みんなで
俺がサン・カーク神聖王国を滅ぼしてからというもの。
「ゲドー様。周辺国が続々と、併合の受け入れを申し出ているのです」
「ふん。どうやら見せしめの効果はあったようだな」
「さすがなのです、ゲドー様」
「そうだろうそうだろう」
さすがは俺だな。
そこにキシリーが訪ねてきた。
「ゲドー陛下」
「ゲドー様だ」
「失礼、ゲドー様。我が国の王も、ゲドー王国との併合に賛成した」
「そうか。命拾いしたな」
「ああ。よかった……」
キシリーは心の底から安堵しているようだ。
まあ祖国が俺に滅ぼされるかどうかの選択だったからな。
「ゲドー王国はどんどん大きくなるな」
「大陸がゲドー王国に統一されれば、ある意味では平和になるのです」
「まあ国同士の争いは、嫌でもなくなるからな」
キシリーはマホを見つめた。
「どうしたのです?」
「いや。マホ、少し疲れていないか?」
「私が政務を担当しているので、国が大きくなるほど忙しくなるのです」
「それはそうか……」
マホは自分から疲れを口にしない。
見た目に反して体力があるのだろうが、精神力も強いということだ。
しかしマホが疲労で倒れては困るのも確かだ。
「マホ」
「はいです」
「貴様、今日の政務は休め」
マホは目をぱちぱちした。
「休むと滞るのです」
「暇そうな大臣にやらせておけ」
「でも」
「黙れ」
俺はじろりとマホを見据える。
「俺の言葉は絶対だ」
「……わかったのです」
うむ。
「でも休んでどうするのです?」
「飯を食う。皆を集めろ」
◆ ◆ ◆
食堂に一同が会した。
俺、マホ、エルル、シーリィ、オッヒー、キシリー、ヒメールだ。
「うわーっ。大きな食堂だねえ。さすがお城だよー」
「こ、こんな食堂、初めてです……」
エルルとシーリィは仲良くきょろきょろしている。
「豪華な食事が並んでいますわ」
長テーブルには肉や野菜、果実などが所せましと並べられている。
「マホが作ったのか?」
「今日は私はお休みなので、作ったのは宮廷シェフなのです」
「そうか……。やはりマホには休息も必要だ」
「ありがとうなのです」
俺は一番最初に席に着く。
もちろん一番の上座だ。
「着席しろ」
「はーい!」
全員、左右に分かれて席に着く。
ただしヒメールだけは立っている。
うむ。
こいつは侍女だからな。
どうやらきちんと侍女としての教育を受けているようだ。
「ヒメール」
「はい、ゲドー様」
「特別に許可する。一緒に食え」
「ありがとうございます」
ヒメールは俺に頭を下げると、一番の下座へ腰を下ろす。
「よし。食うぞ」
「いただきます!」
俺は肉にフォークを突き刺してかぶりつく。
もぐもぐ。
むっしゃむっしゃ。
うむ。
マホの料理に匹敵するほど美味だ。
逆に考えれば、宮廷シェフの腕に並ぶマホの奴は大したものだ。
食らう。
食らう。
「ゲドー様」
マホが隣に来て、フォークに刺したニンジンを差し出してくる。
「野菜は好かん」
「あーんなのです」
「ちっ」
俺はニンジンを食う。
ふむ。
程よいニンジンの甘みが口内に広がる。
まあこれなら悪くないな。
口を動かす俺を見て、マホはご満悦そうだ。
「ゲドー様、どぞーっ」
「げ、ゲドー様。どうぞ」
エルルとシーリィも、俺に肉や果物を差し出してくる。
俺はそれらを食らう。
エルルはにこにこしている。
シーリィは恥ずかしそうだ。
「ゲドー様、あーん」
「わ、ワタクシもですの? あ、あーん……」
キシリーは穏やかな表情をしている。
オッヒーは頬を染めている。
「ヒメール。貴様もやれ」
「わ、私もですか……?」
「そうだ」
「……わかりました」
ヒメールが俺の隣まで来て、肉を取り分けて差し出す。
「げ、ゲドー様。あーん……」
「苦しゅうない」
「うう……」
ヒメールは羞恥で顔を赤くしている。
よい。
飯とは楽しみながら食うものだ。
こいつらも何だかんだ言って楽しんでいる。
ヒメールは知らんが。
俺は満足だ。
味も、料理を女に取り分けさせるのもな。
これぞ強者の特権と言えよう。
◆ ◆ ◆
次は無論、風呂だ。
王城だけあり大浴場だ。
「あ、あ、あの……」
シーリィが幼い身体にバスタオルを巻きつけて、恥ずかしがっている。
顔が真っ赤だ。
「大丈夫だって、シーリィ。一緒にゲドー様の背中をながそーっ」
エルルがシーリィの背中をぐいぐい押している。
「な、なぜワタクシが入浴まで一緒に……」
オッヒーもバスタオル姿で顔を赤くしている。
腕で身体を隠そうとしているが、逆に豊かな胸を押し上げていることに気づいていない。
「……」
ヒメールに至っては耳まで真っ赤だ。
バスタオル姿だからよくわかるが、こいつもプロポーションはいい。
元王族だけあって、肌も白いから見栄えがする。
「ゲドー様、背中を流すのです」
「よきにはからえ」
ごしごしごし。
ざばーっ。
マホはやはりご満悦だ。
こいつも表情が豊かになった。
俺のしもべとしては、こうでなければならん。
「あっ、ボクも流すよーっ。シーリィも一緒に」
「う、うん……」
ごしごし。
ごしごし。
ごしごし。
ざばばーっ。
ちっこいのが3人揃って俺の背中を流す。
シーリィが一番ぎこちない。
まあ初めてだからな。
だが女に背中を流させるというのは気分がいいものだ。
ごしごし。
ごしごしごし。
ごしごしごしごし。
「何だか楽しくなってきたよー」
「そ、そうだね……」
「楽しいのです」
ちっこいの3人は和気あいあいだ。
「では私たちも流すとしようか」
「ワタクシ、こういうことは慣れていませんのよ……」
俺は大浴場の真ん中で仁王立ちになる。
「ヒメール、貴様もだ」
「ううう……」
真っ赤な顔のまま、ヒメールもスポンジを持って近づいてくる。
「ヒメール殿。こういうことは、恥ずかしがっていると余計にやりにくいものだ」
「そ、そう申されましても……」
キシリーの助言もヒメールの羞恥を後押ししただけだ。
「この大陸の頂点に立つ最強のゲドー様の肉体だ。崇め奉りながら綺麗にするがいい」
「とてつもなく偉そうですわ……」
「ふふっ」
オッヒーがため息をつき、キシリーが微笑する。
ごしごし。
ごしごしごし。
「うううう……」
2人に続き、ヒメールもぎこちない手つきで俺の身体を洗う。
下手だ。
だがまあこれから上手くなればよい。
俺は寛大だからな。
ごしごし。
ごしごし。
「ヒメール、もっと力を入れろ」
「ううううう……」
ヒメールはもう頭から湯気を出しそうなほど真っ赤になっている。
「キシリーとオッヒーは悪くない。褒めてつかわす」
「そ、そうか」
「ま、まあそれならよかったですわ」
2人は恥じらいながらも嬉しそうにした。
「よし。湯船に浸かるぞ」
ざばーっ。
全員で湯に浸かる。
浴槽も泳げそうなほど広いから何も問題ない。
「気持ちいいねーっ」
「うん、すごく」
シーリィは風呂にあまり馴染みがないせいか、人一倍気持ちよさそうにしている。
マホは頬を上気させ、「はふぅ」と息をついている。
「ああ……。旅の疲れが取れるようだ」
「ワタクシも剣の訓練の疲労が癒されますわ……」
キシリーとオッヒーも気持ちよさそうに目を閉じている。
「……」
ヒメールは一人、隅っこのほうでうずくまっている。
「ヒメール。俺の隣に来い」
「で、ですが……」
「いいから来い」
「……はい」
ヒメールは遠慮がちに俺の側まで来ると、またうずくまった。
「ヒメール。貴様は本来、この俺の手によって殺されていた」
「はい」
「だが生き延びた」
「……はい」
「貴様はその程度の幸運は持ち合わせているということだ」
ヒメールが俺を見上げる。
「己が幸運に胸を張るがいい。そして誇るがいい。弱者でありながら、このゲドー様の庇護下に入れたことをな」
「……」
ヒメールは複雑そうな表情をしている。
「ヒメール様」
マホが声をかける。
「今度、一緒に料理をするのです」
「マホ……」
ヒメールが驚いたような顔をする。
「ヒメールさん、今度うちのお店に遊びにきてよーっ」
「エルルのお店じゃないよぉ。でも、もしよければ遊びに来てください」
エルルとシーリィも声をかける。
ヒメールはまた驚いたように瞬きをする。
「ヒメール殿。ゲドー様の庇護下に入るというのは、そう悪いことではないと私は思う」
「まあ大陸最強の存在というのは、不本意ながら頼もしいものですわ」
キシリーとオッヒーも声をかける。
ヒメールはそんな2人を見比べる。
「ヒメール様。考え方一つで、己の境遇も世界の見え方も、全然違うのです」
「考え方……」
マホの言葉を受けて、ヒメールは自分の胸に手を当てる。
ヒメールはそれぞれを眺めて、しばらく目を閉じていたが。
「そう、ですね……。私はある意味では、幸せなのですね」
程なくして、ヒメールは自分に言い聞かせるように頷いた。
そしてもう一度、俺を見上げた。
「ゲドー様。侍女としては未熟者ですが、これからもよろしくお願いいたします」
ヒメールは深々と頭を下げた。
「心根を強く持て。さすれば寿命が尽きるまでこの俺に仕えさせてやる」
俺がふんぞり返ると、ヒメールはくすっと笑った。
「はい。ゲドー様に仕えさせていただきます」
◆ ◆ ◆
国王用のベッドは当然ながら大きい。
だがそれでも7人は少々手狭だ。
「ちょっと狭いですわ……」
「オッヒーの胸が場所を取ってるんだよー」
「な、何を言いますの!」
ぎゅうぎゅう。
「あ、あの……」
俺の隣のヒメールは、またも顔が真っ赤だ。
隣というか俺に抱きついている形だ。
「こうすればスペースが空くのです」
マホがもぞもぞと、俺の上に乗ってきた。
「あーっ、ずるい。ボクもそうするー」
エルルも俺の上に乗っかって、身体にしがみついた。
「じゃ、じゃあ私も……」
シーリィも俺の上に乗ってきた。
「邪魔だ貴様ら。俺は乗り物ではないぞ」
「えーっ、だって狭いんだもん」
ぎゅうぎゅう。
「げ、ゲドー様」
キシリーもヒメールの反対側から、俺にぎゅうっと抱きついてきた。
「わ、ワタクシはそんなはしたないことは……」
そう言いながら、オッヒーも身を寄せてくる。
鬱陶しい。
大層鬱陶しいぞ。
「えへへー。ゲドー様、さいきょーだけあってモテモテだねー」
エルルがにこにこしている。
その通りだ。
最強の俺は女を侍らせて当然なのだ。
だからこれでよい。
ちと鬱陶しいが、これも強者の証だ。
「ゲドー様」
マホが俺の首に、ぎゅっとしがみついてくる。
「えへへー」
エルルも反対側から首にしがみついてくる。
「あ、あう……」
シーリィが俺の胴体に抱きつく。
うぜえええ。
「貴様ら、寝るぞ」
「はーい」
「も、もうちょっと寄ってもいいだろうか」
「ワタクシも……」
「うううううう……」
「早く寝ろ雑魚ども」
首や胴や腕にぎゅうぎゅうに抱きつかれながら、俺は就寝した。
残り5話で完結の予定です。




