サン・カーク神聖王国
サン・カーク神聖王国軍。
およそ3万。
マホが持ってきた情報だ。
まあ大軍といえよう。
ヒメールの話によれば、元マンマール王国軍は全軍あわせても1万がせいぜいらしい。
出兵だけで3万を動員できるとなれば、それは大国の証だ。
だがこのゲドー様にかかれば塵芥も同然だ。
「ククク。いるわいるわ。有象無象の群れが」
俺は飛翔の魔法で、上空からサン・カーク軍の進軍を眺めている。
ぞろぞろぞろぞろ。
まるで甘味に向かうアリの群れだ。
もちろん甘味とはゲドー王国のことだ。
街道を進軍しているせいで、サン・カーク軍は縦に伸びている。
おあつらえ向きだ。
「ふははははは!」
俺はサン・カーク軍の行く手を塞ぐように、街道に降り立った。
「むっ、止まれ!」
「何者だ!」
「どこから現れた!」
俺は街道の真ん中で仁王立ちになる。
「俺は邪悪なる大魔法使いゲドーだ」
名乗るとサン・カーク軍がざわざわし始める。
「まさか」
「本人だと!?」
「いやしかし、特徴は一致しているぞ」
ざわざわ。
ざわざわざわ。
うるせえな。
程なくして、指揮官と思しき偉そうな甲冑男が進み出てきた。
不遜にも俺を馬上から見下ろしてくる。
こいつは死刑だな。
まあ全員殺すが。
「貴様、本当にゲドー・ジャ・アークか」
「左様」
「一人でのこのこ姿を現して、いったいどういうつもりだ」
「無論、貴様ら木っ端屑どもを滅ぼしに来てやった。光栄に思え」
「ぐぬ……」
言い切る俺に、甲冑男が怒りで顔を真っ赤にする。
「どうした。甲冑を着込みすぎて熱いのか? ん?」
「き、貴様……!」
「無謀にもこの俺を倒しに来たのだろう? 御託はいいからかかって来い」
「ぐぬううう……!」
俺が指をちょいちょいとすると、甲冑男はゆでだこのようになった。
「全軍、突撃いいいいい!」
「うおおおおー!」
サン・カーク軍が俺に向かって突撃してきた。
ぞろぞろぞろ。
まるで羽虫の群れだ。
「クククク。はははははは!」
俺は印を描いて詠唱する。
「邪悪なる大魔王! 死ねえええええ!」
軍の先頭が俺に到達する瞬間――。
「ザンデミシオン」
バリバリと波動を撒き散らしながら、極太の稲妻がサン・カーク軍を飲み込んだ。
有象無象どもが一瞬で蒸発していく。
稲妻はそのまま街道を直進し、軍の最後尾まで到達した。
そして街道に焼跡を残して稲妻は消滅した。
「……」
稲妻の進路から漏れた幸運な兵士どもが、数百人くらいは残っただろうか。
だが3万いた軍の大半は肉片すら残らず消滅していた。
サン・カーク軍は壊滅した。
「ふはははははは! はーっはっはっはっはっは!」
俺は哄笑する。
圧倒的な力でアリの群れを踏み潰すのは大層心地よい。
「ひっ、ひいいい!」
「た、助けてくれええ……!」
生き残った兵士たちがほうほうのていで逃げ出す。
まあ残りカスなんぞどうでもいい。
俺にはもう一つやることがある。
俺は飛翔の魔法を唱えた。
◆ ◆ ◆
俺は王都サン・カークまで飛んだ。
サン・カーク神聖王国の首都であり、王城がある。
俺は王城の窓から飛び込んだ。
ちょうど謁見の間だ。
「なっ、何者じゃ!?」
「曲者だ! であえ、であえー!」
国王や大臣は驚き、騎士どもがぞろぞろと俺を囲んでくる。
俺はそれを意に介さず、腕を組んだ。
謁見の間の中心で、周囲をぐるりと睥睨する。
ふん。
どいつもこいつも阿呆面を晒しておるわ。
「な、何者じゃ」
「邪悪なる大魔法使いゲドーだ」
「なっ……」
謁見の間に動揺が広がる。
騎士どもの顔に緊張が走る。
「ほ、本人なのか?」
「無論だ。たった今、貴様らが我が国に差し向けた3万の軍を滅ぼしてきた」
「な……。ば、馬鹿なことを!」
ざわざわざわ。
謁見の間が騒然とする。
「貴様らの軍が首尾よく目的を達していれば、俺が遠路はるばるここまで出向けるはずがない。そうだろう?」
「そ、それは……」
国王と大臣の顔色が悪くなる。
「さて。寛大な俺は、貴様らに2つの選択肢をくれてやる」
「選択肢じゃと……」
「そうだ」
俺はゆっくりと指を2本立てた。
「ゲドー王国に併合されるか、あるいは滅ぶかだ」
「ふ、ふざけるな!」
「そんなもの選択肢でも何でもないわ!」
ざわざわざわ。
騒然としていた謁見の間は、怒りの雰囲気に包まれた。
「考える時間がほしいか? どれくらいだ?」
「舐めおって。考えるまでもないわ!」
「邪悪なる大魔王ゲドー。この場で打ち倒してくれる!」
周囲の騎士どもがずらりと剣を突き付ける。
クククク。
ふはははははは!
いいぞ。
そうこなくてはな。
俺は詠唱する。
俺の身体がバチバチと黒い波動を放つ。
「者ども、かかれっ!」
「うおおおーっ!」
国王の号令で、騎士どもが一斉に突撃してくる。
俺は両腕を広げた。
さらばだゴミども。
せいぜいあの世で、神とよろしくやるがいい。
「ギガトン――」
サン・カーク神聖王国は消滅した。




