘

 追いかけっこはイチさんに取り持ってもらい、なんとか決着を迎えた。


「納得できひんな。まだ時間もあるはずやよ」

「親方様。子供では駄々を捏ねなさんな」

「イッちゃんはどっちの味方なん」


 二人の女性が話し出して、スレイヤーは入り込む余地を失う。


「お二人とも、スレイヤー殿が呆れておられますよ」


 そこに婆やさんがやってきて二人を諫める。


「どうやら姫様の負けのようですね」

「婆やまで。私はまだ負けてない」

「姫様、我々オーガは魔法には弱いのですよ。それを上手く使ったスレイヤー様の勝ちでございます」

「むぅ~」


 膨れた瑠璃姫を引き連れて、スレイヤーたちは屋敷へと戻っていった。


「改めて、先ほどの勝負はわっちの負けや」


 先ほどの戦闘スタイルから、初めて会った時と同じ、着物を着崩した姿で瑠璃姫が目の前に座っている。


「はっ」


 スレイヤーは畳みに頭が付くほど頭を下げたまま、瑠璃姫の言葉を聞いていた。


「表を上げてええよ」


 瑠璃姫の言葉で顔を上げれば、先ほどの膨れていた頬は普通に戻っていた。瑠璃姫とスレイヤーの間には婆やさんとイチさんが瑠璃姫を守るように立っていた。


「スレイヤー、そちの望みを叶えよう」

「ありがとうございます」

「望みを叶える上で、主に提案したいことがある」

「はい。何でしょうか?」


 婆やさんはため息を吐き、イチさんは心なしか嬉しそうな顔をしている。


「あんたをわっちの護衛として採用するさかい。明日からここで働き」

「はっ?」

「何度も言わせな。ラミアを見限り言うてるんや」


 いきなりの勧誘にスレイヤーは言葉を失い、すぐに思考を再起動した。


「いやいや。無理です」

「なんじゃと」


 申し出を頭で理解して、スレイヤーはすぐに断りの言葉を口にした。


「申し訳ありません。ですが、私には目標があるのです。その目標を叶えるために、今はラミア様の下を離れるわけにはいきません」


 スレイヤーは御簾の隔たりがなくなっている瑠璃姫の瞳を真っ直ぐに見つめ、キッパリとした口調で自分の想いを語る。


「なんじゃ、その目標とは?」


 明らかに不機嫌な態度で瑠璃姫が目標について聞いてくる。返答次第ではこの場で殺されるかもしれない。スレイヤーは決死の覚悟を決めて、語りだす。


「私は魔王様の眷属になりたいのです」

「はっ?」


 スレイヤーの言葉に瑠璃姫だけでなく。イチも、婆やも何を言っているのだという顔をする。


「バカなことだと思いますか?ですが、俺は本気です。魔王軍に入ったのですから魔王様の眷属となることを夢見ています。ラミア様にもこのことを告げて、眷属になることをお断りしました」

「あの炎蛇の眷属を蹴ったやて?」


 瑠璃姫としてもラミア様の強さを認めているのか、眷属になる話を蹴ったことが不思議でならないらしい。それでもスレイヤーは瞳を見つめたまま首を縦に振った。


「ハァー、豪胆やね」


 瑠璃姫は自分よりもラミアを先に断ったと聞いて、溜飲が下がったようで、先ほどまでの怒気がなくなっていた。


「スレイヤー」

「はっ」

「険しい道になるで」

「わかっています。それでも、魔王軍で生き残り、必ず成し遂げたいと思っています」

「そうか、わかった。あんたの夢、今回は応援したる。せやけど、わっちがあんたを気に入ったのは覚えておいてや、もしも気が変わるようやったらいつでも家においで」

「ありがたいきお言葉」


 スレイヤーは頭を下げて礼を尽くす。


「コメに関しても毎日はあげられんけど。月に一度なら譲ったるよ。その際になんか代わりになる美味しい物でも持ってき」

「それはもちろんです。もしよかったら俺が作った干し肉があるんですが。皆さんで食べませんか?」


 スレイヤーは赤鬼に渡したソーセージではなく、紐で縛って持ってきたハムを取り出す。


「それはどんな味がするんや?」


 嬉々として瑠璃姫が食いつき、危険だと婆やさんが止める。スレイヤーはナイフを取り出してハムを薄く切り、一切れを自分で食べて、もう一切れを婆やさんに差し出した。

 婆やさんは「毒見の役目を兼ねて」態々口上を述べてから、口の中にハムを入れる。


「これは……味付けは塩だけですか?」

「はい。シンプルな肉の味を楽しんでもらうためです」


 何度か租借を繰り返した婆やは、ゆっくりと飲み込み味付けについて質問を投げかけてきた。


「うむ。家で作っている醤油と合いそうですね」

「どんな味付けにも合うように薄味にしています」

「わかりました。頂いておきます」


 どうやら納得してもらえたらしい。毒など入れていないが、それでも口に合わない場合があるので心配していたが杞憂に終わったようだ。


「婆や、どんな味なんだ?」

「スレイヤー殿、あっしにも少し頂けますか」

「あっズルい。イッちゃんだけなんてズルい。わっちにも」

「姫様はしたないですよ」

「たくさんあるので、いくつか置いていきますね。コメを頂く代わりにと思って持ってきたので」


 どうにか交渉を終えたスレイヤーは、ラミアたちだけでなくオーガ族との交流も深めた。魔王城で生き残るために新たな味方を着実に増やしていた。

 


 


いつも読んで頂きありがとうございます。

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