待っていたのです
かっぽかっぽ。
うっまうっま。
俺たち4人は街道を北上する。
俺(※生首)はエルルに抱えられてロバに乗っている。
オッヒーとキシリーはどちらも馬だ。
「エルル、ずっとゲドー様を抱えているのも疲れるでしょう。そろそろ代わりますわ」
「えーっ、ボクまだ大丈夫だよ!」
「そう言わずに」
エルルとオッヒーが俺の取り合いをしている。
「わ、私もできれば次あたりゲドー様を抱えてもよいだろうか……」
その横でキシリーが、指をもじもじさせている。
こいつらうるせえな。
まあ険悪な雰囲気だと旅路に支障をきたす。
こいつらの仲がいいのは悪いことではない。
「おい、しもべ。喉が渇いた」
「あっ、水どうぞー」
エルルが水筒を俺の口に運ぶ。
「苦しゅうない」
「えへへー」
エルルは嬉しそうだ。
俺の役に立つことに喜びを感じているのだろう。
いい心がけだ。
やはりしもべというのは従順でなければならない。
無論、心身ともにある程度の強さも必要だ。
弱者はこのゲドー様のしもべとして相応しくないからな。
「ヒャッハーーー!!」
突然、野盗どもがわらわらと道を塞いだ。
「てめえら、痛い目に遭いたくなければ金品を置いていきな!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーー!」
「ヒャッハーーー!」
うぜえ。
何十人も合唱するな。
「しもべども、追い払え」
「うんっ、任せて!」
「おい、俺を放り出すなボクッ娘」
エルル、オッヒー、キシリーが次々と馬から飛び降りる。
「ヒャッハー! こいつら逆らう気だぜ」
「やっちまえ!」
「ヒャッハーーー!!」
うぜえええ。
「やああーっ!」
「はあっ!」
「ふっ!」
ドカッバキッザシュッ!
「ひいいーっ! 命ばかりはお助けをー!」
野盗どもは散り散りになって逃げ去った。
「やったね!」
「他愛ないですわ」
「野盗が出没するとは困ったものだ」
ふむ。
こいつらの動きを見ていたが、それぞれ出会った当初よりも腕を上げているな。
人間、短期間で成長するものだ。
俺は500年以上前から変わらず最強だが、最強ゆえにこれ以上の成長は見込めない。
まあ成長の必要もないがな。
凡人が短期間で成長する姿というのは、いつ見ても新鮮なものだ。
逆に成長すらしない凡人など何の価値もない。
ただのゴミだ。
こいつらをしもべと見込んだ俺の慧眼に誤りはなかったようだな。
◆ ◆ ◆
「おい、鹿がいるぞ」
「いますわね」
「鹿肉を食いたい。狩れ」
「らじゃー! 弓は任せて!」
ドシュッ。
「おい、コカトリスがいるぞ」
「いるな」
「鶏肉を食いたい。狩れ」
「仕方ないですわね」
ザシュッ。
「おい、まるまる太った地竜がいるぞ」
「いるねー」
「竜肉を食いたい。狩れ」
「任せてくれ」
ドゴッバキッ!
「む、無理だよー」
「さ、さすが竜ですわ……」
「私たちの勝てる相手ではなかった……」
不甲斐ない雑魚どもだ。
◆ ◆ ◆
俺たちは街道を北上する。
この街道には見覚えがある。
俺とマホが魔王の居城に赴くときに通った道だ。
あれから何日たったのか。
いや、何十日か。
何百年を生きた俺からすれば僅かな時間だが、それでも懐かしく感じる。
この街道をずっと北上しても、もう北の大地はない。
俺が消滅させてしまったからな。
かっぽかっぽ。
うっまうっま。
俺たちは北上する。
前方に人影が見える。
街道の真ん中に立っている、小さな人影。
南を向いてじっと立っている、ローブの人影。
俺たちが近づくと、その人影は顔を上げた。
「……ゲドー様」
マホは俺を見て、僅かに微笑んだ。
「お帰りなさいです」




