ゴブリンと人間は似ているだろ
馬車はガタゴトと進む。
遠くに森が見えたり、その向こうに山が見えたりする。
のどかで飽きる光景だ。
話し相手といえば御者をしているマホしかいない。
だがマホは表情に乏しい。
せっかく俺が会話してやってもほとんど表情を変えない。
感情が薄いんだろう。
「ゲドー様」
「あん?」
「先日の翼竜との戦いのことなのです」
珍しくマホのほうから話を振ってきた。
「ゲドー様は詠唱せずに魔法を行使できるのです?」
どうやら俺が無詠唱で、キロトンの魔法をぶっ放したときのことを言っているらしい。
「できるものとできないものがある」
「キロトンのような中級魔法を、詠唱なしで行使できるのはすごいと思ったのです」
中級?
キロトンなんざ初級もいいところだぞ。
だが、ああそうか。
今の時代の魔法は500年前より衰退しているのだ。
キロトンごときが中級として扱われているとは嘆かわしい。
「俺が作った魔法は無詠唱で使える。何せ自分で作ったわけだからな」
「自分でです?」
マホが不思議そうに返事をする。
「知らなかったのか? キロトンもその上のメガトンも、500年以上前に俺が作り上げた爆発魔法だ」
「そうなのです?」
「ああ」
マホの声色は平坦だが、それでもどうやら驚いているらしい。
「今の時代の魔法使いどもがどんな風に魔法を使ってるのか知らんが、少なくとも俺はあの程度の魔法に詠唱などいらん」
「びっくりしたのです」
全然びっくりしたように聞こえない。
まあ悪い気分ではない。
「では詠唱が必要な魔法もあるのです?」
「無論だ」
自分で作っていなくても、初級魔法程度なら詠唱はいらん。
だがそうでなければ、いくら伝説の大魔法使いといえど詠唱は必要だ。
まあ短縮はできるがな。
「魔法を作れるなんてゲドー様はすごいのです」
「まあ大陸広しと言えど、俺くらいだろうな」
「さすがなのです、ゲドー様」
「クハハハハ」
マホの奴、なかなかわかってるじゃないか。
このゲドー様が褒めてつかわすぞ。
「ゲドー様」
「何だ」
「今夜はあの村に泊まるのです」
前方に農村が見えてきた。
◆ ◆ ◆
寂れていた。
農作業をする村人どもに元気がない。
どいつもこいつも辛気臭い顔をしている。
が、まあ俺たちには関係ない。
さっさと寝る場所を確保するか。
「どうしたのです?」
マホが勝手に村人に事情を聞いていた。
おい、何してやがる。
「実は近くの洞穴にゴブリンが住み着きまして……」
「そうなのですか」
ゴブリンかよ。
誰でも知っている有名かつ下等な魔物だ。
掘り出したジャガイモのようなブサイクな顔つきの魔物で、弱いが繁殖力が凄まじく高い。
「そのゴブリンが農作物を根こそぎ荒らして、困っていたところでさあ……」
「それなら私たちが倒してくるので、一晩の宿を提供してほしいのです」
「おいこら」
「はいです?」
「余計なことをするな。面倒だ」
「通り道の魔物問題は、解決していく方針なのです」
そういえばそんなことを言っていたな。
ヒメールの命令とか何とか。
だがゴブリンごときに俺の手を煩わせようとはいい度胸だ。
「俺は行かんぞ」
「では一人で行ってくるのです」
「そうしろ」
……ん?
待てよ。
「おい、マホ。お前、確か攻撃魔法は使えないんじゃなかったのか」
「使えないのです」
「どうする気だ」
「がんばるのです。死んだらお墓を立ててほしいのです」
「ふざけるな」
いくら敵が雑魚ゴブリンだろうが攻撃手段がなければ勝てるはずがない。
こいつが死んだら俺の封印解除はどうなるんだ。
あと魔力供給も。
そう。
くそったれな封印のせいで、俺は魔力の自然回復を封じられている。
いくら休息を取っても、こいつから補給を受けない限り俺の魔力残量はゼロのままだ。
ええい、くそが。
「行くぞ」
俺は漆黒のローブを翻して歩き出す。
「はいなのです」
マホも杖を片手に、俺の後に続く。
澄ました顔が腹立つなこいつ。
まあいい。
ゴブリンごとき下等生物、一瞬で葬り去ってくれる。
俺たちはゴブリンの洞穴へ向かった。