復興する都市
かっぽかっぽ。
俺とエルルを乗せたロバは街道を進む。
うっまうっま。
オッヒーを乗せた馬が並走している。
元王族だけあってオッヒーは見事に馬を乗りこなしている。
まあ乗馬は王族のたしなみというからな。
「あっ、見て。何か城壁が見えてきたよ!」
エルルが前方を指さす。
「城塞都市ですわね。今日はあそこで一泊しましょう」
前方に見えるのは確かに城塞都市だ。
というかアレだ。
魔王四天王の竜に焼かれて、壊滅状態になっていた都市だ。
「何だか城門に商人の出入りが激しいですわね」
「お祭りでもあるのかなー?」
俺たちは特に咎められることもなく城門を通過した。
「わーっ。何これ!」
「いったい何があったんですの!?」
2人が驚くのも無理はない。
城門をくぐった先は酷い有様だった。
建物はあちこち壊滅し、黒く焦げて焼け落ちている。
町の中心にある時計塔も、半ばから折れて半壊している。
あそこは俺とマホが、最初に竜と対峙した場所だな。
要するに町並みは見る影もなく、全体的にボロボロだった。
しかし着目すべきはそこではない。
「おいっ、こっちだ! 運べーっ!」
「石材はここだ!」
「おうい、木材が足りないぞ!」
町はごった返していた。
資材を運び込む商人や、建物を修繕する職人がいたるところで汗を流している。
「わあー、すごい熱気だねえ」
「皆さん、忙しそうにしていますわ」
エルルとオッヒーがきょろきょろしている。
町は復興過程にあった。
ボロボロではあるが、どいつもこいつも忙しく働いている。
一度は壊滅した都市が、いったいどこからこんな資材や人材を調達したのだ?
まあしかし、そんなことはどうでもいい。
俺がゆっくりとくつろげる場所を探すのが先決だ。
「おい、しもべども。このゲドー様のために風呂つきの宿を取れ」
「ええーっ。そんな宿が残ってるとは思えないよー」
「では今すぐ建築しろ」
「無茶にもほどがありますわ」
俺たちが言い合いをしていると、横合いから声がかかった。
「おや、その声はゲドー様ではないか?」
荷車で石材を運んでいた女が進み出てくる。
騎士っぽい風体をしている。
というかキシリーだった。
「何だ、ゲドー様もこの町に戻って……うわあーっ!?」
エルルに抱えられている生首の俺を見て、キシリーは悲鳴を上げた。
「く、く、く、首っ!? ゲドー様、成仏してくれ!」
「やかましいわ雑魚騎士」
「そ、その言い草はまさしくゲドー様だ……!」
キシリーは恐々と、しかしまじまじと俺の生首を見つめる。
「ほ、本当に首だけ……。いったい何が……」
「ゲドー様、知り合い?」
エルルとオッヒーが、俺たちをきょろりと見比べる。
それに気づいて、キシリーが咳払いをした。
「失礼した。私は騎士のキシリーだ。ゲドー様には先立って大変世話になったのだ」
「そーなんだ。ボクはエルルだよ!」
「オッヒーですわ」
キシリーは騎士の礼をする。
それを受けて、オッヒーが王族の礼を返す。
エルルは元気よくぴっと手を挙げる。
「しかし、ゲドー様はいったい……」
「魔王との闘いが激しく、その余波で首だけになってしまったそうですわ」
「ということは魔王を討伐したのか!」
キシリーは大層驚いている。
「魔王はもういないんだよ。世界は平和になったんだよ。すごいでしょー!」
「なぜ貴様が偉そうにする、ボクッ娘」
キシリーは俺をしげしげと眺める。
「そうか。ゲドー様ならばと信じてはいたが、本当に魔王を倒してしまうとは……。凄まじいな」
「俺を誰だと思っている。当然の結果だ」
「ああ、そうだな……。ゲドー様、さすがだ。心から尊敬する」
キシリーが心酔にも似た目で俺を見つめる。
悪くない気分だ。
やはり強者は崇め奉られてこそ強者といえよう。
「ところで、エルル殿にオッヒー殿」
「殿なんてくすぐったいよー。呼び捨てにして!」
「ワタクシも今は一介の冒険者、呼び捨てで構いませんわ」
「そうか。ではエルルにオッヒー。首ゲドー様を抱えて、いったい何を?」
キシリーが俺の頭を撫でながら問う。
やめんかくそが。
「何でも北にいるマホのところまで運んでほしいそうですわ」
「そうなのか」
キシリーは少し考え込むと、一つ頷いた。
「よければ私も同行させてくれないか? ゲドー様には大変世話になったし、たくさん恩があるのだ」
「足手まといだ」
「うん、いいよー。騎士のキシリーが一緒なら心強いよ!」
「ワタクシも異存はありませんわ」
「おい貴様ら」
俺の意見を無視するなゴミども。
「でもキシリー、いいの?」
復興作業の様子を見て、エルルが問う。
「キシリー。この町は壊滅状態ではなかったのか?」
俺も疑問を口にする。
「ああ……。前にも言ったが、この国と我が国は同盟関係にある。いくら壊滅状態といっても国がまだ残っている以上、復興を支援するのは当然だ」
なるほど。
キシリーの国から資材や人材を運び込んでいるというわけだ。
「とはいえ、我ら騎士には建築のノウハウがない。私にしても、資材を運ぶ以外に何もできることはないのだ」
キシリーが少し苦い顔をする。
「そういうわけで騎士団長の許可は必要だが、私一人が抜けても何も問題はないはずだ。何より魔王を討伐した救世主の手伝いとあれば是非もない」
「この俺を救世主と呼ぶな。胸糞悪い」
「あ、ああ……。すまない、ゲドー様。ともかくそういうわけで、私が抜けても復興作業に支障はないのだ」
そう言って、キシリーは手を差し出した。
「そういうわけでエルルにオッヒー、よろしく頼む」
「よろしくね、キシリー!」
「こちらこそですわ」
それぞれ握手を交わす3人。
「ところでキシリー。今日はこの町に一泊したいのですが、どこか泊まれるところはありませんの?」
「そうだな……。町は見ての通りの有様で、上等な宿はないが、木造の仮設小屋なら空きがある」
「何い。このゲドー様を犬小屋に押し込めようというのか貴様」
「もーっ。そこしか空きがないんだから我慢してよーっ」
俺たちのやり取りを見て、キシリーが目を細めて笑った。
「ゲドー様は変わらないな。何だか安心した」
「俺は永遠に最強だ」
「ふふっ、そうだな。ゲドー様は最強だ」
キシリーがまた俺の頭を撫でる。
ええい、何たる屈辱だ。
「食材も相当量が搬入されているから、豪勢とまではいかないがそこそこの夕食をご馳走できると思う」
「苦しゅうない。さっさと用意しろ」
「やったー。ボク、お腹減ったよ!」
「はしたないですわ、エルル」
俺たちを案内するキシリーは、何だか嬉しそうだった。




