ゲドー陛下
数日が経った。
ゲドー王国に目立った変化はない。
民衆もこれまで通りの暮らしを送っている。
だから暴動なども特に起きていない。
俺としては暴動ごときいくら起きても構わんのだが、いささか拍子抜けだ。
そこにオッヒーが訪ねてきた。
「ゲドー陛下、ご機嫌麗しゅう。このたびは国王への就任おめでとうですわ」
さすが元王族だけあってオッヒーの礼儀作法は様になっている。
だが俺は堅苦しいのが嫌いだ。
「膝をつくな。いちいちかしこまるな。これまで通りに接せ」
「わかりましたわ」
オッヒーは俺をじいっと見つめてくる。
「何だ」
「いえ。ゲドー様も玉座に腰掛けていると、雰囲気が違うというか、王様に見えるというか」
「ふん。俺の荘厳なオーラはどこにいようがいささかも衰えんわ」
「そうですわね」
オッヒーはくすっと笑った。
「それで何の用だ」
「怪我から復帰したので挨拶に来たのですわ」
「少々殴られたくらいで寝込みおって、軟弱者が」
「最強のゲドー様にやられたのですから、命があっただけ幸運ですわ」
「まあな」
まあな。
最強の俺にやられたのなら仕方がない。
「それにしてもゲドー王国なんて、とんでもないことを考えましたわね」
「俺は強者だ。すなわち支配者だ。何の不思議もあるまい」
「本当に大陸全土を支配するつもりですの?」
「無論だ」
オッヒーは何事かを考え込んでいる。
「何だ」
「ゲドー様は確かに最強ですけども、そう簡単に事が運ぶとは思えませんわ」
「ほう、なぜだ?」
「例えばサン・カーク神聖王国ですわ」
「知らん」
オッヒーはため息をつく。
「邪悪は滅ぶべしをモットーにした過激な宗教国家ですわ。しかも強国ですの」
「ほう」
「ゲドー様の公言はすぐに広まるでしょうし、そうすればこのゲドー王国に攻め込んでくる可能性が高いですわ」
「ほお……」
ククク。
そうか、そんな骨のある国家があるのか。
それは楽しみだ。
「……悪いことを考えている顔ですわね」
「いい見せしめになる。このゲドー様に逆らうとどうなるかを、他の国々に知らしめてくれよう」
「まあゲドー様の魔法があれば敵ではないのでしょうけれど」
オッヒーは二度目のため息をつく。
「挨拶も済んだので、ワタクシは宿に戻りますわ」
「待て」
「何ですの?」
俺はふんぞり返って、近くの侍女に申し付ける。
「こいつのために部屋を用意しろ」
「かしこまりました」
侍女が一礼して謁見の間から出ていく。
「ゲドー様?」
「貴様は俺のしもべだから、この城に滞在するがよい」
「いいんですの?」
「無論だ。この俺に奉仕せよ」
「……わかりましたわ」
◆ ◆ ◆
翌日。
キシリーが訪ねてきた。
「ゲドー陛下、このたびは……」
「膝をつくな。俺は堅苦しいのが嫌いだ」
「そ、そうか」
「これまで通りにせよ」
「ゲドー様がそう言うのなら」
キシリーは立ち上がると咳払いをした。
「ゲドー様、大陸を統一するのか?」
「そうだ」
「では私の国も?」
「この大陸の国々には、2つの選択肢がある」
俺は指を2本立てる。
「ゲドー王国に併合されるか、あるいは滅ぶかだ」
「そ、そうか……」
キシリーが顔を引きつらせる。
「貴様も祖国を滅ぼされたくなければ、急いで国に戻って王や大臣を説得するんだな」
「……そうしよう」
キシリーは踵を返そうとして、ふと立ち止まった。
「ゲドー様」
「何だ」
「その……」
キシリーは指をもじもじさせる。
「説得が終わった後なのだが、私をゲドー様に仕えさせてくれないだろうか?」
「何だ、そんなことか」
「い、いいのか……?」
俺は鼻を鳴らす。
「好きにせよ。この国の騎士団にでも加入するがいい」
「そ、そうか!」
キシリーは嬉しそうだ。
うむ、よきかな。
こいつも俺のしもべとしての自覚が出てきたようだ。
「では失礼する。急ぎ国へ戻らなければ」
◆ ◆ ◆
その翌日。
「ゲドー様ーっ!」
エルルが訪ねてきた。
「あっ、王様になれてよかったね!」
こいつは堅苦しくないな。
「何の用だ」
「あのね、シーリィのお店が繁盛してるんだよ」
「ほう」
まあ当然だな。
この俺が監修をしてやったのだ。
潰れていたらただでは済まさんところだ。
「それでね、この国にも支店を出したいんだって」
「好きにしろ」
「えっ、いいの?」
エルルはきょとっとした。
「営業許可とかそういうのないの?」
「知らんが俺が許すと言えば、それは許可されるのだ」
「そっかあ。ありがとー」
エルルはえへへーと笑う。
「本店のほうは副店長に任せて、シーリィはこっちの支店を盛り立てるんだって」
「そうか」
「だからボクもシーリィも、会いたいときにゲドー様に会えるよー」
エルルはにこにこしている。
相変わらず能天気な奴だ。
「ゲドー様も暇なときにお店に遊びにきてねーっ」
◆ ◆ ◆
更にその翌日。
「ゲドー様。サン・カーク神聖王国が攻めてきたのです」
マホが告げる。
「サン・カーク神聖王国は声明を発表しているのです」
「ほう」
「『この平和な大陸を脅かす邪悪な大魔王を、神聖神サン・カークの名において打ち倒さん』」
「はははははは!」
何と愉快な連中だ。
そして度し難い愚か者どもだ。
「どうするのです?」
「決まっている。神だか何だか知らんが、このゲドー様が誅罰を下してくれる」
俺は唇を歪めた。
「全員死刑だ」




