膝枕
「ゲドー様。お邪魔するのです」
「何だ」
俺の自室をマホが訪ねてきた。
「ゲドー様が大陸を統一してくれたおかげで、外務も少し落ち着いたのです」
「そうか」
もう外敵はいないからな。
これからは内務大臣とやらに就いているオッヒーのほうが忙しくなるだろう。
ふむ。
マホはよく働いている。
少しばかりしもべを労ってやるのも主の務めであろう。
「マホ。来い」
「はいです」
「ベッドに座れ」
「? はいです」
マホは俺の指示通り、ベッドに腰を下ろす。
「足を揃えろ」
「はいです」
言う通りにするマホ。
俺はベッドに寝転がり、マホの太ももに頭を乗せた。
目をぱちぱち瞬かせるマホ。
「膝枕なのです?」
「そうだ」
「眠いのです?」
「眠くはないが、俺の膝枕になる栄誉を貴様に与えてやる」
マホは一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。
「ありがとうなのです」
マホはどこか嬉しそうに、俺の頭を撫でた。
「やめんか」
「栄誉の一環なのです」
「ちっ」
マホは小さな手をゆっくりと動かし、俺の頭を撫でる。
まあよかろう。
俺は寛大だから、こいつの好きにさせてやることにする。
「しかし肉付きの薄い足だな」
「仕方ないのです」
成長遅延の魔法をかけられている限り、マホの肉体的な成長はほとんどない。
「解かんのか?」
「成長遅延の魔法をです?」
「そうだ」
マホは考えるように小首を傾げたが、すぐに口を開いた。
「このままでいいのです」
「ほう」
「解いてしまうと、あと数千年も生きるゲドー様と添い遂げられないのです」
まあその通りだな。
マホは健全な成長よりも、しもべとして俺に付き従うことを選んでいる。
この俺のしもべとして、あるべき姿だ。
「私は今、幸せなのです」
「そうか」
「ゲドー様のおかげなのです」
いい心がけだ。
こいつは主従の関係というものをよくわかっている。
マホは穏やかな表情で、俺の頭を撫で続けている。
こいつもすっかり感情を表に出すようになった。
いい傾向だ。
強者というものは、己が感情で動くことを許される生き物だからな。
俺のしもべである以上、強者としての振る舞いを忘れてはならん。
だが、うむ。
肉付きが薄いとはいえ、膝枕は心地よい。
眠くなってきた。
「マホ。俺は寝ることにする」
寝たいときに寝ることができる。
これも強者の特権の一つだ。
「添い寝をしてもいいです?」
「許可してやる」
「ありがとうなのです」
俺がベッドに横になると、マホも俺の隣に横になった。
「もっと寄れ」
俺はマホを抱き寄せる。
「はいです」
僅かに頬を赤らめるマホ。
「俺は眠い」
「いつでも寝てくださいです」
言いながら、マホは俺の胸に頬をすり寄せてきた。
「ゲドー様……」
すりすり。
うぜえな。
まあいい。
こいつが俺に好意を抱いていることはわかっている。
まあマホだけではないが。
とはいえ俺は無論、こいつらしもべどもに恋愛感情などない。
恋仲など下らん話だ。
だがまあ。
「マホ」
「はいです」
「上を向け」
「? はいです」
マホが俺の言う通り、上を向く。
俺はマホを見下ろして。
唇を重ねた。
「……」
マホは驚いた表情をしたが、すぐに受け入れて目を閉じた。
しばし経って、俺は唇を離す。
マホはぽーっとした表情をしている。
しもべに恋愛感情はないが、きちんと寵愛はくれてやる。
それも主の務めだからな。
「ゲドー様」
そんなことを考えていると、マホがぎゅっと首にしがみついてきた。
「ふん」
俺はもう一度、唇を重ねる。
そして離す。
すると今度は、マホから唇を寄せてきた。
マホの顔は上気している。
俺たちは何度も唇をくっつけては離した。
静かな部屋に、小さな音が幾度も響いた。
何度も何度も、口づけを交わした。
「ゲドー様……」
マホは目がとろんとなっている。
「もうよかろう。寝るぞ」
「はいです」
マホは一際ぎゅっと、俺に抱きついてきた。
鬱陶しいが、別段眠るのに支障はない。
俺はそのまま寝た。
目を閉じる前に見たマホは、頬を染めたまま、幸せそうな表情をしていた。




