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4人でお泊り

 仮設小屋は木造の小屋だった。


「おい、狭いし粗末だぞ。このゲドー様を何と心得る」

「すまない、ゲドー様。代わりに夕食は腕によりをかけよう」

「許してやるから早くしろ」


 俺は腹が減った。

 胴体はないが。


 狭いとはいえ、最低限の炊事ができる設備はある。

 まあ仮設でこれならマシなほうか。


「あっ、キシリー。夕食はボクも手伝うよ!」

「おお、助かる。エルル」

「わ、ワタクシは料理の腕にはあまり自信がありませんわ……」


 オッヒーは元王族だからな。

 冒険者になる前は、包丁一つ握ったこともなかったのだろう。


「ふふっ、私の腕も自慢できるほどではない。それよりせっかくだから3人で作らないか? そのほうがきっと美味しい」

「いいね! ボクは大賛成だよー」

「そうですわね。お邪魔にならない程度でしたら」


 3人揃って仮設キッチンに立つ。

 真ん中に最も料理が得意と思われるキシリー、左右にエルルとオッヒーという布陣だ。


「おい、早くしろ」

「もーっ。ゲドー様せっかちだよー」


 俺は一度、キシリーの料理を食ったことがある。

 あのときのキシリーはマホの補佐として料理をしたに過ぎなかったが、まあまあ悪くない出来だった。


「では私は肉の仕込みをするから、エルルはニンジンの皮を剥いて切ってくれるか?」

「おっけー!」

「ワタクシは何をすれば?」

「オッヒーはジャガイモを頼む」

「わかりましたわ」


 3人でわいわいしながら調理をしている。


 それぞれの横顔を見ると、キシリーは他の2人の様子を窺いながら、穏やかな表情で料理をしている。

 何やら子を見守る母親のような雰囲気を醸し出している。


 エルルはうきうきと楽しそうに皮剥きをしている。

 さほど上手くはないが下手でもないといった具合だ。


 逆にオッヒーの包丁使いは少々危なっかしい。

 皮もやや分厚く剥いている。

 だが表情は楽しそうだ。


 俺という共通点があるので、それぞれ仲間意識を感じているのだろう。


 まあ沈鬱な雰囲気で料理をされても、飯が不味くなるからな。

 これはこれでよい。


「ワタクシ冒険者になってからは、自分の分を一人で作ることしかしていませんでしたの」

「へーっ、そうなんだ」

「だからこういうのは、何だか新鮮ですわ」

「私も同感だ。こうした機会はあまりないからな」

「楽しいねー」

「そうですわね」


 わいわい。


 ザクザク。

 剥き剥き。

 ぐつぐつ。


 わいわい。


 こいつらうるせえな。


 程なくして。


「かんせーい!」

「ゲドー様、待たせたな」

「今運びますわ」


 テーブルに皿が並ぶ。


「兎肉のグリルに鶏肉と野菜のスープ、サラダ、ドライフルーツだ。飲み物は済まないが水しかない」


 俺の目の前に香ばしい香りの料理が積まれる。

 うむ、よきかな。


「うわーっ、美味しそう!」

「キシリーの腕前はすごいですわ」

「オッヒーとエルルががんばってくれたおかげだ」


 それぞれテーブルを囲むように着席する。


「よし、食うぞ」

「いただこう」

「いただきまーす!」

「いただきますわ」


 最初にキシリーが兎肉を切り分けて。


「ゲドー様、どうぞ」


 俺の口に運ぶ。


 うむ、こいつはわかっている。

 一口目は俺なのだ。


 もぐもぐ。

 むっしゃむっしゃ。


 ほう。

 悪くない。


 宮廷料理人並の腕を持つマホには及ばないが、それなりの味だ。


 この仮説キッチンでこの程度の味を出せるなら、まあ合格点といえよう。


「おいしーい!」

「皆で作ったとなると、普段より美味しく感じますわ」


 エルルとオッヒーも満足顔で料理を口にしている。


「ゲドー様、あーん」


 エルルがスープをすくったスプーンを差し出してくる。


「苦しゅうない」


 スープを飲む。

 鶏肉と野菜の味がきちんと染みていて、まずまずの味だ。


「ゲドー様、どうぞ」


 キシリーがまた兎肉を差し出してくる。

 こいつはわかっている。

 俺は肉が好きなのだ。


「……改めて見ると、首だけテーブルに乗っている図はすごくシュールですわ」


 オッヒーが俺たちの光景を見てため息をつく。


「貴様もやれ、オッヒー」

「わ、ワタクシもですの……!?」

「早くしろ」

「くっ……」


 オッヒーは顔を赤らめながら、肉を刺したフォークを俺の口元に運ぶ。


「げ、ゲドー様。あーんですわ……」


 羞恥心のせいか手がぷるぷる震えている。


「もっと近づけろ。食えんではないか」

「は、はいですわ……」


 ぷるぷる。


 もぐもぐ。


「苦しゅうない」

「は、恥ずかしいですわーっ」


 オッヒーが手で顔を覆っている。


「ふふ……。わかるぞ、オッヒー。私も最初は恥ずかしかった」

「今は恥ずかしくないんですの?」

「恥ずかしいが、この身が多少なりともゲドー様の役に立てると思うと、喜ばしいという気持ちのほうが強いな」

「ねーねー。キシリーとゲドー様ってどうやって会ったの?」

「うん? そうだな……」


 3人は俺にあーんをしながら、それぞれ会話を弾ませている。

 内容は俺との冒険譚だ。


「それで山を吹き飛ばしたときのゲドー様は、まさに鬼神のようで……」

「おおーっ、さすがはゲドー様だねえ」

「恐ろしいですわ」


 わいわい。


 語るキシリーの表情には尊敬の念が現れている。


「あのね、ダークエルフを倒したときの魔法がちょーすごくて」

「さすがはゲドー様だ」

「凄まじいですわ」


 わいわい。


 語るエルルの表情はとても楽しげだ。


「悪魔を一刀両断したときのゲドー様は、身震いするほどでしたわ……」

「へーっ。見たかったなあ」

「想像できるだけに怖いな……」


 わいわい。


 語るオッヒーの表情は、心なしか誇らしげだ。


「形は違えど我々は皆、ゲドー様に大恩があるのだな」

「うん!」

「不本意ながらそうですわね」

「またまた、不本意なんて思ってないくせにー」

「なっ、お、思ってますわ!」


 わたわたするオッヒーを、エルルがじとーっと見つめてから笑う。

 それを温かい目で眺めるキシリー。


 端から見れば3姉妹に見えなくもない。

 この場にマホの奴がいれば4姉妹か。


 俺は3人に代わる代わるあーんされながら飯を味わった。


「うむ、俺は満足した」

「それならよかった。腕を振るったかいがあった」

「ほんと美味しかったよー」

「ご馳走様ですわ」


 3人もほくほくしている。


 やはり飯だな。

 美味い飯は人生に欠かせないものだ。


 もちろん風呂と女もだ。



◆ ◆ ◆



 だが誠に遺憾ながら、こんな仮設小屋に風呂など付いていなかった。

 全員、水で身体を拭いただけで済ませる。

 まあ俺の首は、エルルに甲斐甲斐しく拭かせたがな。


 そしてもちろん豪華なベッドなど望むべくもない。

 当然ながら一人用だ。


 ぎゅうぎゅう。


「狭いよーっ」

「さすがに無理があるのでは」

「何で3人ともベッドで寝るんですのーっ」

「貴様らやかましいぞ」


 なぜだと?

 決まっておる。


「このゲドー様が、女を侍らせずしてどうする」

「でも狭いですわ」


 俺はオッヒーとキシリーにぎゅうぎゅうと挟まれている。


「うぐぐ……。これ寝てる間に落ちそうだよー」


 エルルはベッドから落ちないようにキシリーの腰にしがみついている。


「狭いかどうかは関係ない。俺が気分よく眠れるかどうかだ」

「し、しかしゲドー様。これはちょっと密着しすぎでは……」


 キシリーが顔を赤らめる。


「このワタクシが殿方と一緒に寝るなんて……」


 オッヒーも顔を赤くしている。


 全くもってやかましい。


「貴様らはこのゲドー様と一緒に眠れるほどには上等な女ということだ。誇るがいい」

「わーい、やったー」

「ま、まあそう言われると悪い気はしないが……」

「2人とも単純ですわね……」


 オッヒーが俺の頭をぎゅうっと抱える。


「もういいですわ。案外こういうのも楽しいですし」

「ボク眠くなってきた……」

「そうだな。明日もあるのだ、寝ることにしよう」


 キシリーも反対側から俺の頭を抱える。


 ぎゅうぎゅう。


「ええい、苦しいわ。密着しすぎだ」

「ゲドー様、わがままですわ」

「ふふっ、全くだな」

「みんなおやすみ~」


 エルルがいち早く寝息を立て始める。


「皆、おやすみ。よい夢を」

「おやすみですわ」


 キシリーとオッヒーも目を閉じた。


 ふん。

 全く騒がしい連中だ。


 まあ俺は寛大だから我慢してやるがな。

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